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第735話◇

 やっとほっとして、アイスコーヒーを飲んでいると、春さんはクスッと笑った。 「ほんと、なんかごめん。オレ、実家に弟が居るけど、優月くんのことも、おんなじように見てたかも」  春さんは言いながら苦笑している。 「なんていうか、そんなヤバい奴にうちの子はあげられない、みたいな感覚になってた」 「うちの子、ですか?」 「そ。完全に弟と同位置に居たかも……」  苦笑いの春さんに、オレもクスクス笑ってしまう。 「なんかでもあれだね」 「はい?」 「神月くん、さ」 「はい」 「噂、どうにかなるといいね」 「……そうですねぇ」  それは本当にそう思う。  そもそも前の噂だって、噂通りすっごくひどいというよりは、セフレでも玲央を好きな人達はいっぱい居た訳だし……本気になるとお別れっていうのだって、玲央なりに意味あったし。ちょっと色々モテすぎちゃって大変だった、みたいな感じだけど、その大変さは噂では伝わるはずもなくて、すごいひどい人、みたいな感じだもんね。  今はもう、そういうことしていないんだし、早く、噂がなくなるといいなあって思っちゃうけど。 「あ、オレの飲んでた仲間には言っとくよ、もう過去のことみたいだよって」 「ありがとうございます」 「なんだか、あのメッセージ見せてもらっちゃった感覚だと」 「?」 「噂とは、別人みたいな気がするね」 「――――……」  その言葉にオレは少し言葉を失って、それから、ふ、と可笑しくなって笑ってしまった。 「あのね、春さん」 「ん?」 「玲央、附属の人なので、幼馴染が多いんですけど」 「うん」 「その仲の良い人達、皆が、今の玲央のことを別人みたいって言うんです」 「あ、そうなの?」  オレの言葉に返事をしてから、春さんは、またクスッと笑って、オレをまっすぐに見つめた。 「黙ってたら、イケメン過ぎて怖い感じもあるよね。噂話も本当っぽい感じになっちゃうのかもね」 「玲央、怖いですか……?」 「昨日の飲み仲間たち、皆、イケメンって怖いよな~って言ってたな……」  春さんが苦笑しながら言うので、首を傾げてしまう。   「怖いかな……? 顔整いすぎてて、見惚れちゃいますけど」 「……ああ、なるほど」   春さんは、「優月くん、ほんとべた惚れって感じなんだね」と笑う。  べた惚れはその通りなんだけど、まっすぐ言われて笑われてしまうと、ちょっと恥ずかしい。 「なんか、あれだよね。あんなに整った顔してるちょっと怖そうな子がさ、あのメッセージの感じで、優月くんの側にいるってさ」 「――――……」 「微笑ましすぎて、笑ってしまうよね」  春さんは本当に面白そうに笑う。 「微笑ましいですか?」  そう聞くと、ぷ、と笑って頷く。 「だってハムスターみたいで可愛い、だよ? あの子、ハムスターを可愛いって思うんだなーっても思うしさ、優月くんをハムスターって言って、可愛いとか言ってるのも、なんかまた、可愛いよね」  あ。玲央のこと、可愛いって言った、春さん。  さっきまで、あんなに、大丈夫? て心配してたのに、すでに、年下の可愛い子、みたいな感じで見てるみたい。  やっぱり、春さん、優しいな。  よかった、なんか普通に、玲央のこと、見てくれるようになって。  この調子だと、オレが普通に楽しくいれば、春さんはもう心配しないでくれそう。

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