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第825話◇

「弟みたいな」*side野矢蒼 3  玲央の子供の頃の写真を見ていたら、ライブで会った奴らが居たり、オレも知ってる優月の幼馴染が、玲央の同級生だったり。  ……というか、そもそも、優月に出来た彼氏が、父さんの親友の孫だったり。  あちこちで勝手に繋がってる感がすごい。  なんというのか――――……  縁というのか、運命、というのか。  自然とつながるものを、大事にしようと思っている。  無理をしなくても繋がる。  ……または、無理をしても繋げたいと思う。  それを大事に生きていきたい。  仕事で、気に入った人しか撮らないとか、もちろん最初は煙たがられた。今でもきっと、生意気とか、思う奴もいるかもなとは思う。  撮ってしまえば良い写真が撮れるんだから、仕事として撮ればいいのに、と言われたこともある。それも、分からなくはない。実績には、なるし。  それをわりと貫いて生きてこれてるのは。優月のおかげ。だったりする。  優月が高校生くらいの時。受けたくない仕事をどうしてもと言われて、迷っていた時。  例によって、優月をからかいに教室に行って、一緒に絵を描いていた。 「蒼くん。チョコあげる」  不意に差し出された、金色の紙包み。 「……何で?」 「友達にもらったの。美味しいよ」 「オレ甘いもの、そんな好きじゃねーけど?」 「んー、でも疲れてる時はさ。いっこどうぞ」  いつもと違って、ほいほい、と押し付けてくる。  とりあえず受け取って、包みを開けて、チョコを口にする。 「……甘いな」 「チョコだからね」  クスクス笑う優月。 「……何でオレ、疲れてることになってんの?」  そう聞くと、え、と優月が首を傾げる。 「あ、なんとなく……」  言いながら、また、んー、と考えてからオレを見つめた。 「静かだから?」 「……オレいつもうるさくないだろ」 「うるさいとかじゃないけど……んー。なんとなく。いつもはもっと元気かなって」 「――――まあ。仕事のことで考え事はしてたかも」 「そっか。お仕事って、大変?」 「……そうだな。やりたいことだけしてる訳にもいかないしな」  そう言うと、優月はオレを見つめて、ふ、と笑った。 「蒼くんは、好きなことだけしてるのかと思ってた」 「……」 「前言ってたじゃん。好きなものしか描かないし撮らない、そんな仕事がしたいって」 「オレ、それ、お前に言ったっけ?」  思ってはいたけど。あまり人に言ったことはない筈。 「うん、ていうか、もう、すごい昔。オレが小学生とか。聞いたんだー、蒼くんは、絵を描く人になるの?って。その時、そういうこと、言ったの」 「――――」  ……小学生の優月に、何を語ってんだ……。  と、昔の自分に呆れていると。 「あの時、蒼くん、かっこいいなーて思って。その後学校でさ、尊敬する人を書くところに、蒼くんって書いたんだよねーオレ。お母さんとかに、何で蒼くん?て聞かれて、蒼くんを知らない友達にも、蒼くんて誰?って聞かれてさ。説明いっぱいしたから、覚えてるんだけど」  ふふ、と優月が微笑む。 「お仕事だから色々あるよね……でもオレ、蒼くんの絵や写真、いっつもすごく好きだから……好きなもの、扱ってるからだと思ってるー」  のどかに、微笑みながら話す優月。  ――――……オレは返事をしていないが、心の中は。なんだか雲が晴れていくような、急に青空が広がったような、そんな気分。 「当然」 「ん?」  オレの言葉に、優月がオレに視線を向ける。 「そうしてくに決まってる」  にや、と笑って見せると。  少し目を大きくしてから。ふふ、と嬉しそうに優月が笑った。 「ずーと応援してるからねー」  ――――なんていう、優月とのやりとりに。  多大な後押しを得たとか。  優月には言ってないから、多分、知らない。  ピアノを弾いてる優月と玲央を、写真に撮りながら。  気に入ったものを撮るのは、ほんと楽しいと、実感する。  オレが、好きなものをえらんできたおかげで、オレは自分の作品に自信があって――――それで、客も、そういうところで求めてくる。断ったとしても、またいつか、みたいな相手も居て、今は結構、うまく回ってる。  これが 高校生の優月の、何気ない言葉のおかげ、とか。  まあ多分、一生言わねーな。  

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