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第873話◇

「え、どうしたの、玲央、何で?」 「あーなんとなく……? 連絡いれたけど既読つかないから」 「え」  スマホを見ると、玲央から「今日、クロのとこ、行ったりする?」と聞かれていた。 「ぁ、ごめん、気付かなかった」 「いいよ」  言いながらオレの隣に腰かける。 「なんとなく……先週雨で来れなかったし、ここ行くかなと」 「そうなんだ。以心伝心?」  ふふ、と笑うと、玲央はちょっと斜めにオレを見つめてくる。 「オレさ、なんか昨日、寝てる優月見ながら――――お前に会えて良かったなーと思ってたんだよな」  まだ続きそうなので、うんうん頷きながら、玲央を見つめていると。 「んでさ……クロが居なかったら、話してないだろうし、こうなってなかっただろうなーと思ってた訳」 「……うん」  あれ。なんかオレ、さっき同じようなこと思ってたような。 「で。さっきふと、クロのこと思い出して、優月に送ったんだけど。居るって確証はなかったけど、来てみて良かった」  ふ、と優しく笑う玲央。  ……なんか同じ経緯で、クロのこと、思い出してる。  ――――……なんだか、すごくすごく、嬉しくなる。 「……オレも。なんかいろいろ考えてたら、ね。玲央に会えて良かったなーって思って……それで、出会えたの、クロのおかげだなぁって……」 「――それでここに来たのか?」 「うん。あの……玲央が言ったから言ってるんじゃないよ、ほんとに」 「分かってる」  オレの言葉をさえぎってそう言うと、玲央は「なんかそれ、嬉しいな?」と笑う。うんうん、と頷くと。 「クロが居なかったら、優月、ここに来てなかったもんな」  ちょうどおやつを食べ終わったクロをみながらそう言って、玲央が少し腕を伸ばして、オレ越しにクロの頭を少し撫でてる。 「うん。クロが居なかったら、玲央と会ってなかったね……きっと人の出会うのとかって、そういう偶然なんだろうけど……」 「運命、な」  クスクス笑う玲央に、なんだかちょっと照れながら頷く。 「あ。玲央、ごはん、食べてきた?」 「ああ。優月は? ここで食べたの?」 「うん」  頷くと、玲央は、ふ、と笑い出して、そのままクスクス笑ってる。 「大学の昼にさ。こんな校舎裏にきて猫とご飯食べてる奴って、どれくらいいるかなあ、と思って」 「うーん……全国なら数人は……」 「数人いる?」 「どうかなぁ……裏に猫が居ないかもしれないし……」 「そこ?」  玲央は楽しそうに、はは、と笑う。  わぁ。なんか――――すごく楽しそうに笑ってる。今ここに蒼くんが居たら、めちゃくちゃイイ写真を撮ってくれて、きっとネットなんかあげた日には、死ぬほど大騒ぎになるんじゃないだろうか。なんて、一瞬で思ってしまうくらい。  玲央の笑顔は尊いなあ、なんて、見惚れながら思っていると。  玲央の手がオレの肩に回って、そのまま頭に触れてよしよし撫でられる。 「――――オレは、全国に数人居るか居ないかの貴重な人の隣にいるんだな」  引き寄せられてるので、急に至近距離になってしまった。間近で、クスクス笑いながら見つめてくる玲央に、ドキドキする。  キスとか、もっと、いろんなことしてるのに。  こんなところでこの距離感になると、また、そんなことしてるのが嘘みたいに、近いってだけで鼓動が速くなって、なんだか、体がポカポカしてくるような。  ていうか。……その数人は、貴重なんだろうか。  ……それより、玲央の存在の方がよっぽど貴重だけど。 「き……貴重なの? それ?」 「貴重だな」  ドキドキしながら聞くと、玲央は楽しそうに即答してくる。 「そんで、そこに一緒に居るオレは――――死ぬほど癒されるっつーか」 「……癒されるの?」 「ん」 「死ぬほど?」 「――――死ぬほど」  ふ、と笑う玲央がオレの頭をまたよしよし撫でて、肩を優しくポンポンと叩いてから、手を引いた。そのまま、んー、と伸びをしてから、ベンチに寄りかかって、空を見上げた。そのまま空を見つめている。 「なんかさ。どっか洒落たとこ行って、洒落たもん食べて、夜の間遊ぶ、とか――対極にあるみたいなとこだけどなー……」  ふう、とゆっくり息を吐くと、上向いたまま。玲央は目を閉じた。  ――綺麗だなぁ。この人は。本当に。  なんだか眩しくて、目を細めてしまう。 「……なんか、すげー好き、ここ」  柔らかい声で、気持ち良さそうに、なんだかすごく綺麗に微笑んだ玲央。  どく、と。はっきり分かるくらい心臓が弾んだ。  考えることなく、勝手に体が動いた。 「――――」  めちゃくちゃドキドキしながら。  目を閉じたままの玲央に近づいて。そっと、その唇に触れた。  すぐに玲央の瞳が開いた。  目が合うと、その綺麗な瞳が、ふ、と優しく細められて。  ますますドキドキしてるオレの背に、玲央の手が触れた。  

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