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第880話◇

 授業が終わって、皆と別れて、少しゆっくり玲央との待ち合わせ場所に向かう。  正門の少し脇で立ってると、通りかかる友達が、ばいばーいと通り過ぎていく。前だったら、皆、待ち合わせ? とか、聞いてきてた気がするんだけど。誰も全然聞いてこないのは、その相手も分かってるってことなのかなと、人に勝手に想像しながら、手を振り返す。  オレに、彼氏がいるっていうの。結構もう皆が知ってる気がするもんなぁ……。  それでこんなに普通で居られるの。良かったなぁと思いながら、帰ってく人達をなんとなく目に映す。  大分、人が減ってきた。  玲央はどっちから来るんだろう。  ――さっき、玲央を待ってるのは楽しいからって、玲央に入れたけど、あれは気を使ったとかじゃなくて、本当にそう思ってる。  早く顔が見たいなぁとも思うんだけど、  この、玲央を待ってる、という時間が嬉しい。  少し前まで知らない人だったのに。  今となっては、誰よりも近い。  恭介と別れる時、「仲良くなー」と言われて、頷いたら、「言われなくてもラブラブか」とか言って笑われた。からかわないでよ、と言ったけど、なんかめっちゃ楽しそうにバイバイしていった。  ラブラブ……。  そんな言葉が、オレに使われる日が来るとは……。  というか、玲央との日々は、ラブラブって言うのかな??  ……どこかで聞いたことがある言葉だけど、実際、何だろう、ラブラブって。なにがあれば、ラブラブって言えるのかなぁ??  キスしたり、してれば、ラブラブ?  ……キスはしてるかな。ていうか、玲央がいつもオレに触ってくれている気がする。頭撫でられたりするのも、ラブラブってことになるのかなあ。 「――――」  あたりを見回して、まだ玲央は見えないので、スマホを取り出してみる。  ラブラブ……「カップルの仲がいいこと」だって。ふうん。仲が良いことなら、仲は良いかな。  いちゃいちゃって言葉も出てきた。そっちは体のスキンシップを含むんだとか。違うんだ。へええ。  なになに。ずっとらぶらぶでいるには……?  ぽち、とリンクを開きかけた時。 「優月、おまたせ」  びくぅ!!  大きく震えたオレが振り返ると、後ろに立ってた玲央が、ちょっとびっくりした顔をして、それから、ふ、と瞳を細めた。 「ごめんな、遅くなって」 「ううん、全然平気。よ、用事、終わった?」  さささ、とスマホをしまって、玲央の隣に並んで、歩き始める。 「ああ。バンドの練習場所の予約のことで、事務センターに行かなきゃいけなかったんだけど、今日は勇紀、ダッシュで帰らなきゃって言っててさ」 「そっか。おつかれさま」 「ん。ごめんな」 「ううん。ちょっとしか待ってないし」  むしろもうあとちょっと検索結果、見たかったような、と思いながら笑った時。 「なに見てたの?」 「ん?」 「―――すげえ震えてたから」  さっきのオレのびっくりしてたのを思い出してるみたいで、玲央は、クッと笑ってる。 「優月じゃなかったら、エロいのでも見てたのかと思うとこだけど」 「みみみ、みてないし!」 「そんなに狼狽えると、見てたのかと思うけど」 「あ、あんなとこで、そ、そんなの……っ」  かぁぁぁっと顔が熱くなって、ちょっと涙まで滲んでくる。  じっとオレを見た玲央は、ふっと微笑んで、オレの頭をぐりぐり撫でてくる。 「―――見てないのは分かってるって」  頭を撫でられながら、少し玲央に引き寄せられる。  肩を組まれて、ぽんぽん、と肩を叩かれると、ふわ、と玲央のいい匂い。 「ていうか、優月って、そういうの見る?」 「は? ……~~~っっ」  意味が分かった瞬間、至近距離の玲央の瞳に耐えられなくなって、ぼっと、赤くなったと思う。 「――はは。もう……可愛いなあ。帰ったら聞くことにする」  くしゃ、と優しく撫でられて、少し離れる。  か。帰ったら聞くって……??  瞬き、ひたすら多くなる。 (2025/6/6)

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