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第819話◇
誰かを守って生きていきたいとか、優月と会って初めてちゃんと思ったよな。
と、そう思ってから、「守る」っていっても、女を守るとかとは、やっぱり少し違うな、と思った。
優月は、ふんわりしてて、ぽやぽやしてそうだけど、結構しっかりしてるとこもある。守らなくても、なんだかんだ、普通に生きていける気がする。もしかしたら、オレよりも対人関係なんかは、すごくスムーズで、色んな人と自然と関わって、助けたり助けられたりしながら、結構強く生きていきそうな気がする。オレが手を貸したりしなくても。
だから、守りたいっていうのはそういう、物理的なものじゃなくて。
あの、笑顔のままで居られるように、って感じ、かな。
気持ちのところ。
なんか、純粋な気がするところ。
どう守ったら、あのままいられるんだろうとか、考えると、実際にどうすべきかとかは分からない。少し、難しい気はするけど。
……なんかふっと、勇紀が、汚すなとか、言ってる顔が浮かんできてしまった。
近くの絵を見ながら話してるじいちゃん達の横で、そんなことを考えていたら、優月がふとこっちを見て、二人に気づいた。とことこ小走りで近づいてくる。……ただ、嬉しそうに寄ってくるだけで、なぜこんなに可愛く感じるのか、自分が謎だが、可愛いと感じるものは、可愛いから仕方がないよな……。もう考えてることが、昔のオレとは大違いだなと思っていると、優月が、二人の前で笑顔。
「先生と希生さん、来てたんですね」
「もう、しばらく前からだけどね?」
可笑しそうに言ったじいちゃんに、あ、と口元を押さえて、全然気づきませんでした、と笑う。
「優月、すごく一生懸命見てたけど。あの絵見て、どう思った? 説明してみてごらんよ」
「あ、はい」
久先生がそんな風に聞きながら歩き出すと、優月は後を追いかけていく。二人で並んで、今優月が見ていた絵の方に歩いて行った。
残されたじいちゃんとオレ。
ふっとじいちゃんがオレを見つめる。
「……何か言いたい?」
オレが聞くと、じいちゃんは、そうだなぁ、と呟いて、それからまた優月の後ろ姿に視線を移した。その横顔からは、何も読み取れない。
……じいちゃんが、優月を可愛がってるというか、孫みたいに思ってるのは、何となく分かる。
なんというのか。優月はほんと、人に好かれるんだろうなと。
だから、じいちゃんが優月を好きなのは、もう、それはそうなんだろうと思う。
ただ、オレの相手として。
神月家の一人息子が選んできた相手として。
……男でほんとに良いのかとか。相手として認められるのかとか、そういう点で、どう思ってるかは、まだ、はっきりとは聞いていない。
オレが優月と付き合ってるのを知って、ここに招いて、それでもって、あんな態度で接してるんだから、頭ごなしに反対したりは、しないだろうけど。
少し、ドキドキする。
神月の家で、今もかなり力を持つじいちゃんが、何て言うのか。
「ほんとになあ……」
「……?」
「半日も居ないんだけどな、優月くん」
確かに、昼前に来て、まだ半日は経っていないけど。そんな風に思いながら、優月の後ろ姿を見つめてしまう。久先生に何かを話してて、とっても楽しそう。なんだかこっちまで、微笑んでしまう。けれど。
つか……今の、どういう意味??
思いながらじいちゃんの横顔を見ると、優月を見るじいちゃんの顔。口角が上がって、そっと微笑んだのが見てとれる。
なんか。すげぇ、優しい顔、してるなぁ。と、ぼんやり思う。
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