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第820話◇

 オレの視線に気づいたじいちゃんが、オレとまっすぐ視線を合わせた。 「……珍しい子、だよな」 「――――」  珍しい子。  その意味をじいちゃんが話すのを待って、黙っていると。じいちゃんはまた優月の方に視線を向ける。 「ぱっと見は柔らかくて優しすぎる感じかなと思えば、凛として折れないものがある気がするし。……でも強い訳じゃなくて、なんだか、すごく珍しい」 「――――」 「正直、蒼も玲央も、大分ひねくれてるというか、素直じゃないとこがあるだろ。強いだけの奴は無理だし、優しすぎても物足りないんだろうし、結構難しいと思う部分があるのに――――優月くんには、二人そろって、甘すぎるとか」  はは、と可笑しそうに笑って、じいちゃんがオレを見てくる。 「……いい子だと思うよ。まっすぐで、気持ちいい。どこにでもいそうな気がするのに、一緒に居ると、なんだか特別な気がしてくる。……本当に、珍しい子だなーと思う」  オレは、瞬きを何度かして、優月を見たままのじいちゃんに少し目を向ける。  じいちゃんの、人を見る目は、すごいらしい。  たくさんの人と事業をしてきてる、じいちゃんが信じる人達は、皆色んな面ですごいらしくて、そういうことを、他の人がじいちゃんに言ってるのを、子供の頃から何度も聞いてきてる。オレは仕事の場で一緒にいたことは無いから、実感したことはないから「すごい」としか分からないけど。  でもたまに学校とかに遊びにきて、そこで会うオレの友達のこと、ほんの短い時間のやりとりでも、どんな奴かとか、どういうことを言いそう、とか、すぐ当てる。  そういうじいちゃんが、優月のことを今日見ていて、今言ってること。  今言われたことも、何の反論もない。 「良い子では、あるけどな」  ……あるけどな?  何だか少し気になる言い方で言葉をいったん締めて、オレを見つめる。  あるけどなって、なんだよ。と、心に浮かぶ言葉。  多分オレ、少し、む、としたんだと思う。するとオレを見て、じいちゃんが、ニヤリと笑った。 「お前はあの子の、どこに、そういう意味で、惚れたんだ?」 「――――」 「良い子なのと、恋人にするっていうのは、別の話だろ」  そんな風に言われて、何度か瞬きをする。  ……まあ確かに。  言われたことの意味は分かる。  優月は良い奴。でも、別に、他にも良い奴は居るかも。もし良い奴がいたとしても、それを皆、恋人にしたいと思う訳じゃない。  そういう意味で、どこに惚れたか??  少しの間、黙って考えているオレに、じいちゃんの、面白そうな視線が飛んできているのを感じる。 「……もう、感覚かも」 「感覚?」 「理屈じゃ言えない」  オレは、そこで、じいちゃんを見据えた。 「優月の側に居たい。触れてたいって思う。この先、優月が生きてくその隣に、ずっと居たいって――――……そんな感覚」  そう言いきったら、じいちゃんは、ほー、と変な声を出して、顎に手をかけて、しばし無言で、何やら小さく頷いている。 「それじゃダメ?」  そう聞くと、じいちゃんは、顎に触れたまま、いや、と微笑した。    ◇ ◇ ◇ ◇ (2024/4/8) なんか今日この短時間、すっごく色んなのひょいひょい書けたような。 そろそろお昼食べて午後のお仕事いってきまーす♡(後で消します(笑))

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