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第918話

 食事を口に頬張りながら、勇紀が笑い出した。 「なんかさあ。社長たちも、打ち合わせに優月が来てもいい、とか。めーっちゃ甘いよね」  勇紀がくすくす笑って、思い出し笑いを浮かべている。 「だって、優月ってバンド的には全然関係ない立場じゃん? まあ、ライブしてる間は見てればいいだろうし、終わったら遊ぶときに居るのは自由だろうけど。ライブの打ち合わせに来ていいとか言ってて、ちょっと笑えた」 「ああ。それはオレも思ったけど」 「玲央が帰った後、少し話してたんだけどさ、ほんとに連れてきていいのか甲斐が聞いててね」 「ああ」 「そしたら――あの子は漏らさないでしょって社長たちが言うからさ。なんでそんな信じてるのって言ったら、面白くて」  勇紀は愉し気にオレを見つめる。 「玲央みたいな、人を俯瞰して見て、めっちゃ冷めてるような奴がね、可愛いって言ってめっちゃ信じて大事にしてるような子なんだからって言うわけ。どうやらさ、優月そのものを信じてるっていうよりは、これに関して、玲央の人を見る目を信じてるらしいよ」 「…………へえ……」  人を俯瞰して見て、めっちゃ冷めてるような奴。  ……間違いではないが。 「まあ、優月くん自身もめっちゃ可愛いから全然いい!って言ってたから、そっちがメインの理由な気もするけどさ。――面白くない? 玲央が信じてるから、信じる、とか」 「……喜んでいいのか、よく分かんねえけど」 「あ、まあ確かに……めっちゃ冷めてるような奴ってセリフ?」  黙ったまま頷くと、勇紀はクスクス笑いながら、オレを見つめる。 「俯瞰して見るっていうのはもはや、玲央の特質だから、変わんないだろうけどさ。だからこそ、歌詞とかも、いろんな視点で書けるんだろうし」  フォローしてる? と苦笑しながら聞いていると、そこで勇紀がぴた、と止まった。   「――でも、めっちゃ冷めてるような奴っていうのは……ちょっと前までの玲央のことだよね」 「……って、今はどうな訳?」 「えー今ー?」  あは、と笑い出す勇紀に、「あーもういい」と言ったとき。  遠く、入り口の方に、ぴょこ、と優月が顔を出した。あ、と思った瞬間、優月もこっちに気づいて、笑顔で手を振っている。そのままこちらを指差しながら、後ろから出てきた颯也と甲斐に話しかけている。 「途中で会ったのかな」  勇紀も手を振って、そんな風に言いながらオレの方を見た。そのまま、オレのところで視線を止めて、それから、意味ありげに、口角を上げる。 「なんだよ?」 「んー……うん。そうだねぇ……」  口に手を当てながら、優月の方にもう一度視線を向ける。 「そんなに、優月が来て、嬉しい?」  ちら、と見られて、は? と少し首を傾げる。 「だって、今朝も一緒だったんだよね? なんなら……4時間も経ってないくらいだよね?」 「そうだけど――んだよ?」 「だってなんかもう……嬉しいんだろうなぁって顔してるし」  くすくす笑う勇紀に眉をひそめる。延々からかわれながら、ちょっと考える。  ――確かに、優月がひょっこり現れた時、ふ、と気持ちが弾んだし。  そのあと、颯也と甲斐と一緒なのを見て、たまたまじゃなく、こっちに来るんだな、とは――ちょっと嬉しくは、思った、けど……。  つか、それでも。オレ、そんなに顔に出る奴じゃないはず。  敢えて少しムッとしたまま、口元に手を当てて考えていると。 「そんな怖い顔、今さらしなくていいってば」 「……黙れよ、もう」  ため息をつきながら言ったオレの耳に「勇紀、おはよ~」と言う明るい声が響く。 「おはよ、優月。颯也たちに連れてこられた?」 「うん。ちょうど会って……夏の話がしたいからおいでって言われて、来ちゃった。玲央、隣、座っていい?」  にこにこしながら、オレの隣に立って、少し身をかがめて、オレを覗きこむ優月に、ん、と頷く。  すると、トレイを置きながら、にこー、と満面の笑みを浮かべた優月が隣に座る。……ああ、なんかもう、ほんと。 「――……」 「え?」  自然と優月の頭に手が伸びて、ぽんぽん、と撫でてしまった。  きょとん、と見上げられて、それから、嬉しそうにまた微笑む優月に。  オレも自然と微笑んだ。  瞬間。 「はー…………」  大きなため息をついた勇紀に気づき。  目を据わらせたオレは、勇紀に向けて、べ、と舌を出した。 「……優月に対する態度と違いすぎると思うんだけど」 「――まあ、そこは可愛さが違うからな……」 「はー?? もーいいけどさ、別に玲央に可愛がられたくないしー! てかもう、優月、こっちおいでよ、そんなとこ座ってたら、常に触られまくるから!」 「えええ……」  優月がくすくす笑っていると、あとからこっちに向かってきている颯也と甲斐が、騒がしいオレ達……特に勇紀に、苦笑してるのが見える。

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