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第576話◇

 ほんと、不思議な位可愛いなあ、なんて思いながら。  周りの視線に気づいて、普通の会話を無理やり引っ張り出す。 「何食べた?」 「アジフライ定食……」  言いながら、不意に楽しそうに笑う優月。ん? と見つめると、ますますにっこり笑って、少し首を振った。 「ううん。玲央は何食べるの?」 「んー。見てくる。じゃな」  なんとなく、優月の周りに居る連中の視線を感じつつ。  ……もしかして、金曜のクラス会に居た奴らかな?とも思いながらも、どうせバレかけてたし良いかと、優月に軽く手を振って別れた。  甲斐の所について、荷物を置いていったん座る。すると、甲斐に笑いながら「優月のとこ寄るんだな」と言われた。 「? 何が?」 「なんかさぁ。ずっと一緒に朝まで居て、また学校終わっても一緒なんだろ? なのに、昼、わざわざちょこっとでも、優月のとこ、行くんだなーと思ってさ」  クックッと笑ってる楽しそうな甲斐の言葉に、少し考える。  確かに。  ……別に今行く必要はないのかも、しれないが。 「……自然と足が向かった」  そう言うと、ますます面白そうに甲斐が笑う。 「だから、それ。……そんなのもさ、初めてだろ?」 「――――……まあ。確かに。そうかもな」 「かもじゃねえよ」  そう言ってるところに、颯也がやってきた。 「なんの話?」  甲斐が笑いすぎなので、そう聞かれる。 「ずーっと一緒に居るくせにさ、わざわざあそこの優月のとこに寄ってくるんだよ、玲央」  甲斐の指さす方向を見て、優月を確認した颯也が、ああ、と笑った。 「……つーか、優月って、いっつも、平和な顔して笑ってるよな」  クスクス笑って、颯也が言う。 「あれを玲央が好きっていうのだけで、オレは結構笑える」  クスクス笑う颯也に、もう好きに言ってろ、と、苦笑い。  颯也の言葉に、平和な顔? と思いながら、ふと視線を向けた優月は、確かに平和そうに……なんだかすごく楽しそうに笑ってる。  無邪気な感じ。ずーっとあのまま居てほしいなと、思ってしまう、あの感じが愛しいけど。  ……でも、優月に触りだすと、途端に表情変わるんだよなーと思ってから。  まっ昼間の食堂で、あんな無邪気な笑顔を見ながら何考えてんだと自問する。先に食事を買いに行ってた勇紀が、アジフライ定食を持って戻ってきた。 「オレらも買いに行こうぜ」  そんな甲斐の言葉に、ゆっくり立ち上がりながら。  オレもアジフライ食べよ。  なんて思ってから。  ……これは決して勇紀の真似ではない、と思う自分が、自分でもおかしい。  なんとなく、優月と同じものでいいや、と思って。まあ別に他に特別食べたいものもないし、なんて自分に言い訳をしつつ立ち上がると、なんだかまだとても楽しそうに笑ってる優月を一瞬目に移す。  何をあんなに楽しそうに笑ってんだろ、とか。  ――――……今まで、気にしたようなこともないことが、気になったり。  マジで、不思議だ。  こういうのって、気にしようとしてなくても、自然と気になるものなんだな。  優月との間で、初体験のことが、多すぎる。

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