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第856話◇
途中、休憩をはさみながら、時間が過ぎて行く。
あっという間、コンサートって。すごい。
全部が終わって、一旦出演者が全員引いて、暗転。
それから、少しして、ステージに全員が戻ってきた。アンコール、なのかな。
コンサートが始まるまで、全然知らなかったのに、なんだか戻ってきてくれて嬉しい気分。急にファンになっちゃったみたいな。特に玲央の先輩たち。余計に目に入るから、すごくカッコよく見えるし。
その内、音楽に合わせて、出演者の人たちが歌いながら、客席に向かって、ボールを投げ始めた。
「なあに、あれ」
聞くと、玲央が「ボールにサインやメッセージが書いてあって、投げてくれるんだけど。ファンサービス、だな」と教えてくれる。
「オレらもやったことあるよね」
勇紀が言って、玲央が頷いてる。
「そのボールって、貰えるの?」
「受け取ったらな。あれだよ、野球のホームランボールみたいな」
「そうなんだー」
クスクス笑いながら、玲央がオレを見つめてくる。
わー、なんかいいな。ちょっと欲しい。
でも、ステージの人達は、ボールをなるべく遠くの方に届くように、ぽーん、と大きく投げてる。
近すぎちゃって、逆に投げられないのかも。と思いながら、じー、と見つめていると。玲央の先輩たちが、玲央たちの方を見て、何か言ってる感じがする。
何か言いながら、笑って、その場でボールに何か書きこんでいる。
「あれ、もしかして……」
「ん?」
玲央は先輩達のこと、見てなかったみたいで。
「なんか玲央達のこと見ながら、何か書いてたよ?」
「そう?」
「うん」
首を傾げながら、玲央も先輩達に顔を向けてる。
「投げてくれるかな?」
わー、オレがわくわくしてきちゃった。
でもコントロール、大事。
先輩、頑張って!!
もうすっかり投げてくれることは確信しつつ、じっとステージを見つめていると。なんか、ステージの上でこっちに投げようとしてた人が、止まった。
あれ??
投げないの?
と思っていると、先輩たちの中で、クスクス笑って、一人の人が、オレが投げる、みたいな動作をしてる。
投げるの上手なのかな? そう思って、めちゃくちゃわくわくしながら、玲央の腕をくいくい引きながら見つめていると。その人が、腕を引いて、投げたと思った次の瞬間には。
「えっ」
不意にまっすぐ飛んできたボールにびっくりして手を出したら。
すぽ、と、オレの手の中に入ってきた。
「――え」
手の中にあるボールに、ただ、びっくり。
オレが、もらっちゃたけど。なんだか笑ってる玲央と見つめ合う。
あれれ。ミスったのかな?? と思って、ステージ上を見ると。
グーサインを出して、笑い合ってる玲央の先輩たち。
――んん? オレでいいの??
首を傾げていると、投げてくれた人が、オレに向けて指差した後、玲央達の方を指差してくる。
あ、ボール、渡してってことかな。
「あ、はい」
なんかすごく笑いながらこっちを見てた玲央たちに、はい、とボールを渡す。玲央が、くる、と回して、メッセージを読んで、ふ、と微笑む。
「またステージでな、だって」
それを玲央に言うと、皆が、ふは、と笑って、先輩達に手を振ってる。向こうも手を振り返してくれてて。
おお、なんか、すごくいい、なんて、一人こっちで感動していると。
「ほら。あげる」
玲央がオレにボールを返してくる。
「え? 何で?」
「――優月がめちゃくちゃキラキラした顔で見てるから、お前に向けて投げたんだろ」
「え。そうなの?」
「どう見ても、そんな感じだったよな?」
玲央が笑いながら、皆に言うと、皆もおかしそうに笑って頷いてる。
「どうせいっこで分けられないし。優月が持ってていいよ」
「えー……いいの?」
いいよ、と笑う皆。
ふとステージを見ると、ボールを持ったオレを見て、投げてくれた人が、親指を立てて、ニッと笑った。「ありがとうございます」とぺこ、と頭を下げると、先輩たちは笑って、玲央たちにも手を振ると、また別の方に移動していく。
「わー……なんか」
「ん?」
「……なんか嬉しい」
言ったら、玲央がオレの頭を撫でて、「あんなキラキラしてたら、絶対オレでも渡してる」なんて言って楽しそうに、玲央が笑った。
――ふふ。大事にしよ。
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