874 / 886

第879話◇

 玲央と別れてご機嫌で歩いていると、恭介と出会った。あ、次一緒だね、と、並んで歩きだした。 「よかった、恭介、ちゃんと学校来てるんだね」 「優月に超心配されてたから、来てるって」 「よかったよかった」  笑いながら頷いていると、恭介が、なんだか、ニヤニヤしている。  むむ。聞くべきか、聞かないべきか。ちょっと考えるけど。  やっぱり聞きたい。 「何でそんなに、ニヤニヤ?」 「だって、またお前、にっこにこで歩いてくるから」 「えっそんな笑ってないし。変な人じゃないんだから」 「まあ正確には、頑張って笑顔を隠して歩いてる? みたいな」  その言葉には、なんだかもう返す言葉が見つからない。だって言われてみたら、たぶん、そんな感じで歩いていた自覚があるから。  あれれ。なんか、一瞬顔を合わせただけで、バレちゃってるのか。と思うと。なんだかな、と思う。 「あれだろ、彼氏と会ってたんだろ? 今まで」 「そ、そんなことは」 「あるだろ。つか、お前、ほんと、嘘つけないな?」  面白そうに笑う恭介に、思わず、ふー、と息をついてしまう。 「恭介って、ほんとに、心が読めるんじゃないかと……」 「いやいや、むしろ優月が、心をさらけ出して歩いてるって感じ?」 「さすがに、そんなことはないもん」 「オレが読めるんじゃなくて、優月がすごいんだろ」 「オレ、別にさらけ出してないし」  むむ、と恭介を見つめながら訴えていると、ぷぷ、と恭介は更に笑う。 「オレは、お前のそういうとこが、いいと思ってるからさ、否定しなくていいのに」  クックッと笑いながら、オレの顔をちらっと見て、続ける。 「嘘つけなくて、顔に全部出てるけど――でも、バカな訳じゃないっていうのが、良いとこだよな?」 「んん? 恭介、それは褒めてるの?」 「えー? すっげー褒めてるけど」 「ほんとに?」  首を傾げながら笑ってしまうオレに、恭介もおかしそうに笑って頷く。 「まあ聞かなくても分かるけど、一応聞く。ラブラブは続行中?」 「ラぶ……っ」  言葉を繰り返しそうになって、恥ずかしくて止まったオレを見て、「ほんとに優月は答えなくても分かる」と笑う。  からかわないでよ、と言いながら、教室にたどり着いて、後ろの方の席に座った。 「まあ、聞いたばかりだから、決まってるか」 「うん。そうだよ。話したばかりでしょ」 「いや、でも、早いやつは、三日とかでも別れるし」 「三日で?」 「こないだオレの友達、付き合って二日目でデートして、その初デートの翌日、別れ話してた」 「えええ?? そんなことあるの??」  全然意味が分からない。 「それってさ、ほんとに好きだったのかな? だって、すごく好きだったら、初テートに何があっても別れないよね?」 「いや、それがさ。別れる奴は、昨日好きだって言ってても、今日になったら別れたりするんだよな」 「謎すぎない? やだよーそんなの」  どうしよう、明日になって、玲央に、やっぱり嫌いって言われたら。  想像するだけでも痛いから、想像しないでおこ。  やだやだ、と思って首を振ってるオレに、恭介が笑いながら。 「お前んとこは、大丈夫だって」 「何を根拠に……?」 「優月は、こんな奴だとは思わなかった!とか言いそうにないからさ」 「オレは確かに言わないかもだけど。玲央に言われちゃう可能性もある?」  そう言うと、少し考えて、恭介がちょっとオレから目を逸らす。 「――んーまあ、無いんじゃねえ?」 「なんか適当だしー!」 「根拠ねえもん。だってオレ、あいつの中身まで知らないし。噂通りなら、気に入らなければ速攻で別れそうだけど」  苦笑して言う恭介に、「噂通りじゃないもん」と膨れて見せる。 「ていうか、そもそも初デートで別れる人なんて、そうそういないでしょ?」 「割といるんじゃない? 上手くいかなかったら早々にってさ」 「えー。分かんないなあ。難しいよねぇ、人の気持ちってさぁ」  むーん、と何だか眉が寄ってしまう。  と、その時。スマホが震えたのに気づいて、通知を見ると、玲央からだった。 「あ、ちょっと待って、恭介」  そう言って、メッセージを開くと。 『勇紀に頼まれごとして、ちょっとだけ寄るとこあるから、少し遅れる。ごめん』  そんなメッセージと、可愛いスタンプが謝ってるとこ。  玲央が送ってくると、なんだかめちゃ可愛く見えてしまう。 『全然大丈夫。玲央待ってる時間は楽しいし。ていうかつきあってくれるの嬉しい。ありがと』  そう入れると、またまた可愛いスタンプがバイバイをしている。オレもバイバイを送って、スマホをしまった。 「恭介、ごめんね。えっと」  話、なんだっけ、と考えて、思い出した、となったところで、恭介が手を振って、もういいからと笑った。 「スマホのやりとりくらいで、そんな嬉しそうな顔してる内は、絶対大丈夫」  呆れたように笑って言われて、そんなだった?と頬に触れながら、すこし考える。   「ん……でもさ、恭介」 「うん?」 「オレは、大丈夫って信じてたいなーって思うかも」 「……ふーん。まあ、お前らしいよな?」  くす、と恭介が笑った。 (2025/6/2)

ともだちにシェアしよう!