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第770話◇

   一通りアルバムを見終えて、アルバムを片付けたところで、希生さんがオレに視線を向けた。 「優月くん、屋敷を案内しようか?」 「え。あ、はいっ」  めちゃくちゃ色々見たい~と思って頷くと、希生さんは優しく微笑んでくれる。 「久と蒼はどうする? 今更案内はいらないだろうけど」 「そうだね、ゆっくり待ってるよ」 「オレも待ってる」  久先生と蒼くんはすぐそう言って、ソファから立とうとはしない。 「ああ、玲央は来なくていいぞ」 「何でだよ」 「優月くんと話したいし」  クスクス笑う希生さんに、玲央はオレを見る。 「希生さんと、行ってきていい?」 「……言うと思った」  玲央は苦笑いで、そう言うと、仕方なさそうに頷いた。 「玲央はオレらと話してようぜ?」  蒼くんが面白そうに言うので、「玲央、からかわないでね」と、むー、と蒼くんを見つめると、「はいはい」と蒼くんが笑う。  そんな様子を見て玲央は苦笑してるけど、すぐにオレを見て、「行ってきな」とにっこり笑ってくれる。 「うん。行ってくるねー」  ソファから立ち上がって、希生さんと一緒に部屋を出た。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「うわー……」  二階に上がって、まず、奥の部屋。  絵や美術品が飾ってある部屋に連れてきてくれた。 「わぁ……」  すごい。美術館みたい。  でも、美術館みたいに説明は書いてないから、誰の絵かは分からないけど。  なんか圧倒されて、ほとんどしゃべらず、部屋を進む。半分くらい進んだところで、振り返って、後ろでニコニコしてる希生さんを見つめた。 「有名な画家の絵とかはあんまりない、ですか?」 「うん。無いね。気に入ったものしか買わないいから」  なるほど……。  人の評価とかじゃなくて、希生さんの「好き」で、この部屋は出来てるんだ。  なんだかそんな部屋に入れて貰えたのが嬉しくなって、思わずめちゃくちゃ笑顔になってしまったと、思う。 「見せてくれてありがとうございます」 「……うん。どういたしまして」  少し間を置いてから、希生さんは、ふわっと優しく笑う。  好きな、有名な画家も何人もいるけど、全然無名だけどすごい絵を描く人ってたくさん居る。  名が有る無いって、大体は時の運や、権力者やお金持ちが気に入るかどうかと、タイミングや他の思惑とかも色々ある。時流に乗ったものは強いし、逆に、すごくいいものが埋もれることだって多い。  希生さんがここの絵をどうやって集めたのかは知らないけど、何だか、名も書いていない一枚一枚に、圧倒されまくってて。  いつまでも見つめていたいなと思ってしまう。 「好きなのはあるかい?」 「……いっぱい、好き、です」 「そっか」  ふ、と笑って、希生さんがまた黙る。 「――――……」  一通り最後まで見たあと、「希生さんの一番は、ありますか?」と振り返ると。「皆好きだけどね。一番は、これかな」と、見せてくれたのは。  中でもすごく生命力あふれる感じの絵、だった。 「オレも。この絵、好きです。見てるだけで、元気になります」 「それは良かった」  その言葉に、絵から希生さんに視線を移すと、にこ、と微笑まれる。 「――――……」  思わず、ぽけ。と、見つめてしまう。 「ん?」  と希生さんに笑われて、はっと我に返る。 「……笑い方、似てますね。今みたいにすごく優しい笑い方、玲央もするなぁって思って」 「玲央は、優月くんに、すごく優しい?」 「はい。……なんか、少し困る位。優しいです」  別に隠さなくてもいいかなと思って、微笑んでしまいながら頷くと。  希生さんは、ふうん……と言いながら、クスクス笑った。

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