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第511話◇
「玲央、ごめんね、外で結構待った?」
「二曲目くらいだったかな。曲聴いてたから全然……。つか、オレ、あそこで待ってて良かったのか?」
「うん」
「オレとってことは隠すんだったら、オレ行かない方がよかったんじゃねえの?」
玲央はそう言って、苦笑い。
「玲央に、隠れてもらうとか、なんかやだったから……」
「――――……」
玲央の手が、首に回って、そのまま、引き寄せられる。
「まあ可愛いんだけど……何か思う事があって、名前は隠したんじゃないのか?」
「……玲央のおうちってさ」
「ん」
「すごいおうちなんでしょ?」
「……んー。すごいと、して? 何?」
「迷惑かかったり、しないの?」
「家に?」
「うん」
「オレが、男と付き合ってるって事で?」
「……うん」
玲央は、オレを引き寄せたまま歩いてたけど、ふ、と少し離れて顔を覗き込んできた。
「オレがどっちもいけるっつーのは前から噂だったって言ったろ」
「……でも、どっちもてよりも……男とって……平気?」
「――――……今考える限りは、平気だと思う。じいちゃんが味方だし。言ったろ、うちで一番権力強いの、じいちゃんだから」
「――――……」
希生さん……。
玲央の雰囲気ある、カッコいいおじいちゃん。優しい笑顔を思い出すと、大丈夫かもと思えるから、なんだか不思議。
やっぱり、似てるな。希生さんと、玲央。
そう思うと、久先生も蒼くんも、同じイメージがある。
希生さんと久先生もずっと仲良しなのは、やっぱり似てるところがあるからかなあ。印象が柔らかいのは久先生だけど。任せてしまったら、どんなことでも大丈夫な気がしてしまうところ。なんかそこ皆、似てるなぁ……。
思い出しながら、うん、と頷くと。
「もし、平気じゃなくても平気にする」
「――――……」
「だから、何も気にすんな」
「――――……」
よしよし、と頭を撫でて、そのまま下りた手が、オレの手に触れた。
指を絡められるみたいに手を繋がれて、ふ、と玲央を見上げる。
「もう人気ねーし。いいだろ」
「……うん」
嬉しいな、と。
すごく思う。
「オレの家の事が気になって、言えなくなったのか?」
「……うん。聞いてからにしようかなって……だから今日は、付き合ってるのは男の人だよってことだけ言うことにしたんだけど……最後多分皆分かったと思うんだけどね、でも、今日は聞かないって、皆が言ってくれて。だから、皆には、言ってない」
「誰かには言ったの?」
「うん。一番仲良くしてる友達だけには、言ったよ」
「そっか」
クスっと笑いながら、玲央が頷く。
「玲央のこと、イケメンナンバーワンだろ、って言ってたよ?」
クスクス笑いながら言うと、ん? と不思議そうにしてから、あぁ学祭のか、と苦笑い。
「あれ、バンドの宣伝になるから、出てこいって、勇紀が勝手にエントリーしたんだよ」
「あ、そうなんだ」
……そうだよね、玲央が自分からは出ないよね。
そんな事しなくてもイケメンなんて、皆知ってるだろうし。
「オレ、あの時、初めて玲央を見たのかも」
「――――……そーなの?」
「うん。すっごいモテる、バンドしてる、その……いっぱい相手が居る人、の噂だけ知ってて――――…… で、その時遠くから、一位になってるとこ見たの」
「……優月って、そーいう噂、敏感?」
「――――……」
プルプル首を振ると、だよな、と玲央が笑う。
「お前にまでその噂届くってことは、もう学校全員知ってんのかもな」
クスクス笑って、玲央がオレを見下ろす。
「……んで?」
「え?」
「一位になってるとこ見て、どー思った?」
「あー……うーん。たしか、なるほどー、って思ってた気がする」
「はは。なるほど?」
「あれだけカッコよければ、そりゃモテるだろうなあって」
「納得したの?」
「うん。そうだった気がする」
ふ、と可笑しそうに笑って、玲央が、繫いでない方の手を、伸ばして、オレの頬に触れた。そのまま、足を止めて、見つめ合う。
「オレ、今、お前のだけど」
「……?」
「……オレ、お前のだけ、になってるだろ」
「――――……」
「どー思う?」
近くで見つめられると。
瞳がキラキラしてる気がする。
「……やっぱり、信じられないかも」
「――――……」
「そう思うと、なんでだろって、思う。やっぱり長い夢かもって」
ほんとにそんな気がする、と思って笑ってしまいながら、玲央を見上げる。
「……そっか」
クス、と笑って、玲央が少し背をかがめて――――……。
キス、してくれた。
「……夢じゃないけどな」
至近距離の玲央に、めちゃくちゃドキドキする。
鼓動が激しすぎて、痛いような気すらする。
「帰って、夢じゃないって、教えてあげよーかな」
ちゅ、と頬にキスしながら、クスクス笑って玲央が言う。
繫いだ手を引かれて、また歩き始めた。
もうドキドキが凄すぎて……ほんと、困る。
夢じゃないのは、やっぱり、もう思い知ってる。
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