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第719話◇

 優しいキスが触れて、すぐ離れる。 「髪、乾かすから座んな」 「うん」  言われるまま、座ると、玲央がドライヤーのスイッチを入れる。  こっちに来ても、やってくれるんだなあとホクホクしつつ。  この部屋に玲央がいることを、やっぱり、不思議に思ってしまう。  この部屋の一人暮らしも一年。すごく楽しかった。  初めて実家を離れて、寂しさも感じたけど、一人ってワクワクもしたり。  家事とかも、全部自分でやらなきゃいけなくて、今までやってなかったようなことも、自分でやるようになって、一年。結構成長したかなあ、とか、思ってた。  隣に春さんも居て、ちょこちょこ会話もできたから、すごく孤独な感じも無かったし、友達も泊りに来たりしてたし。  乾かしながら、優しく触れてくれる玲央の手を気持ちいいなと思いながら。  あと三年は、ここに居ると思ってたから。  ここを出るのかぁ、と思うと、感慨深いというか……。  玲央のところに行くのは嬉しいんだけど、ここがなくなるのは少し寂しいような気もして、なんだか、すごく色々な気持ちが浮かぶ。  玲央と一緒に居たいから。玲央のところに、住む。  もう色々起きる、全部の変化が、ただ、「玲央が好き」というそれだけのためなんだなあって、思うと、すごいことな気がする。  オレ達って、会ってすぐ、こんな感じで、そのままずっとこんな感じで。  なんか勢いのまま、ここまで来てるけど。 「はい、おわり」  玲央がドライヤーを止めて、よしよし、と頭を撫でた。振り返って、玲央を見上げる。 「ありがと」  笑顔で言うと、玲央は、ん、と笑って。  優しい手が頬に触れて、そのまま、オレにちゅ、とキスをした。 「ドライヤーしたての優月、可愛い」 「……ふふ」  その言葉、いつも言うので、ふ、と微笑んでしまう。  可愛いかな?って最初は疑問だったんだけど、なんとなく、玲央がそう思ってくれているってことは、ちょっと受け止めてきたような。  ドライヤーのコードをまとめてる玲央を見上げながら、「あ」と声が出る。 「ん?」 「玲央もね、可愛いよ?」 「ん?」 「ドライヤーしたての時」  手を伸ばして、玲央の髪にふわ、と触れる。 「玲央も、すごく可愛い」  そう言って笑うと、玲央はしばらくオレを見てたけど、そのうち、クスッと笑って、頬に触れてくる。ドライヤーをテーブルに置くと、両方の手で、頬を挟まれた。 「オレは可愛くないけど、そう言ってる優月が可愛い」  すりすりされてると、とっても幸せで。 「玲央、可愛いよ」 「……なんかオレは、可愛いって言われるの、複雑なんだけど」  クスクス笑って、玲央がオレにキスしてくる。 「でも可愛いって言ってる優月が可愛いから、まあいっかって感じ」 「ん、ん」  何回も、ちゅうちゅうキスされて、舌が口内に触れて、びく、と震えると、深く重なってきた。 「……ん」  柔らかい、キス。  ゆっくりで。熱くて。優しい。 「……れお」  少し唇が離れた時に、名前を呼ぶと、玲央がふわ、と笑う。 「ん」  と返事をしながら、また唇が触れてくる。  キス魔の玲央さん。  ……ほんとにほんとに。キス、好きなんだろうなーと思う。  オレも。  好き、だけど。 「――――……ゆづき」  うわ。……もう。  キスとおんなじ感じの、めちゃくちゃ、ゆっくり、名を呼ばれて。  愛しそうに、見つめられると。  心臓が、痛すぎて。  全然慣れない、この感覚。 「……」  不意に、玲央の手が服の裾から入ってきて、左胸に直に触れた。 「ひゃ」  びっくりして、固まって、胸に触れたままの玲央と見つめ合っていると。 「心臓、すごいな」  くす、と笑って。  また瞳を細める。  そういう顔するから。そんな顔で、キスばっかりするから。  そうなっちゃうんだよう……。  顔まで熱くなってきて、その頬に、クスクス笑う玲央がキスしてくるし。 「かわい……」  めちゃくちゃ笑いを含んだ声で言われると、もうなんかどうしてたらいいのかも分からなくなる。 「優月の心臓、はやすぎ」  言われなくても、玲央に触れられてて、余計自分の心臓がどきどきしてるの、実感してるし。 「……玲央のせいだもん」  思わずそう言ってしまうと。 「……知ってるけど」  ぷ、と笑われて。 「知ってるなら、もうちょっと加減してください……」 「……無理。可愛いから」  クッと笑い出しながら、ようやく胸から手を離して、オレをすぽ、とまた抱き締める。 「……んー。なんかいちいち触りたくなるの、どーしてかな。色々しなきゃいけないのにな?」  そんなことを言いながら、玲央は、クスクス笑っている。    

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