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第821話◇

「あ、感覚って言ったけど、好きなとこならいくらでもあげられそうだから。あげた方がいい?」  オレの言葉を聞いて、じいちゃんは、いい、と笑った。 「お前がそんなに、ベタベタに惚れるとはな」  実際今見てても、信じられない、と言いながらも、じいちゃんは楽しそうだ。 「玲央」  少し後、笑いを収めてまっすぐ見つめてくるので、オレも、少し真面目に、見つめ返す。 「まだ学生だしな。好きにしたらいいと思う。ただ、ちゃんとやることはやってだが」 「――――ん」  オレは、小さく頷いた。 「ちゃんと勉強して、いろんなことを経験して、卒業して、生きてく進路が決まってきて――――その頃にはもう、付き合いも三年位経つことになるんだろ」 「うん。そう、だね」 「その時に、ある程度の答えを出せるようにしておきなさい。一緒に生きていけるならそうすればいいと思う。そこまで付き合いが続いてから、周りには宣言すればいい」 「父さん達?」 「そこも含めて、まあ、親戚とかもうるさいからな。全員に言う必要はないが……結婚を進めてくる奴らもいるだろうし。それに対抗するにはまだ、付き合いはほんの僅かなんだろ。今は話さなくていい。自分たちも、三年も付き合えば自信もつくだろうし、言葉にも重みがでるだろ。説得もしやすい」 「分かった。……いや、分かってた、かな」 「分かってたか?」 「ん。……もっと長く付き合って、ずっと一緒にいたっていう既成事実が出来てからがいいかもって、優月にも言ってた」  そう言うと、じいちゃんは、そうだな、と呟いて笑った。 「……まあでも、父さんたちには、紹介する流れで言ってもいいかなとは思ってるし、絶対隠そうとは思ってないけど。……そんでもって、その内はっきり伝える。多分、今、一か月も経ってない状態で言っても、あ、そう、くらいで流されそうだし」 「は。そうだろうな。今までが今までだもんな」  可笑しそうなじいちゃんに、まあ、と渋々頷く。 「玲央が真面目に付き合いだしたらしいと、一応言っといてやるよ」 「ん?」 「いつか言う時の布石だな。そういえばずいぶん前に聞いたような、ってなるだろ」 「……ん、ありがと、じーちゃん」  思うままにそう言ったオレは、じいちゃんにマジマジと見つめられた。 「……つか、何」  絶対なんか余計なこと言うだろ、と思ったら、案の定。 「素直って、伝染するのか?」 「……べつに伝染したわけじゃ……」 「久しぶりに、お前のことを可愛いと思ったな」  楽しそうに笑ってるじいちゃんに、  苦笑しか浮かばない。

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