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第878話◇

「玲央、どうかした?」  そう聞くと、玲央はオレの顔を見つめてから、クスクス笑い出した。 「なんだかなぁ、と思ってさ、オレ」 「ん……?」 「――優月と付き合うようになってからさ。昼休み終わる時に離れたくないとか、そういうこと、思うようになってるのは、自覚してんだけどさ」  くす、と玲央が笑いながら髪を掻き上げる。……その動き、カッコいいなぁなんて、関係ないことを思いつつ、ん、と頷く。 「忙しいことなんて今までも色々あったし。そういう時、会えなくて寂しいとか、過去にも結構言われてきた気がするんだけど」 「うん」 「――寂しいって言ったって、しょうがないことだろって思ってたんだよな、オレ。忙しいってさ、普通に生きてれば誰にでもあることだし、その期間、しばらく会えないことなんか当たり前って思ってたし」 「うんうん。分かる」  分かる。オレもそう思う。玲央は特にそういう風に思うんだろうなぁ、とも分かる。  それは冷たいとかじゃなくて、仕方ないことだって割り切る感じだろうし。まあでもさすがにオレも、仕方ないと分かってはいるし、今までそんなこと、思ったことないけど。今、オレは、玲央のことが好きすぎてずっと一緒に居たいなんて思うから、寂しいって気持ちがあるのだと分かってる。 「でも今、優月が寂しいって言った時さ。なんかすごく実感したかも」  ん? と、玲央と見つめ合う。またちょっと困った顔で笑ってる。 「仕方ないのがちゃんと分かってんのに、寂しいっつー気持ちが……なんかすげえ、分かって。ほんとオレって、全部が今更だなって思ってさ」 「……玲央も、寂しいなって思うてこと?」 「――思うよ。居られなくて寂しいって、こういう気持ちかって、ちゃんと分かってきたし」  唇の端をあげた、綺麗な笑みと、そのセリフの内容に。  聞いていたオレの心臓は、きゅう、と締め付けられる。 「まあでも――できる限り、一緒に居るから。迎え行くし。付き合うし。朝晩は一緒だし」  そこまで言ってから、玲央、ふ、と微笑んでオレを見つめる。 「……ってオレ、そういう……寂しいからって出来る限り一緒に居たい、とかも……初めてちゃんと分かったかも」  クスクス笑いながら、玲央がオレの頭をナデナデと撫でてくる。  そのまま、すぽ、と抱き締められた。 「なんか、こういう気持ちって、謎すぎるけど」 「……ん?」 「悪くないかも」  そんな風に言って笑ってくれるので。  もちろんオレも、出来る限り一緒に居るからねっと、うんうん頷いた。   「今日、優月、学校の後、あいてるよな?」 「うん。五限までだよ」 「その後、一緒に教習所、見に行ってみる?」 「えっ。いいの?」 「実際見た方が、雰囲気とかも分かるだろ。しばらく通うんだし」 「うん、そうなんだけど。玲央、一緒に行ってくれるの?」 「行く。ていうか、いらないかもだけど、ついてく」  苦笑してる玲央に、そんなことない、と首を振る。 「玲央は行ったことあるから、良さそうかどうかも、分かるでしょ?」 「ん。少しは」 「わーありがとう。嬉しい」 「――――……」  嬉しくなって、玲央を見上げると。  玲央、ちょっと固まった、ような……。 「……? れお?」 「――お前の、そういう、笑った顔……」 「ん?」 「――――んー……なんでも ない」 「……??」  なんだかちょっと頭を掻いて、玲央が、苦笑しながら立ち上がる。  クロを撫でてお別れをして、校舎の方に向かう。別れるところで立ち止まると、玲央がオレを見つめた。 「正門で会おうな。そのまま行こ。どこに最初に行きたいか考えといて?」 「うんっ。ありがと、玲央」 「――ん」  またじっと見つめられて数秒。  ん? と首を傾げると、よしよし、と頭を撫でられる。撫でられて一回逸れた視線をあげて、もう一度玲央を見ると、また苦笑いを浮かべている。  何だろう、その笑い方、と不思議に思っていると、気付いた玲央が少し瞳を細めた。  ぐい、と腕を引かれて、耳元で。 「――優月、可愛くて、困る」 「―――― へ……」  囁かれた言葉を理解した瞬間、ぼ、と赤面。 「あんまりその笑顔で、色んな奴、見上げんなよな」 「……え。えっ……と」 「ん?」 「……多分、誰も、そう思わないと、思う……」 「んー……でも気を付けて。じゃな?」  戸惑いまくりで言ったら、玲央は少し考えながらまたクスッと笑って、最後にもう一回オレを撫でてから、綺麗な笑顔を見せて歩いて行った。 「――――……」  うう。  絶対玲央の笑った顔の方が、強烈なのに。    玲央はオレの、何をもって、可愛いって言ってるんだろう。  昔の言葉にあばたもえくぼってあるけど……それだろうなぁ、きっと。  好きならなんでもよく見えちゃうっていう……。  うーん、それにしても不思議。  

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