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第507話◇

 玲央は、良いって言ってくれる。分かってる。そこは。  ……けど、いいのかなあ…?  ほんとに、何か、後で困ること、ないのかな??    オレは多分、皆に騒がれる位で、特に何の被害はないと思うけど。  …………希生さんとかに、おうちの方とかが大丈夫か聞いてからの方が、いいのではないだろうか。  うーんうーんうーん……?  考える程に、よく分からなくなってきた。 「優月」 「……ん?」  呼ばれて視線を向けると、恭介が、オレを見て笑ってる。 「何悩んでんの?」 「――――……悩んではないけど……ちょっと考えてる」 「それを悩んでるって言うんじゃねーの」  恭介に言われて、少し考える。そっか、と笑うと、恭介も可笑しそうに笑った。 「さっきから何で難しい顔してんの?」 「してる?」  聞くと、恭介は苦笑いで頷いた。 「すげーしてる」 「んー……あのね、恭介」 「ん」 「……オレと付き合ってるって言う事が――――……」 「ん」 「相手の人に、迷惑かけるかも、て、ちょっと思ってて」 「――――……んー???」  複雑極まりない顔で、恭介がオレを見つめる。 「……何それ。そういう事言いそうな相手なの?」 「……ううん。言わない」 「ああ、良かった」 「ん?」 「そんな事言う相手なら、別れちまえばって思ったから」  はは、と笑う恭介に、ふふ、と笑ってしまう。 「言わないよ。誰にでも言って良いって、言ってくれてるんだけど……」 「――――……」  そこで黙ったオレに、恭介が、首を傾げた。 「そんな難しい相手なのか?」 「――――……難しい……訳じゃないんだけど」 「でも、普通に相手のこと話せないとか、よっぽど……相手、芸能人とか?」 「……うーん……」  芸能人……そうなのかなぁ。バンドやってるし……。  でも今問題なのは、芸能人ってことよりは、男同士ってことなような……。 「なんかよくわかんねえな――――......あ。もしかして」 「……?」  恭介が近付いてきて、耳元でこっそり。 「相手が、男、とか?」 「――――……」  びっくりしすぎて、固まった。  囁いたまま、至近距離でオレを見た恭介は。 「――――……あ、マジ?」 「――――……っ」  恭介は、めちゃくちゃ苦笑いでそう言って、びっくりしたままのオレを見て、クッと笑い出した。 「あー、なるほど。……全部繋がったわ。さっと言わないで話引っ張って、この席で言うって言ってたのも、ほんとにいいのか悩んでるのも」 「……っなんで、分かるの……」 「わりーな、鋭くて」  すっごい楽しそうに、笑ってる。 「いんじゃねえ? 相手が良いって言ってんなら。今時そんな珍しい話でもないし」    クスクス笑いながら恭介はそう言う。    あまりに容易くバレたことに、ずーんと内心沈みながら。 「……あのさ」 「ん?」 「……恭介は、今の聞いて、どう思った?」 「どうって――――……? いや、別に」  少し考えてから、立てた膝に肘をついて、顎をのせる。 「特にどうって……例えば何を?」 「……男同士、とかさ」 「――――……ああ。でもそれ、優月が決める事だろ。別にオレは、そうなんだって思うだけだけど」 「――――……」  恭介っぽいな。  ふ、と笑ってしまう。 「ありがと」 「礼言われるのもよく分かんねえけどな」 「でもなんか、ありがと」  見つめ合って笑ってたら、吉原がオレ達の横に座った。 「さっきからこそこそ何話してんの」 「ああ。優月の好きな奴の話」 「何、もう聞いたの?」 「いや誰かは聞いてないけど。男ってとこまで」  あ。言った。超軽く。もー。  でも、瞬間的に、もはやどうでもよくなった気がして、苦笑いが浮かんでしまう。 「え、そうなの?」  吉原は、少し驚いた顔でオレを見た。  でも、オレが、うん、と頷くと。 「へー。良い奴?」  と、聞いてきた。うん、と言おうと思った瞬間。 「優月が変な奴と付き合う訳ねーじゃん」  なんて恭介が笑う。  まあそっかと、吉原。 「大学に居るんだっけ?」  と聞かれて、ん、と頷いた。  ――――……まだ誰かは言ってない。  「オレが男と付き合ってる」ってことだけ。  それに対する反応が予想外に小さいのは、相手がこの二人で、今ここで静かに話してるからかなとは思うんだけど。    これ。  ……玲央だって言った場合は。どうなるんだろう。  吉原は玲央の事も昔から知ってるし。  多分、誰も知らないどっかの学部の誰かなら、もしかしたら、皆もこんな反応で終わるのかもしれないけど。  ……玲央、なんだよね。  ここ二週間、オレがちょっと玲央と絡んでるだけで、皆があれやこれや聞いてくる位有名な人……。  玲央なんだよー……。  どうしよう。ほんとに良いのかな。  改めて思いながら、瞬きがやたら増えたまま、二人を見つめてると。  二人同時に吹き出された。 「え?」  何で笑うんだろ。と固まっていると。 「何なんだよ、お前」 「リスかよ」  恭介と吉原がそんな事言いながら、めちゃくちゃ笑い出した。    

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