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第874話◇

 触れあわせた唇がゆっくりと、離れる。   至近距離で見つめ合う、玲央の瞳。綺麗すぎる……。  その瞳が細められて、優しい笑顔をまとった。  そう思った瞬間、玲央の手がオレの後頭部に触れて、そのまままた引き寄せられる。  今度は玲央から重なってくる唇。 「……ん、ん」  舌が、触れる。  ――――う。今。お弁当、食べ終わったとこ、なんだけど。  変なことが気になる一瞬。  ……お、同じもの食べてればいいけど、違うと、なんか……。  ちょっとやかも……。 「――――……」  ちょっと引いたのが、玲央には分かったみたい。 「……優月?」  そっと離されて、下から、見上げられる。  ……玲央に見上げられる角度に弱すぎて。かぁ、と赤くなる。 「嫌?」 「……ち、ちがう」 「少し離れたろ?」  ゆっくりと言葉を出しながら、くす、と笑う玲央は。  こういう時、なんだかめちゃくちゃ……見てるだけでドキドキするというか。なんか。もう……あやしいの。ほんとに。 「食べ終わった、ばっかり……だから」  味したらやだ、なんて思ったけど、言いにくい。って思ったら。  ぷ、と笑う玲央が、また唇を重ねてきた。  激しくない、少しだけ舌が触れる、優しすぎるキス。  胸の中は、きゅんきゅんしっぱなしで、激しくないのに、涙、滲む。 「――――……ふ……」  ゆっくり話されて、ぽふ、と抱き締められた。 「ラーメン……」  呟く玲央。  キスの余韻に、ぽわんとしてたオレは、数秒置いて。  ん? ラーメンって言った??  意味が分からず見上げると。 「オレ、今日はラーメン食べたけど。味、した?」 「……し、ない」 「――――ていうか。食べたばっかりとかで引くの、かーわい」  よしよし、と撫でられる。  何が可愛いのか全然分からないけど、玲央がご機嫌だ。 「珍しいよな」 「……?」  背に触れてた玲央の手が、オレの頬に触れて、すり、と撫でた。 「こういう外で、優月からキスされるの」 「……そう、だね」 「オレはいつもしてるけど……なんなら最初からしたけど」 「そだね」  笑みを浮かべながら言う玲央に、何だか可笑しくなってしまって、ふふ、と笑ってしまう。 「――オレにとったら、まだ全部、珍しいって気もするけど……」 「――んでも、オレとキスするのは、慣れてきただろ?」 「んー……少しは、ね。でも少しかなぁ」  玲央から少し離れて、綺麗な空を見上げる。 「空見てる玲央が、すごい綺麗だったから、つい、しちゃった……」 「――――綺麗だった?」 「うん。綺麗だったの」  不思議そうに言ってクスクス笑う玲央に、うんうんと頷いて見せる。  絶対、カッコいいが先に来ちゃうだけで、「綺麗」も、皆納得してくれると思うし……と思ってたら、納得してくれそうな人達を不意に思い出した。 「あ、そうだ。さっきコンビニに行ったら、おばちゃんたちが、玲央が居ないのって聞いてきたからさ。会いたかったですか? て聞いたんだけど」 「ふうん? そしたら?」 「――なんか、玲央とオレを見てると、おばちゃんたちが元気になる、みたいなこと言ってた」 「はは。面白ろ」 「でも、絶対、会いたかったんだと思うんだよね。玲央、綺麗だし、カッコいいし」  おばちゃんたちを思い出すと、クスクス笑ってしまう。 「なんかね、玲央とオレのタイプが全然違うけど仲良しで、一緒にクロに会いにいくとか、それが良いんだって言ってた。また来てねーだって」 「……へえ。そうなんだ」  ふ、と笑った玲央が、不意に立ち上がる。よしよし、とクロの頭を撫でる。 「行く? コンビニ」 「え、いいの?」 「よくない理由、ないだろ」  玲央を見上げて聞いたオレに、クスクス笑ってそう言ってくれる。 「コーヒー買いたかったし。行こうぜ?」 「うん。っていうか、おばちゃんたち、喜ぶと思う――クロ、どうしようかな。なんか眠そう……」  クロの食べてたもののゴミを片付けながら、もうほとんど眠ってるクロに笑ってしまう。いいなぁ、食べてすやすや寝て。可愛い、なんて言ってると、玲央もクスクス笑った。 「買ったらここに戻ればいいし。寝かせといたら」 「うん。そうする」  おやすみ、とクロの頭を撫でてから、玲央とコンビニに向かって歩き出す。 「なんかオレのこと、癒し、ていうんだけどね、おばちゃんたち」 「うん。まあ分かるけどな」 「ずっとそう言って、仲良くしてくれてたんだけど。なんか、玲央に対しては全然違うんだよね。なんていうかもう……きゃー! て感じというか」 「んーどうだろな。それ、オレ単体に対してかな」 「単体って何?」  聞き返すと、玲央は、ふっと笑って口元を押さえる。 「さっき言ってたろ、優月とオレが仲良しなのがいいって言ってたってさ。ペアで見るから、叫んでるんじゃねえの?」 「うーん……それもあるのかなあ……? いや、でも、やっぱり玲央ってさ」  言いながら、隣の綺麗すぎる人を見上げると、なんだか呆けて見つめてしまう。数秒見つめて、また笑われてから、ハッと気づいた。 「ほら、なんか、見つめちゃうじゃん?」 「ほらって言われても」  クックッ、と笑いながら、玲央はオレの頭をまたポンポンと撫でる。

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