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第823話◇

「弟みたいな」*side野矢蒼 1  出会った頃は、オレの半分くらいしか、なかったような。  ……ていうのは言い過ぎだろうか。  でもなんか、そんな気分。  オレはもう高校生で背も高い方だったから。  優月は、一緒に入ってきた同学年の中でも、特にちびっこだった。あとで三月生まれだと聞いたけど。  ほんと、半分くらいしか、無かったイメージ。    そんなちびっこだった優月に、玲央という男の恋人が出来た。  しかも、なんか、パッと見はまったく優月とは雰囲気の合わない、超かっこつけてそうなイケメンのバンドマン。セフレ多。みたいな。出だしは少し、ん?と思ったが、話してみると感じが違うし、なんだか優月に激アマっぽい。    でもって、玲央のじいちゃんは、父さんの親友。その四人が集まることになって、面白そうだからオレも参加することにした。  父さんとオレは、希生さんの家に、少し早く着いていた。  優月たちが来たからというので、駐車場に迎えに行くと。 「――あーかわいぃな。ほんと」  という声が聞こえた。まあ、それはそれは、甘ったるい声で。  玲央の顔が思い浮かび、あの顔で、そんな声出すんだなと思いながら、足を止めずに踏み入ると、キスシーン。  キスする前の、玲央の顔も見えてしまった。可愛くてたまんないって顔。砂吐きそ。  優月は後頭部しか見えなかったけど。  からかいついでに声をかけたら、優月がすごく困ったみたいな嫌そうな顔で振り向いた。まあ……多分優月はキスする気なんか無くて、玲央が勝手にしたところに、オレが現れたっていうとこだろうけど。  突っ込むと、案の定、真っ赤になった優月。と、相反して、そんな優月を見て、面白そうな表情の玲央。  ……まあな。玲央はきっと、キスシーンなんかを見られたって、どうってことないんだろうなと勝手に納得。慣れてるんだろうし。  ――――マジで、ぱっと見は、正反対って感じ。  赤くなった後、オレに見られたと、きっと落ち込んでるらしい優月は少し離れてて、オレは玲央を振り返る。 「玲央は、へっちゃらだな」  そう言うと、玲央は少し苦笑いを浮かべて、オレを見た。 「……キスだけなので」 「まあ、だよな。オレもキスくらい、なんでもない」 「……でも、優月がああなっちゃうので、気を付けますね」  ちら、と優月に視線を向けると、相当、オレに見られたと落ち込んでるっぽい。落ち込んでるのか、恥ずかしがってるのか、分からないが。  その後、鯉を発見したらまたテンションが急浮上して、オレが呼んできた希生さんや父さんとも、色々話し始めた。  そこからは、もういつも通りの優月だ。  ぱっと見は大人しそうだし、少し引いて遠慮しそうに見えるけど、じつはそんなことは全然ない。びっくりするほど自然に、するりと、人の心の近くに入り込む。  希生さんが鯉の話をしてるのを、楽しそうにずっと聞いてるのを見て、なんかもう、「彼氏のじいさん」へのアピールタイムは終わりでいいんじゃねえのかなと、思った。  ……アピールをしてるつもりも、本人は無いのだろうが。  希生さん、可愛がるの、早や。  なんなら、気に入った感じが元々あったから、家に誘ったのかもな、と思うと、ますます、優月に落ちるのが早すぎる。  希生さんちの玄関から進んだところにある、オレの空の写真を玲央と優月が見つけて、あっ、という顔で立ち止まり、何やら嬉しそうに見上げている。  ……はは。二人そろって、可愛いな。  と思ったオレも、チョロいよな、とすぐ自覚して、苦笑が浮かぶ。

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