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第616話◇
玲央が可愛い、と思って、その背に手をまわして、ぎゅ、と抱きつく。
しばらくそのままくっついていたけど。
「……結局、時間結構経ってるな?」
苦笑いの玲央がそんな風に言って、仕方なさそうにオレを少し離して、見つめてくる。
「一緒に朝ごはん作る?」
言われた瞬間、めちゃくちゃ嬉しい。
「作る作る! 何、作る?? 玲央、何食べたい?」
そう言った途端に、ふ、と面白そうに笑われる。
「何でそんな嬉しそう?」
「だっていっつも玲央が先起きてて、ご飯作ってもらっちゃってるから。一緒に作ろうって嬉しい」
早く作りに行こう、何作ろうかって、ウキウキして歩き出そうとしたのだけれど、腕を掴まれて、ん?と思ったら。
「――――……んー……」
玲央に引き寄せられて、また腕の中にすっぽりはまる。
「……あれ??」
なぜ??
思いながら、見上げると。
「……もーだめ。可愛いから、離さない。ベッドいこっか」
「え」
「一日くらい休んでも良くない?」
「え?」
「……いつも出てるから大丈夫、よしベッドいこ」
「…………っ」
抱き締められてたまま、下からひょい、と抱えられて、歩き出した玲央に、何も言えずにいると。
脱衣所を出た所で、降ろされた。
「いやって言わないと、連れ込むよ、ベッド」
クスクス笑いながら、キスされる。
「…………」
…………とっても、困ったことに、嫌、ではないオレが居てしまう。んだけど。辛うじて、いい、とも言わずに堪えていると。
「……はー。しょうがねーか。行くか。ご飯作り」
「……うん」
頷くけど。
ちょっと残念。とか。
……思っちゃうあたり。
…………玲央となら何でもいいとか。
オレってば、いいのか、これで……とちょっと思う。
気づいた玲央に、ふ、と見下ろされて。
「残念そうな顔しないで。マジで連れ込むよ」
「……うー……」
唸ってると、ちゅ、とキスされて、クスクス笑われる。
「……断んないと、オレに好きにされちゃうぞ、優月」
「…………」
だから良いよ、なんて。思ってるんだよ、オレ。
もう、今の玲央は完全に冗談で言ってるだけで、そんな気が無さそうなの分かってるのに。
はー……困ったな。
玲央が好きすぎて。ふらふらと誘惑に乗ってしまいそうな……。
ちょっと前のオレだったら、そんなのでサボるとかありえないというか、そんなのそもそも、考えもしないというか。普通に普通にごくごく、まじめだったと思うのだけど。
「……オレね、思うんだけど……」
「ん?」
「……好きすぎちゃうっていうのもね、困っちゃうっていうかさ。なんかもう……他がどうでもいいとか言っちゃいそうになっちゃうんだよね……。でもそれじゃダメなのはちゃんと分かってるんだけど……でも好きすぎて、いいよ、休んでもって……言いたくなっちゃう」
「――――……」
ちょっと困るから不満に思いながら、そう言ったら、玲央が、ちょっとびっくりしたみたいな顔でオレをずっと見てて。
オレが言い終えたと同時に、クッと笑い出して、オレを、抱き締めた。
……抱き締めたというか、オレに覆いかぶさって、笑ってるというか。
「……優月が、他がどうでもいいって思う位、オレのこと好きなんだなっていうのは、分かった」
クックッと笑いながら、玲央がそんなことを言っている。
「面白いな、優月……」
その後も何だか知らないけど、ずっと笑ってて。
「ダメなのはちゃんとわかってるんだ?」
そんな風に言って、ずっとクスクス笑いながら、玲央はずっとオレの後頭部をなでなでしてる。
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