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第815話◇

「お先に。ありがとうございました」  お風呂を出て、髪を乾かしあってから玲央と部屋に戻ると、「結局一緒に入ってきたんだな」と蒼くんが笑ってる。 「温泉みたいで、すっごく気持ちよかった」  ほくほく気分で伝えると、希生さんが「そうでしょう」と笑ってくれた横で、蒼くんは立ち上がった。 「希生さん、水もらいます」 「どうぞ~」  蒼くんは、冷蔵庫から出したペットボトルを、玲央とオレに渡してくれる。 「とりあえず、水飲みな。顔、赤い」 「うん。ありがと」  ごくごく一気に飲んで、おいしー、と言うと、蒼くんは苦笑い。 「つか、めちゃくちゃ気持ちよかった、ね……」  苦笑いで玲央を見てるけど、玲央もなんだか苦笑しながら、首を振ってる。 「玲央、気持ちよくなかった?」  オレが言うと、ん、と玲央がオレを見て笑う。「いいから、優月」と蒼くんが笑いながらオレを見る。 「お湯熱かったか?」 「ううん。そうじゃないんだけど……それがさ、玲央とオレ、じゃんけんがなかなか勝負つかなくて」 「は? ――――じゃんけん?」  蒼くんが首を傾げて、ん?とオレを見つめてくる。 「そうそう。お風呂の中で十回勝負してから出ようよって言ったんだけど……なんか、玲央とオレ、あいこがすっごく多くて。なかなか決まらなくて。ね?」  そう言って玲央を振り返ると、玲央は蒼くんを見ながら、黙ったまま頷いている。 「――――……」  蒼くんはなんだかしばらく、玲央と見つめ合ってたけど。ふたりとも無言で。その後、蒼くんはふっと笑い出して、クックッと笑い続けている。 「……つか、じゃんけんしてたのか、風呂で?」 「うん。そう」 「……どっちが勝った?」 「玲央」 「ふうん……」  可笑しそうに頷いて、蒼くんは玲央を見ると、「お疲れ」と言って、またクッと笑い出す。 「蒼くん、なんでそんな笑うの」 「……いや。別に」  はー、ほんとにお前は、と言いながら、蒼くんは先生と希生さんを振り返った。 「次、入る?」  蒼くんの言葉に、希生さんが「先に入ってきたら」と蒼くんに言ってる。 「じゃあ行ってくる。明日、オレ、朝から出ることになって」 「え、そうなの?」 「打合せが入っちまったから」  そっか、残念、と言ってると、ぽふ、と頭を撫でられた。 「あ。そういえば」 「ん?」 「蒼くん、じゃけん、ぽん」  不意に言ったオレの言葉に反応して出したじゃんけん。  オレの負け。 「じゃんけんぽん、ぽん、ぽん」  ――――……ていうか、ずっと、負け。 「もー! ほんと勝てない、蒼くんにはー」  むー、と膨れると、玲央が面白そうにとなりに来て、蒼くんに向けて手を出す。 「蒼さん、じゃんけん……ぽん」  ぽんぽん、と繰り返していくじゃんけん。  勝ったり負けたり、いい感じ。……何か、全然あいこには、なんないな、 「いい勝負かもな?」  クスクス笑う蒼くんと玲央。 「えー、何で? なんで玲央とオレはあいこになるのに、蒼くんと玲央でやると、玲央は負けないの?」 「んー確かに」  玲央もちょっと首を傾げて、苦笑い。 「相性の問題じゃねえの? お前らはほのぼのあいこでいいんじゃね?」 「じゃあ蒼くんとオレは、相性悪いの?」 「オレにとっては相性いいけどな」  それは勝ちまくりだから?と、むむむと、眉を顰めていると、久先生が笑う。 「蒼は大体じゃんけんは強いんだよね」 「そう。てことは、オレと玲央が、相性悪いのかな。あいこになんねーもんな」 「相性悪いというか、似てるんじゃないか?」  希生さんが言って、玲央と蒼くんを見比べている。 「ま、いいや。とりあえず相変わらず優月は弱かったなーてことで。風呂行ってくるわ」  そう言って、蒼くんはオレから離れると、自分の荷物から着替えとかを出して、「バスタオルとかだけ借りまーす」と言いながら、部屋を出て行った。 「むー」 「勝てないの? 蒼さんに」 「そうなんだよー、ほんと勝てない。悔しいなあ」  むむむ、と膨らみながらそう言うと、玲央は、オレを見て、ふ、と笑いながら、くしゃくしゃと頭をなでる。  その笑みが優しくて、なんかすぐうきうきしてしまうから、玲央はすごい。

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