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第830話◇
「あれなのかな……?」
「ん?」
「付き合ってますって言うのって、そういうことも込みで話したりするものなの……??」
うーん、と考えながらそう言うと、玲央はじっとオレを見つめて、ふ、と面白そう。
「まあ普通はあえてそこ言わないけどな。じいちゃんが面白そうな顔してたから、言っただけ」
クスクス笑って、玲央は言う。
「……やっぱり言わないよね?」
むむー、と玲央をちょっとジト目で見つめてから。
……オレは、玲央の腕の中に、すぽ、と抱きついた。
「でもオレ、付き合うの初めてだから、今まであんまり考えたこと無かったんだけど……」
「何を?」
「人にさ、付き合ってます、って言うのって」
「ん」
「……そういうこと、してますって、宣言する、みたい……な気もしてきたような……」
「んー? ん~……どうだろ?」
しばし時間を置いた後、玲央が、変な声で唸って苦笑してから、よいしょ、とオレの脇に手を入れて抱き上げた。
「オレの上、座って」
「うん」
促されるままに、玲央の上に座ると、そのまま抱き寄せられて、少し下から、まっすぐに見つめられる。
かっこい。玲央。
ふわ、と心の中の温度が上がる。
「確かにそういう意味も含めて付き合うから、そういう意味ではあるかもだけど……そんな考えないと思うよ?」
「……ほんと?」
「ん」
頷いてから、ふ、と玲央が笑う。
「何で笑うの?」
「……んー。なんか。可愛くて」
クスクス、優しい笑い方。
「まあ……あれかも」
言いながら玲央がオレの頬に触れて、すり、と撫でる。
「相手がオレだから、余計そういうの、思われるかもしれないけど」
「ん……??」
「オレがそういうの激しいとか思ってる奴は、優月がそうされてるって思うのかも……?」
「……う、ん」
そんな気もする……。
だって玲央ってなんか……色っぽい時あるし。なんか、かっこよすぎるけど……そんな感じするもんね。
うんうん、と頷いてると、また玲央がクスクス笑う。
「まあ、勇紀とかにも優月を汚すなって言わる、そういやそういうの、考える奴もいるかもだけど」
「……」
「優月はいつも、どんな時も綺麗だから、きっと大丈夫」
そんな風に穏やかに言った玲央が、柔らかく、瞳を緩める。
「――――……」
ぼぼっ。
真っ赤になるのはオレのせいじゃない
めちゃくちゃ、うっとりするくらい綺麗な笑みで下から見られてるし。
ていうか、どんな時も綺麗って何ー??
オレはよく、玲央のこと綺麗って思ってるけど、それはほんとに綺麗だと思うから。
綺麗って言葉を自分につかわれるとか。全然意味わかんない。オレ、綺麗じゃないし、と、頭の中、わーわーしていると、玲央がまた微笑んで、そっと、オレの頬に、キスをした。
「綺麗じゃない、とか思ってるんだろ」
「……ん」
こくこくこく。
「……全部綺麗だって思ってるよ」
玲央の手が、オレ頭を撫でて、そこから、下に滑っていく。
「………………っっ」
ゾクゾクしそうで。ぎゅう、と抱きついたら、玲央が笑って、体が揺れた。
「このまま続けそうでヤバいから触るのはやめよ」
言いながら、ぎゅ、とまた抱き締められる。
「とにかく、付き合ってますって宣言する時、そんなこと思わなくて平気。むしろ、皆、ただ可愛がられてんだろうなーって思うと思うから」
クスクス笑う玲央が言うことは、いまいちよく分かんない。
けど。
オレを見てる顔が優しいから、オレは頷いた。
「あ。少し待ってて」
玲央がオレを自分の上から降ろすと、荷物の中からスマホを持ってきた。
ベッドに上がると「おいで」という声とともに抱き寄せられて、向かい合って横になる。玲央がスマホを操作しているのを見ていると。
綺麗な音が流れ出した。
「ぁ。これ……」
「何か分かる?」
「ライブの……ぁ、Love?」
「そう。……もう今日は、変なことはできないし。一緒に歌聞いて、寝よ」
「うんうん」
「……オレの歌を自分で聞かせるとか、なんかあれだけど」
くす、と笑いながらそんな風に言う玲央を、ふと見つめる。
「一番嬉しいよ」
心から思って言った言葉。即答したオレに、玲央は「そう?」と、面白そうにオレを見つめた。
「玲央の歌、玲央にかけてもらいながら、こんな風に近くに居れるなんて……幸せすぎて困っちゃうくらい、幸せだと思う」
言い終えるかどうかの間に、むぎゅ、と抱き寄せられる。
「――――……」
無言の玲央。
「……かわい」
めちゃくちゃためて、言われた言葉が、それだったので。
瞬きが増えて、パチパチしたあと。
ふふ、と笑ってしまって。
そのままぎゅ、と、玲央の背に手を回した。
玲央のおじいちゃんのお家に、ドキドキ訪問したその夜は。
めちゃくちゃ大きなベッドで、
玲央に抱き締められて、玲央の歌を聞きながら。
本当に、幸せな気持ちで、
いつの間にか、眠りについた。
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