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第720話◇
しばらくくっついてたけど。
「あ、玲央、コーヒーは飲んだ?」
「少し飲んだ」
「一緒に飲も?」
「ん」
ようやく動き始める玲央とオレ。玲央と居ると、こういうのでよく止まるなあ、と思いながらも。幸せだからいっか、とほくほく思う。テーブルの上のドライヤーを片付けて、オレは自分のマグカップにもコーヒーと牛乳を入れた。
「あっちで飲む?」
玲央がそう言ってソファに座ったので、オレも、コーヒーを持って玲央の隣に腰かける。
「なんかこないだも思ったんだけど、オレの家に、玲央が居るのって不思議」
「んー……なんで?」
「……なんか……オレのすごく普通の部屋に、キラキラしてるものが急に現れた、みたいな? そんな感覚かなあ」
「なんだそれ」
楽しそうな笑みを浮かべて、玲央がオレを見つめる。
「オレは、キラキラしたものなのか?」
「キラキラ……うん、してる」
隣の玲央を見て、しみじみ頷くと、ふーん? と玲央は呟いた。
「優月がうちに来た時も、嬉しかったよ?」
「ほんと?」
「やっぱ、今のマンションには他を入れてないから……特別感があったな」
「そっか。ふふ」
それは嬉しい。
「優月は? ここ、誰か入ってた?」
「えーと。友達は入ってたよ。結構来たかな、テスト勉強一緒にしたり。泊りに来たりしてた」
「ふーん」
「まあオレ、付き合った事ないから、そういう人は、来たことないよ」
「まあそうだけど……」
「うん? だけど??」
「今後は、ちょっとは気を付けてな? 二人きり、とか」
「――――……う、うん……」
気を付けるとは……?? あ、そっか。
「あ、オレ、さすがに女の子と二人きりの時、泊めたことはないよ?」
そう言うと、違う、と玲央に首を振られる。
「男も気を付けて」
「……ん」
「優月さ。オレに抱かれるだろ?」
「……う。うん」
顔がかぁ、と熱くなる。真顔でまっすぐ聞かれると、恥ずかしい。よね? 玲央は全然平気そうだけど。
「オレに抱かれてる時の優月はさ、めちゃくちゃ可愛い訳。分かる?」
「………………」
ぼぼぼ。
ますます熱い。マグカップを、太ももの上で、ぎゅうと、握り締めてしまう。すると玲央は、すり、とその頬に触れて微笑む。
「すぐ真っ赤んなるし、ほんと可愛いんだよな」
言いながら、ヨシヨシ、と頭を撫でる。
「だからさ、他の男から見ても、可愛く見えると思う訳」
「…………」
「特に元からゲイの奴とかさ。目つけられたら困るし、だからよく知らない奴と二人きりはダメだからな?」
「…………」
「あ、もちろん、彼女居る奴とか、絶対大丈夫って感じな奴はいいよ」
とりあえず、一通り、玲央さんの心配性講座(?)を聞いたオレは。
一応、うん、と頷いた。
頷くと、玲央は、ん、と微笑んで、コーヒーを口にする。
オレも一緒にコーヒーを飲みつつ。
玲央は本気なんだろうか。本気で、オレが、玲央以外の人に狙われることがあるとか、思ってるのかなあ。うーん。オレ、ほぼ百パーセントないって言えちゃうくらい、無いと思ってるんだけど。
と、不意に玲央が、ぷっと横で吹き出した。
「ん?」
顔を見ると、玲央は、クックッと笑ってる。
「優月今、大丈夫なんだけどなー、て思ってるだろ」
「え。何で分かるの」
「そうとしか思えない顔してた」
クスクス笑って、玲央がコーヒーを飲み終えて、マグカップをテーブルに置いた。そのまま、その指で、オレの頬に触れてくる。
「素直な顔してるから」
ぷにぷに触って玲央が笑う。
「オレ、結構本気で心配してるから、気を付けてな?」
「本気なの?」
「うん。本気。男に抱かれてるのって、バレる気がするし」
「えっ。バレるの??」
「んー。色っぽい顔する、とかさ。そういうので、煽られる奴が居たら困るし」
と、玲央が言うのだけど、それを聞いたオレは、あ、それなら、と一安心。
「それなら大丈夫だよ、色っぽいとか全然関係ないから、誰もそんなこと思わないし」
ふふ、と笑って玲央を見つめると、玲央は、なんだかオレを見つめて固まってて。
苦笑いで、自分の目を隠してしまった。
「――――……本気で言ってるもんな……」
クスクス笑いながら髪を掻き上げて、玲央がオレを斜めに見やる。
細められた瞳がドキッとするほどカッコよくて、多分こういうのを「色気がある」ていうんだろうなあ、とぽーっと見つめてしまう。
ということで、オレには全然関係ないよね。うん。
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