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第917話◇

 急いで帰ったら、母さんいるし。  オレが、めっちゃ優月を可愛がってるとこ見られたし。マジであれは最悪……。その事実を無かったことにしたいくらい。  優月が、すげー焦ってるなとは思ったけど。  照れるのはいつも通りといえばいつも通りな気もして、止まらなかったオレも悪いが。息が出来なくなったよな……。  ――何故か、一緒にカレーを食べていたらしいし、  連絡先交換してるし、すっかり仲良くなってて。  母さんは、オレが何か言う前にもう、優月を認めていた気がする。      オレがいない、オレの家で、  恋人が、母親と、異様に仲良くなっている。  ……そんなことって、普通はないよな。  そう思うとおかしくなってしまう。  あの後、優月を抱いて、優月が寝落ちて――  しばらく優月を見つめているのだけれど。  オレはなんだか、とんでもなく不思議な生物に、  恋したのではないだろうか。なんて、ふと思ってしまう。  こうして見てると、ほんと無邪気な寝顔の普通の男、なんだけど。  ――この瞳が開いて、この唇が言葉を発すると。  周りが皆、優月を好きになって、ちょっとペース、狂わされる。  母さんだって、少しは心配して見に来たんだろうに。  なんであんなに仲良くなってんだか……  どうやればそんなこと、出来るわけ?  修羅場になったって、おかしくないような状況だよな。 「……ん」  寝返りを打って、より近づいてきた優月の頬に人差し指で触れる。ぷに、と軽く沈む。つんつんつついていると、んん、とちょっと嫌そうに眉が寄った。  ふ、と笑みがこぼれて、つつくのをやめた。  ……さっきまで、エロい顔して、抱かれてたのに。  可愛いなぁ、この感じ。  ――優月といると、ちゃんとしていられる。  咄嗟に出た言葉だったけど。  優月といる自分が、悪くないと、思えている。 「ゆづき……」  小さく、名前を呼んでみる。  心ん中が、ほっとする。  ほんの少し前まで、知らなかった奴なのに。  出会いって、ほんと――運命みたいなこともあるんだなぁ……。  眠っている優月を見ながら、そんなことをぼんやりと、ずっと、考えていた。  ◆◇◆  翌日の昼。勇紀に「昨日早く着けた?」なんてなにげなく聞かれて――オレが「帰ったらオレの母さんがいて死ぬほど驚いた」と話したら、勇紀が目を丸くした。 「え。帰ったら……玲央のお母さんがいたの? マジで?」 「……マジで」 「ええ……それって……優月と、玲央のお母さんが、一緒に過ごしてたってことでいい?」 「そう……」 「――いきなりってことだよね? 優月にとって」 「そう、だな」 「ひえー……」  驚いた顔のまま、口元を押さえている。やっぱり驚くよな、と思っていると。 「でも、なんとかなっちゃってた、とか?」  勇紀がそんな風に言うので、オレは勇紀に視線を向けた。 「なんでそう思う?」 「なんでって――優月だから、かなぁ」  苦笑しながら言う勇紀に、オレは、ふ、と息をついてから、不思議なことを口にした。 「つかさ。普通に考えてさ」 「うん」 「――オレの留守に、オレの家で、オレの母親とばったり会ってさ。そんなんで、なんとかなるなんてこと、あると思うか?」 「ええ……」  そう言われると……と勇紀が眉をひそめて、んー、と考えている。   「普通ないよね。てか、もう、気まずくて、そこにいるのも厳しい……」  そう言ってから、勇紀は、ふ、と苦笑した。 「でも優月は、平気なんじゃない? 大丈夫だったんでしょ?」 「――……まあ」 「やっぱり――ってか、でもすげー……」  くすくす笑って、勇紀がオレを見つめる。 「オレが優月と出会ったのも、オレが具合悪くなって助けてもらったって言ったじゃん?――知らない奴、送ろうとするのもすごいけど、家に入れたオレもすごいよね」 「まあ普通は入れないよな」 「入れないよ。なんだろうね。……信じちゃうんだよね、優月のこと。警戒できないっていうか。不思議だけど」 「――安心、するよな。なんか」  ぽろ、と漏れた言葉に、勇紀がぱっとオレを見つめた。 「あんしん! そう、それだね! 優月といると、安心する」 「――……」 「他の人といても別にそんな不安ってわけじゃないんだけど……なんだろうね。言葉では言えないかも」  昨夜一人で考えてたから、自然と出てきた「安心」って言葉。  勇紀がそれにものすごく笑顔になって納得してるらしい。  安心、か。  ――それはあるかも。まあ一緒にいて安心、て大事ではあるよな。  と、そこまで考えて、ふと気付く。  優月はオレに安心してんのかな。  まあ……ぽやぽやした顔で隣にいるけど。……聞いてみよ。

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