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第816話◇

 椅子に座りながらお水を飲んで、ほかほかしていたのが落ち着いてきた頃。  ふと、さっきの絵が置いてある部屋を思い出した。 「希生さん、さっきの絵の部屋、見て来てもいいですか?」  そう言うと、いいよ、と笑ってくれるので、立ち上がると、「一緒に行く」と玲央も立ち上がった。 「いいの?」 「いいよ」  ふ、と笑んで、オレの隣に歩き出す。  たくさん見ておいで、と言って笑う久先生に頷いて、部屋を出ると、玲央がクスッと笑った。 「聞かなくても、いいに決まってるし」 「うん。あ、でも、オレ、ぼーっと見ちゃうと思うから。つまんなかったら、戻っていいからね?」 「ぼーと見てる、優月を見てるから大丈夫」  クスクス笑って、玲央がオレの頭を撫でる。 「えと……オレを見てて、玲央は楽しい?」 「ん。楽しい」 「……ありがと」  そんな風に言ってくれて、一緒に居てくれるのは、とっても嬉しい。  幸せ気分で一緒に歩いてると、玲央がオレを見つめる。 「優月は、絵、ほんと好きなんだな」 「うん。好き」  しみじみ言われて、ふふ、と笑顔で頷いてから、玲央を見上げる。 「描くのが一番好きだけど、見るのも大好きだよ」  そっか、と頷いて、「オレも見るのは結構好き」と言う。 「玲央は、絵、描くの好きだった?」 「学校では、描いたけどな。嫌いではなかったけど、卒業したらもう描くことないな」 「そだよね。ねね、玲央の子供の頃の絵ってどんな絵だった?」 「んー? どんなと言われると……」 「子供の頃の絵って、性格でるんだよね。大きく描くか、とか、色使いとかさ」 「まあ、なんかでっかく書いて……赤とか好きだったかも」 「そうなんだ」 「淡い色とかは使わなかった気がする。何描いたかはあんま覚えてないな」 「そっか。子供らしい、元気な絵って感じかなぁ?」  なんとなく分かるような……と、色々想像しながら、絵の部屋のドアを開けた。 「赤とか好んで使うのは、行動力あるとか。強いイメージかなあ。大きく描くのも、おなじかな」 「ふうん……」  そうなんだ、と頷いてる玲央に、「なんかステージで歌ってる玲央のイメージに重なる。赤って」と言うと、玲央はオレをふと見つめ返した。 「ステージのオレ、赤のイメージ?」 「う、ん。青いライト浴びてるのもカッコよかったけど。赤いライトは情熱的な感じで、そっちもすごくカッコよかった」  電気をつけるけど、ちょっと薄暗い。ぱたん、と扉を閉じて、一歩部屋の中に踏み出す。 「……ていうか、玲央は、全部すごくカッコいいから、どっちも似合うんだけど」 「そっか」  ふ、と玲央が笑う。優しいその声に惹かれて、振り返ると。 「――なんか、まっすぐ、全部カッコいいとか言われると……少し、照れるかも」 「――――」  そんなセリフにぴた、と動きが止まったオレは。  玲央の近くに戻って、すぐ至近距離から玲央を見上げた。 「どした?」 「玲央が照れるのって貴重だから。見つめてみました」  ふふ、と笑いながらそう言うと、玲央は「そうですか」と返して、微笑む。  オレを見つめて細められる玲央の瞳は、キラキラして見える。 「でも玲央、カッコいいって、めちゃくちゃ言われてきてるでしょ?」 「んー。まあ……」  ふ、と可笑しそうに玲央が笑う。 「言われてきたかもな」 「かもじゃないと思う」  だってほんとにカッコイイもん。なんていうのだろう。  整った顔の人は、結構いるのかもしれない。けど。  ……玲央は、ほんとに目立つし。キラキラオーラに、見惚れてしまうもん。  そう思いながら見上げていると。  笑っていた玲央の手が、オレの頬に触れた。 「優月に言われるのは、なんか……全然違うんだよな」  ふ、と少し首を傾げて、オレをじっと見つめてくる。 「優月に言われると、オレもっとカッコよくなってくかも」 「え。そうなの? じゃあいっぱい言おうかな」  そう言うと、玲央は、ふ、と微笑んだ。 「心込めて言える時だけでいいよ」  すり、と頬を撫でてくる玲央に、じっと見つめられる。 「んと……今から百回言っても、心、こもるけどな」 「そう?」 「だって、玲央って、ずっとカッコいいもん」 「……そ?」 「うん。外見もだけど……動きとか? 言うこと、とか……することも。全部、カッコいい」  見上げて、ふふ、と微笑んでしまう。 (2024/3/28) ちょっと聞いてみる( *ˊᵕˋ ) 玲央と優月のイメージって何色ですか…? コメントでも匿名ツールでも。よかったら聞かせてください🥰 

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