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第570話◇

 玲央と大学の正門で別れて、教室に入る。  それぞれの授業で、大体は座る席、一緒に受けるメンツが何となくは決まっている。今日もいつものところに向かった。 「おはよー」  そう言うと、ふ、とオレを見上げた皆が、「おはよ」と言いながら、めちゃくちゃ見てくる。金曜のクラス会のメンバーは今は居ないんだけど……もう知れ渡っちゃったのかな? と思いながら、とりあえず空いてる席に座った。 「優月、なんかさ」 「うん?」 「オシャレんなった気がする」 「ああ、オレもそう思うー」 「誰かも言ってた」 「何だろなあ。髪型かな?」 「服もなんか、違うよな?」  皆が立て続けに言ってくる。 「――――……」  えーと……玲央がオレをちょこちょこ弄るようになってから、これほんとに皆が色々言ってくる。……ほんとに、皆、よく気づくというか……。  何て答えるのが正解なんだろ? 「自分で選んだ? 服」 「えーと……これは、違う」  白い服を見ながら、そう答えると。 「へえ? プレゼントなの?」 「うん」 「高そうだよなー、なんか」 「そうなの?」 「なんか質、良さそうじゃね?」  ……服の値段とか、高そうとかも、全く分からない。  玲央が着てると、なんでもカッコよく見えるけど。  玲央が着てると確かになんでも高そうに見えるけど……。  これ、高いのかな……? でも皆がそう言うならそうかもしれない。 「なんか優月、可愛くなってくような気ぃすんね?」 「たしかにそんな感じー」  それを言ってる皆も、聞いてる皆も、あははー、とか笑ってるから、本気なのか、冗談なのかはよく分からないけれど。  可愛いなんて言葉に、さっき、正門前で別れる前の玲央が、頭によみがえる。  玲央と別れようとした時、服から顔まで視線を動かして、玲央はクスッと笑った。 「可愛いな、優月。その服、似合うだろうと思ったけど、マジで似合う」  すり、と頬に少しだけ触れて、見つめられる。  正門前だからかな。一瞬だけで、離れた。 「そ、う? ありがと」  嬉しくて微笑むと、玲央が、んー、と口を少し尖らせた。 「あんまり可愛くなるのもなあ……」 「?」 「迫られても、キスさせるなよ?」 「へ――――……え? 誰が?」 「優月が。迫られても」 「――――……」  真顔なので、益々意味が分からない。 「オレ、迫られないと思うし……キスなんか、絶対させない、けど…??」  思うまま、そう答えると。  玲央は、分かってるんだけど、と言ってから、笑う。 「でも優月、オレと最初に会った時、キスさせてって、断らなかっただろ」 「――――……」  確かに。そういう言い方をしてしまえば、確かにそうなのだけど。 「……だって――――……玲央、だった、から」  思わず言った一言に、玲央はぴた、と固まった。 「……?」  不思議で顔を見上げると。  玲央は、は、とため息。 「……それさ」 「……それ?」 「オレだったから、ってセリフ」 「……うん?」  じっと玲央を見つめると。 「可愛いって、分かって言ってる?」 「――――……」  言われて、良く分からず、思わず首を傾げてしまった。  ……迫られてもキスするなとか、びっくりなこと言われたから、玲央だったからだって、言っただけだし。  だって、玲央だったから。  多分もう、一目惚れみたいな感じだったんだと思うんだよ……。  じゃなきゃキスなんて……。  困りはてて、玲央を見つめていると。  玲央はオレの困り果てた視線を受けて、ふ、と微笑んだ。 「……初対面の時も、オレだからキス、断らなかったんだろ」 「……うん」 「他の奴だったら?」 「……男も女も、いきなりキスなんてされたら、やだよ」 「ふうん……」  玲央はなんだかとっても嬉しそうに笑うと。  オレの頭に触れて、くしゃくしゃ、と撫でた。  なんだかやたら、嬉しそうな玲央と、バイバイして、ここに来たんだっけ。 「優月またぼーとしてる」  クスクス笑われて、はっと気づく。 「また彼女のこと、考えてんの?」 「服も彼女?」  周りが好きに話してくる。  オレは時計を見て――――……少し時間がある事を、確認。 「あのさ」 「ん?」 「声出さないでね?」 「は?」 「なになに?」  周りの皆が、ん、と頷いてる。  なんか、金曜のクラス会の感じだと。  きっと、皆、平気な気がして。 「どうせ、その内伝わると思うんだ、クラス会で言ったから」  うんうん、と皆が頷いてる。 「オレの付き合ってる人ね……男、だから。彼女じゃなくて、彼氏、なの」  皆、ちょっとびっくりした顔をして。  一人だけ騒ごうとした友達は、両隣に口を塞がれてる。  ふふ、と笑ってしまう。 「冗談――――……じゃないよな?」  一人が言って。  皆が見てるので。 「うん」  と、頷くと。  皆、へーーーとか。なるほどー、とか、そんな感じ。  何かオレ。  ……大丈夫な気がしてきた。

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