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第855話◇
なんか、すごかった。
演奏の音響っていうのかな、そういうのも、すごいんだけど。
照明がすごくて、ステージに映し出される色んな映像とか、間で入ってくるダンスのパフォーマンスとかも全部凄くて。
なんか、全員本気のプロの人、て感じ。
歌や演奏に関しては、オレはAnkhと玲央の歌が大大好きなので、差は感じないというか、これは好きかどうかの話で。そういうところではなくて。
何だろう。ステージ全体から受ける迫力が。
本当に、すごかった。
出てる人達、誰も知らないし、歌も、一曲も知らないんだけど、それでも、圧倒されて、気付いたら体が勝手に弾む、みたいな感じだった。
「すごいよな」
そう言って、玲央が、オレをちらっと見つめる。オレは、言葉には出さず、うん、と大きく頷いた。
「こういうの見ると――やっぱ、プロはすげえなって。思う」
ぐ、と握った拳を顎に押し付けて、ふ、と苦笑。
急に音楽が消えて、今までと違う、静かな曲。多分、ここに居る人達の多くは、曲を知ってるんだと思う。皆、声を出さない。さっきまであんなに騒がしかったのに、シン、としてて。なんだか、鳥肌が立つ。
曲がどんどん変わっていって、玲央達の先輩達が演奏を終えて裏に退こうとして、オレ達の近くを通り過ぎる時、一人の人が、こっちに気づいて、指差した。すると、皆がこっちを見て止まった。玲央たちもそちらを見て、お互い、少しだけ見つめ合う。
なんか、騒がしい中。
その間の空気だけ、なんだかとても、静かに見えた。
それを破ったのは、メインで歌ってた、ヴォーカルの人。
ニッと、笑って、玲央達に向けて、グーサインを出してきた。
玲央達がふと笑った瞬間、先輩達は駆けていき、姿を消した。
「――つか、覚えてるんだな、オレ達のこと」
玲央が、苦笑しながら言うと、甲斐が「まあ、去年いい勝負してたから?」と笑う。
なんか、皆がちょっと嬉しそうで。
関係ないけど、なんかオレも。嬉しくなった。
「別にあの学内のコンテストで優勝したからプロになったんじゃなくてさ。学内のコンテストにそんなのないし。――元々プロ目指して頑張ってたってことなんだけど」
「うん」
玲央がオレにそう言った後。
皆の方をちらっと見て。
「一年で、すげー遠いな」
ふ、と苦笑い。
皆何か思うのか、言葉には出さず、小さく頷いてる。
音楽一本でやっていくかどうかって。
そう簡単に決められることじゃないよね。
今人気があっても、プロで通用するかは、きっと、やってみなきゃ分かんないだろうし。……まあ、オレ的には、トップスターになっちゃうんじゃないかって、思ってるけど、でも、そういうのって、運とか勢いとかも、ありそうだし。絶対かは分かんないもんね。
今大学二年。
卒業まで、あと二年半あるけど卒業の時点で決めておかないといけないなら、正直、三年の終わりくらいまでには、四年でどう動くか、決めておくべきだよねぇ。
――オレは、どうしようかなぁ。
玲央達は、音楽にしろ――家のこと、とか継ぐとか、色々あるみたいなこと言ってたけど。なにして生きてくんだろ。
オレはその時。
玲央と、居られるかな。
って。
――玲央と居た時間なんか、オレの人生の時間に対して、
ほんのほんちょっとの割合なのに。
そんな将来のことまで、考えちゃうくらい。
オレの中に、玲央が居る。
なくならないでほしいなーって、すごい思ってるなあ。オレ。
ふ、と笑みが浮かぶ。
こんなに好きになれるとか。
不思議だけど。良かったなぁ。
下に降ろしていた手で、玲央のシャツを、ちょっと握る。
気づかれないかなと思ったけど、玲央はすぐ気づいて、ふ、と微笑んで首を傾げた。
ふふ、と笑顔を向けると、オレを見た玲央が、何を思ったのか分かんないけど。玲央の服を握ったオレの手を離させて、きゅ、と握った。
「大丈夫、後ろからも見えないから」
そっと囁かれて。
うん、と笑って。玲央と、手、繋いでた。
(2024/11/1)
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