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第840話◇

「駅の方にいこ。まだ昼には早いからブラつきながら、食べるとこ決めよう」 「うん!」  ライブがある駅から少し離れた駐車場に車をとめた。お店がある駅の方に向かって二人で歩き出した時、スマホの震動に気づいた。着信と分かる長い震動だったので、玲央に、ちょっと待ってねと言いながら、スマホを見る。 「あ。勇紀だ。出るね?」 「ん」  頷きながら玲央もスマホを出して、「ああ。こっちにもかかってきてた」と言いながらオレを見る。ん、と、頷きながら「もしもし」と出ると。 『優月ーおはよー』  勇紀の、いつも通り、のどかな声。  ……昨日から希生さんちで、少し現実離れしてたので、なんだか戻ってきた感覚があるなぁ、と思いながら、「うん、おはよー」と返す。 『玲央にもかけたんだけど出ないからさ。今一緒なんだよね?』 「うん。希生さんちから出てきたとこ」 『あ、もう帰ってるの?』 「うん」  玲央も一緒に聞きながら、なんとなく見つめ合っていると。 『なあ今日午後、ライブ行かない?』 「え。あ。」  奇遇。ライブってそんなに色々やってるものなのかぁ、と思いながら玲央を見ると、ちょっと貸して、と玲央が手を出してくる。 「玲央にかわるね」  そう言って玲央にスマホを渡すと。 「勇紀? そのライブの名前、何て書いてある?」 『んーとね、soulって書いてある』  勇紀の声に、玲央は、ふ、と苦笑。 「それのチケット貰って、優月と行こうとしてる。今その近くに来たとこ」 『えっそうなの? こっちは、美奈子さんたちから甲斐に回ってきたみたい。参考になるだろうから行ってくればって言われたんだって』 「こっちは、蒼さんから。今日仕事だからいけないからって……そっちも、随分急だな?」 『あー、こっちもそんな感じ。ほんとは美奈子さんたちが行く予定だったらしいんだけど、別に大事な打ち合わせが入ったらしくて、余っちゃったんだって。昨日、連絡来たんだけど、玲央達は実家訪問で忙しいからいかないだろって言ってたの。でも、やっぱり一応声だけかけとこうと思ってさ』 「お前らも、もうここに来てんの?」 『いや、まだだよ。時間の少し前に集合しようってなってる』 「チケット何枚あんの?」 『五枚』 「優月の分もあんのか」 『うん。美奈子さんが、玲央が連れてくるんじゃないかって言ってたみたいだよ』  勇紀の言葉を聞いて、玲央が、ちらっとオレを見つめる。 「合流する?」  こそ、と聞いてくるので、うん、とにっこり笑って見せると。  玲央は少しだけ息を吐いて、もう一度電話を耳に当てた。 「おっけ。合流する。何時にどこ?」 『十五時半から開場じゃん? 一般席と入場口違うから並ばなくていいし、十五時にプレミアム専用のゲートの付近でってことにしてある。近くに来たら連絡しあお。じゃあまた後で』 「あ、なあ、勇紀」  通話を切ろうとした勇紀を玲央は止めた。 「ライブに似合うようなTシャツ、持ってきて。優月とオレの分」 『ああ、オッケー。優月のは了解。何にしよっかなー。玲央のは、今から甲斐に電話するからついでに頼んどくよ。オレのじゃサイズ合わないでしょ』 「ああ。よろしく」  と、そこで電話が切れて、玲央がふ、とオレを見下ろす。 「なんか突然、団体行動になっちまったけど」 「団体行動って……」  なんだか言い方が面白くて、ふふ、と笑ってしまう。 「優月と二人が良かったけど、まあライブだしな」 「うん。そこまではデートできるし」  二人、顔を見合わせてにっこり。 「とりあえず今から行くとこ、決まった」 「え?」  玲央が楽しそうな顔で笑って、オレの手首を引いて歩き出した。 「何か、アクセサリー、買いに行こ」 「アクセサリー?」 「優月に似合うやつ。探そう」  オレを隣に引き寄せて手を離した玲央は、嬉しそうな顔で笑う。 「ブレスレットがいいかな。ノンホールのピアスもいいな、優月がつけてるとこ見たい」 「えええ。似合うかな??」 「似合う。耳、可愛いし」  玲央が、オレを覗き込んで、片手でオレの耳たぶに触れる。  不意の接触に、ひゃ、と肩を竦めて、自分の反応にびっくりして玲央を見上げる。

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