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第721話◇
「いいや。この話はまたあとにしよっか」
笑いながら言って、玲央が笑う。
またあとに? と思いながらも、コーヒーを飲み終えた。
「とりあえず、荷物がどれくらいあるか見てみよ」
「うん」
二人分のマグカップを流しに置いて、玲央のところに戻ると、二人で部屋の端っこから色々荷物を見ながら進んでいく。
「大きな家具は? 全部自分の?」
「ううん。備え付けの家具とか電気製品が多いとこに決めたから……教科書入れてるカラーボックスだけかなあ。あとお布団。泊りに来る人用に二セットあって、それはオレのだよ」
「冷蔵庫とかエアコンとかは?」
「それと洗濯機も、ベッドもついてた」
部屋を歩きながら話してると意外と荷物は少ないかもと思えてきた。
「そうなると大きな業者頼まなくても行けるかな。家具以外の荷物はどれくらいだと思う?」
「服と、本とかと、食器類とか……あとは、生活に必要なもの」
「例えば?」
「キッチンのものとか冷蔵庫の物とか、ドライヤーとかの家電とか、バスマットとかそういうのとか……?」
「んー……うちにあるものは無くてもいいかな。ドライヤーとか二つあっても使わないし。どうしようか」
「母さんに聞いてみる。調理のとかお皿とか、その内双子が一人暮らしとかで使えそうな気もするから、とっとくって言うかも」
「ん。じゃあそしたら、必要なのは、服と、本とかと……」
「あと絵の道具とか、そんなものかも?」
「少ないな?」
「うん。そうみたいだね?」
くす、と笑ってしまう。
オレってば、あっという間に、移動完了してしまいそう……。
「いざとなったらあいつら、ひっぱりだそう」
玲央が笑いながら言うので、バンドの皆? と聞くと、あと稔とか、と笑う。
「引き払う時は父さんと母さんも来そうだし、出来そう」
「ん。分かった。そしたら、さっきのは優月のお母さんに聞いといて……」
と、その時。
ピンポーン、とチャイムが鳴った。
結構いい時間だけど。何だろ。
「はい」とインターホンに出ると、「隣だよ」と春さんの声。
「あ、はーい。あ、玲央、隣の……春さんだった。出てくるね」
「ああ……」
玄関まで走って行って、ドアを開ける。
「こんばんは、優月くん、今日居るって言ってたからさ」
「こんばんはーどしたんですか?」
「ごめん、今帰ってきたから遅くなっちゃったんだけど、これあげる」
手にそっと乗せられたのは、まぁるいメロンだった。
「昨日実家からなんこか届いてさ、冷やしてあるから、食べて」
「わーいいんですかー」
ありがとうございます、と笑って返してると、玲央が玄関に出てきた。
「こんばんは」
「あ。こんばんは」
春さんも、玲央にそう言ってから、ふ、と笑った。
「ほんとに仲良しなんだね」
クスクス笑って、春さんに言われる。
ふふ、と曖昧に笑いながら頷いて、両手に乗ったメロンに視線を移した。
「もう食べごろなんですか?」
「うん。今朝食べたけど甘かった。二人でどうぞ」
「ありがと、春さん」
オレと一緒に、玲央もお礼を言うと、「はいはい、それじゃね」と、春さんは玄関を開けた。
「じゃあ、おやすみ」
「はーい、おやすみなさい」
バイバイと手を振りながら、春さんがドアを閉めた。オレがカギを閉めて戻ると、玲央と目が合う。
「ん?」
「ずっとこんな感じでやり取りしてたのか?」
「うん。春さんち、田舎でね、果物とかいっぱい送ってきてくれるんだって。で、オレは実家からお菓子とかいろいろ来るから、一緒に食べたり……」
そこまで言って、はっ、と気づく。
「……これ、だめ?」
リビングに入ったところで、ぴた、と足を止めて、隣の玲央を見上げながら言うと。
「あの人はもう一年位それやってても、大丈夫だったんだろ? ならきっと、大丈夫かなーと思うけどな」
「あ、良かった」
ほっとして、止めてた足を進ませて、キッチンのカウンターにメロンを置いた。
「玲央、食べるでしょ?」
「ん」
「切るから待ってて」
そう言ってまな板と包丁を出すと、玲央が近づいてきて、隣に立つ。
「なんかあれだよなー……」
「んー?」
さく、とメロンに包丁を入れる。
「あ、柔らかい。おいしそうだよ?」
笑顔で玲央を見上げると、玲央は一瞬、ん、と固まって。それから、ふ、と微笑んだ。
「あ、ごめん。あれって、なあに?」
「……いや。何でもない」
「んん?」
もう半分に切ってから、玲央を見上げる。
「なに?」
まっすぐ玲央を見つめると、玲央はオレをじっと見つめて。
いや、と苦笑。
「ほんと、誰とでも仲良くて、感心する」
なんて玲央は言うけど。
「オレ別に、誰とでも仲良く、はないよ? 全然話さない人とかも、いるよ?」
「いる?」
「うん、いるよー? そんなに全員となんて話してられないよ? 時間もないじゃん?」
「優月は話してるような気がする」
「うーん……それはないかも……」
「そう?」
「うん」
ほんとに? と聞く玲央に、ふふ、と笑いが浮かんでしまう。
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