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第569話◇
翌朝。目覚めて、ぼーっとして。
あ。また。……玲央、居ない。
…………また、綺麗にしてくれてる……。
……玲央は何時に寝て、何時に起きたんだろ。
目をこすりながら、起き上がって、ぼー、と考える。
起きよう……。
かかっていた布団をどけて、動こうとしていた時。ドアが開いて、玲央が顔をのぞかせた。
目が合うと、ふ、と優しくゆるむ瞳。
「おはよ、優月」
……尊いって。たまに聞いたことある言葉が。
何だか唐突に自分の頭に浮かんできた。
正しくは意味が分からないまま、頭の中でスルーしてた言葉だったけど、きっとこういう気持ちの時に、使う言葉なんじゃないかなと、急に思った。
優しいし、笑った顔カッコいいし、服似合っててカッコいいし、動きもカッコいい。もうドキドキしまくりなのに、玲央が近づいてきて、ベッドに座った。
「自然と目、覚めた?」
「うん……」
オレ、毎朝、めちゃくちゃ爽やかで、カッコいい玲央しか見てなくて。それに対して、オレってば、なんかぐーぐー寝すぎっていうか。しかも、夜だって、絶対先に寝てるのに。
玲央は、オレの負担の方が大きいから、慣れるまでいいよとか、そんなこと言うけど……。
オレを見てた玲央が、クスクス笑い出して、オレの方に手を伸ばしてきた。
頬に触れられるのかと思ったら、髪の毛に触れて。
「寝ぐせ」
「あ」
咄嗟に押さえて、擦ってみるけど。
「直んねーな。シャワー浴びといで」
優しく笑って、玲央は言う。
「――――……寝ぐせとか……」
「……?」
「何なのかなー」
微笑む玲央に抱き寄せられて、すっぽり包まれる。
「何なの、寝ぐせついてるだけで、こんな可愛いとか、ほんと何?」
「――――……」
……何って言われると。
……玲央の目が、不思議モードになってるとしか、思えない。
玲央と一緒に起きれずに、ぐーぐー寝てて、寝ぐせつけてる間抜けなオレを、「こんな可愛い」って言うのは、全然意味が分からないけど。
「あー、可愛い」
ちゅ、と額にキスしてる。
「……シャワー浴びにいこ」
手を取られて、ベッドから下ろされて、そのまま手を繋いでバスルームへ連れていかれる。
「ざっと浴びて出といで。作って待ってるから。服、そこに置いといた。それでいい?」
「うん。何でも……ありがと」
そう言うと、よしよし、と撫でられて、脱衣所のドアが閉まった。
シャワーを浴びながら。
玲央がキスした額に触れる。
世の中には、あんなに自然に、あんなにカッコよく、
おでこにキスとかしちゃう人が、居るんだなあ……。
……オレ、玲央じゃない人と。例えば女の子と付き合ってたら。
あんなことしてあげられたかなあ……?
ちょっと想像してみる。
――――……おでこにキス、は。
……まあ、出来たかもしれない。しようと思えば。うん。
でも、カッコよくは、無理だろうなあ。
そんなことを思ったら、ふ、と吹き出してしまった。
玲央って特別すぎる。
はっ。
あとでアルバムとか、見せてもらおう。
きっと赤ちゃんの時は可愛かったに違いない。
幼稚園くらいまでは可愛かったかなあ?
小学生位までは……ちょっと丸かったり? 可愛かったよね、きっと。
どこらへんから、あんな感じでカッコよくなっていったんだろう。
わー、すっごい、見たいな、アルバム。
わくわくしてきた。
まだ時間早いのかな。ご飯食べたらアルバム……。
ささっと洗うと、急いでバスルームを出て、玲央が用意してくれた服を着る。さっきからそうかなと思ってたけど、オレが持ってきた服じゃない。
半袖の白の、すごく着心地の良い、サマーニット。
気持ち良いな……。
リビングに行くと、玲央がすぐ振り返って、オレを見た。
「似合う」
「買ってくれたの?」
「ん。似合いそうって思って」
嬉しそうに笑いながら寄ってきて、両頬を手で包まれる。
「白も似合うよなー。イメージピッタリなんだよな、優月」
「――――……そう??」
「そう。綺麗なイメージ」
「……オレ、そんなイメージ?」
「そんなイメージ」
クスクス笑いながら、玲央が頬にキスしてくる。
……この人は、ほんと、どこまで、甘々に、優しくなるんだろうか。
もう、オレ、ほんとに。
ドキドキの鼓動が、オレのデフォルトになってしまいそうなんだけど……。
(2022/10/17)
次ページ、本編をお休みして、番外編のSSを置きます(*'ω'*)
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