871 / 886
第876話◇
珍しくちょっと困ってる玲央が可愛いのだけど、やっぱりちょっと助け船。おばちゃんたちに話しかける。
「玲央と会えたので、コーヒー買いにきちゃいました」
「あら、そうなんだ。一日に二回もありがとうねー」
「やっぱり二人仲良しだといいなあ」
楽し気なおばちゃんたちに、ふふ、と笑って頷きながら、玲央と一緒に飲み物コーナーに移動する。目が合うと、玲央がなんだかおかしそうに微笑む。
「――優月は何がいい? 紅茶?」
「あ、うん……紅茶がいいな」
「ピーチ?」
いつもオレが手にとる紅茶を見つけて、玲央がそう言う。うん、と頷くと、コーヒーと一緒にピーチティーも取ってくれた。
「他に何かいる?」
「ううん。ありがとう」
レジに向かう途中で、並んでいる教習所のパンフレットが目に留まる。
「ああ、教習所?」
「うん」
「見てていいよ。買ってくる」
「あ、うん。ありがと」
まだ見てない教習所のパンフレットを手に取って振り返ると、玲央がおばちゃん達と話してる姿に、なんとなくクスクス笑ってしまう。近づいて玲央の隣に並ぶと、おばちゃん達がオレの持ってるパンフレットに目を止めた。
「優月くん、免許を取るの?」
「あ、はい。今、いいとこ探してて」
「なんだか優月くんが運転とか、不思議……」
「それは私も分かるかも」
「あー……なんか、おなじようなことよく言われます……」
おばちゃんたちにまで言われてしまった、と思いながら、あはは、と笑って答えると、隣で玲央がクスッと笑ってる。そこで、しまった、みたいな顔して、おばちゃんたちが焦りだした。
「ち、違うのよ、優月くん、可愛すぎるから、ね」
「そうそう、イメージね。でもそうよね、大学生で免許取る子はおおいもんね。玲央くんは持ってるの?」
焦って話を玲央に向けたおばちゃん達とオレを、面白そうに見ていた玲央が、ふ、と微笑んで頷いた。
「オレは去年とりましたよ。結構乗ってます」
「そうなんだ。どんな車に乗ってるの?」
「家族の車なんですけど……」
車種の話をしながら、玲央が紅茶をオレに渡してくれる。ありがと、と受け取ると、玲央が微笑む。
「玲央くんの車、優月くんは乗ったこと、あるの?」
「あ、はい。玲央、運転すごく上手なので、オレもそうなれたらいいなあって思ってて」
「オレも、優月が免許を取って、乗せてくれるの楽しみにしてるんで」
言ってくれたことが嬉しくて、玲央を見上げると、視線が合って、自然と微笑んでしまう。
「うん。安心して乗ってもらえるように頑張る」
「ん」
くす、と笑う玲央に目を細められて、どきん、と胸が弾む。
……人前でも全然関係なく、その顔するんだもん。嬉しいけど、ドキドキしちゃうから困っちゃうよね……なんて思っていたら。
「玲央くんの助手席に乗りたいって女の子、多そうね」
あれ? と、おばちゃんの言葉に、咄嗟に色々考える。
そんな風に言うってことは、まだオレ達が恋愛的にどうのっていう風には思われていないのかな。ほんとにタイプ違うのに仲がいいなあっていう意味で見てるのかな。
なんだ、じゃあ、おばちゃんたちの前で、変にドキドキしなくても平気かな……あれ、でも、なんかこないだはきゃあきゃあ言ってたような……あれは、玲央がカッコよかったから??
別にバレてもいいのだけど、なんだかとても反応がすごいとドキドキしちゃうから、そう思われてないなら、それはそれで……と思った瞬間。
まあ、と玲央が曖昧に頷くと、「やっぱりそうだよねえ」とおばちゃんたちも納得したみたいに、うんうん頷いてる。玲央とふと目があって、何となく歩き出しそうな雰囲気だったので、オレも、さよならを言うタイミングを計っていると。
「――――でも、乗せないですけどね。優月が乗ってくれてれば、それでいいので」
そんな風に言って、ふ、とキラキラした瞳で、悪戯っぽく微笑む玲央。
え、とおばちゃん達が固まってる間に、「じゃあまた来ますね」と言った玲央に、背中を、とん、と押されて、なんとか「さよなら」だけを言って、店を出た。
二人で、すたすた。なんだか早歩きで店を離れる玲央について歩きながら、見上げると。
「すっげーびっくりした顔してたなー」
くっくっと肩を震わせてる玲央。
「玲央ってば。前回もおばちゃんたち、きゃーて言わせてたのにー」
「はは。だって、なんか、オレ達のこと、まだちゃんとは分かってないみたいだったし。でも少し探り入れてきてるのかなーって思ってさ。面白いから、またノってみたんだけど」
あーおもしろ、と言って、心底楽しそうに、クスクス笑ってる。
もー玲央ってば。完全に面白がってるけど。……オレだけ乗ってくれてればいい、とかさ。もう。
「……オレまで、ドキドキしちゃった」
そう言うと、ん? とオレの顔を覗き込んで、ふ、と楽しそうに目を細める。
(2025/4/8)
いつも、色々なお話を読んでくださる皆さま。ありがとうございます。
とくにメッセージや反応下さる方にむけて、
ありがとうをお伝えしたくなってBlogに書いてます。
良かったらお読みいただけたら…(★´∀`)ノ❤
ともだちにシェアしよう!

