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第848話◇

 指輪の交換みたい、なんて思いながら、玲央にも指輪をつけさせてもらって、何だか幸せいっぱい。  慣れないアクセサリーに、なんだかちょっと違和感はあるけど、でもそれは、なんだか嬉しい違和感で。  お店を出て、玲央と一緒に歩きながら自然と笑顔になってしまう。 「嬉しそう」  そう言って笑う玲央に、「嬉しい」と笑い返すと、「オレもだけどね」と玲央がオレの肩を引き寄せて、ぎゅ、と力をこめる。 「もう、会場に向かおうかなーとは思うんだけど。ちょっと、良い感じに遊んでみようかなーと思うことがあってさ」 「遊ぶ?」 「ん。あ、あった。ちょっと来て、優月」 「うん??」  少し表通りから外れた道にあったドラッグストアに、玲央と一緒に入る。  ヘアケアのグッズのところで玲央が足を止めたので、オレも一緒に止まる。スタイリング剤かな? と思ってると、玲央が見てるのは少し違うところな気がする。 「ヘアカラー?」 「ん。ちょっと遊ばせて」 「染めるの???」 「色付けるだけ」  ふ、と玲央が笑う。染めるつて時間かかりそうだから無理だよね。なんだろ、と思いながらも、玲央が楽しそうなので、選んでる玲央を見守っていると。 「これでいいや」  あっという間に決めて会計を済ませた玲央に連れられて、隣のショッピングセンターのトイレに入った。 「優月、ちょっとここ立ってて」  鏡の前で、玲央が今買ってきたものの包装を開ける。 「青と紫どっちがいい?」 「ええと……青……?」  好きな方を答えると、玲央の手が、オレの髪に触れた。何かをスッと、髪の表面に少しだけ滑らせる。 「? あ。わー、すごい、なにこれ」  滑らせたところの髪が、青になった。そんなにきつい色じゃなくて、少し青が入る程度だけど、ちゃんと分かる。 「シャンプーで落ちるから。このままやってっていい?」 「うんうん! いい。楽しい」  ふ、と微笑んで、玲央がオレの髪に触れていく。  指先で髪を挟むようにして、ゆっくりするすると撫でるたびに、青い綺麗な色が、ふわりと浮かび上がっていく。 「それって、なに??」 「チョークタイプのヘアカラー。髪にハイライトをいれたい時に使える」 「そんなのがあるんだね」  すごいねぇ、と言うと、玲央は、「使わないと知らないよな」とクスクス笑う。 「取材とかで、染めるほどじゃないって時、簡単に色が入るから、楽。金とかシルバーとか、色々あるけど」 「青、綺麗」 「うん。似合うな、優月」  玲央の優しい声と、優しい手つき。鏡の中の自分が、少しいつもと違くなっていく。魔法みたい。玲央の手。 「よし、オッケイ」 「ありがとうー」  綺麗に入った、青のライン。   「わーすごい」と盛り上がってる間に、クスクス笑いながら、玲央は自分の髪にも、色を入れてく。 「あの、玲央玲央」 「ん?」 「オレも。ちょっとだけ。玲央のしたい」 「いいよ。ていうか、後ろやって。見えないから」  そう言ってくれて、嬉しくなって、玲央からチョークを受け取った。  玲央の髪の毛、元々こげ茶色っぽいから、綺麗な紫が入ると。すごく個性的で。なんだかそれが玲央だと、なんだかミステリアス。 「……めっちゃかっこいー、玲央」 「はは。そう?」 「これって、ラメが入ってるんだね」 「優月のにも入ってるよ。太陽に当たると、キラキラするかも」  ふ、と笑いながら、玲央がオレの髪に触れる。  なんだか、とってもとってもカッコいい玲央と。  普段に比べたら、大分オシャレ化したオレが、鏡の前で並ぶ。 「可愛い。よし、オッケ。待ち合わせ場所、行こ」  玲央は笑って言うとオレの手を引いた。 「あいつら、ちょっとびっくりするだろうな」  そんな風に言って、玲央がオレを見て、目を細めた。 (2024/9/1) お知らせ。 エブリスタのスターギフトという、作者応援の機能に「恋なんかじゃない」で参加してみました。お礼のSSも用意しました。詳しいことはエブリのエッセイ「ことばのかけらたち」の9/1のところに書きます。もしもし、応援してやってもいいよと思って頂けたら。

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