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第925話◇

 昼の休憩時間が終わり、優月や他の皆と別れて颯也と歩きだしたところで、颯也がふと笑い出した。 「――なんか、優月がオレらといるの、当たり前みたいになってきたけどさ」 「ん?」 「まだ知り合ってそんな経ってないんだよな。なのに、今度はバンドの話のとこにも来ていいよ、とか――ちょっと意味分かんねーな」 「……まあ、確かにな」 「ま、一番意味分かんないのは、お前だけど」  少し長い前髪を邪魔そうに掻き上げながら、オレをちら、と見つめる。 「稔じゃないけど、別人が中に入ってる? と思うレベルだよな。――今の玲央を、見慣れてはきたし、優月がいるのも普通になってきてるんだけど……改めて考えると、全然意味が分からねー。だって、他の誰よりも、玲央だからさ」 「――まあ、な」 「優月に会ってなかったら、一限に大学になんて居ないだろ? 夜遊びして、セフレんちから学校来て――とか。まだやってたよな?」 「……たぶんな」  ふと少し前の自分を思い起こして、否定せずに、頷いた。だよなー、と颯也が笑う。 「誰かと会うことで、人生変わることもあるんだろうって、なんとなくは分かるけど。変わりすぎじゃねえ?」 「……そうだな。確かに。自分でも、そう思うけど」 「けど?」  けど。  ……特に考えずに言った言葉だったので、聞き返されてちょっと詰まる。  自分でもそう思うけど。けど、なんだ? 「変わりすぎだとは、思うけど……」 「うん。けど? 何?」  颯也が面白そうにオレを見て、何か言うのを待ってる。 「けど、まあ――」  脳裏に、昼休みに見せた優月の笑顔が掠めて、オレは小さく息を吐いた。 「今のこれが、悪くはない、と思ってる――かな」  ちょっと視線を逸らしながら言ったオレに、ふーん、と口を少しとがらせて、それからニヤ、と笑った。 「一人じゃ飽きる、とか言ってたのは?」 「ん?」 「いろんな奴と寝てる方が、飽きなくていいじゃん、とか」 「――うわ。んなこと言ってた? オレ」 「言ってたよ。覚えてる」  くっ、と笑う颯也に、そうだっけ、と考える。――あーでも。言ったかもな。セフレの話とか、いろいろ聞かれると、面倒で――適当に、返してた気もする。……というか、まあ、それももしかしたら、当時は本気で思っていたかも。 「……最低だな、オレ。それ、セフレが聞いても、嫌だよな」 「――」  そう言ったオレを、颯也はびっくりしたみたいな顔で、目を見開いて見つめてきた。 「んだよ」 「――いや、んだよって…… ははっ」 颯也が、こらえきれないといった風に可笑しそうに笑いだした。 「なんかもう――変わりすぎ。玲央がそんな、反省しちまうとか」 「……つか、悪かったって。何も考えねーで喋ってたかも」 「じゃあ、今は飽きないのか?」  面白そうに目を細めて聞いてくる颯也に、オレは少し考えた。頭に浮かぶのは、この腕に抱いてるときの、優月の表情とか反応。 「飽きるとか、そういうんじゃ、ねえな……」 「うん」 「――なんて言うか。その度に、余計可愛くなってく気がすんだよな。……きりがねぇかも」  ぽつりと言って、自分でも気恥ずかしくなったオレは、髪をくしゃ、と掻き回して視線を逸らした。  颯也は何も言わない。ふと視線を戻すと、颯也はまた少し目を大きくして完全に絶句していた。オレと目が合うと、肩を竦めさせた。 「……颯也?」 「――いや。お前さあ……」 颯也は深々とため息をつくと、本当に信じられないものを見る目でオレを見つめた。 「絶対それ、聞いたら、優月また真っ赤になると思う……つか、キャパオーバーで爆発するぞ」 「――だな」  真っ赤になってプルプル震えてる優月を思い浮かべて、ふ、と口元が緩む。可愛いから、言ってみようかな。そんなことを思っていると、見透かしたように、颯也が苦笑した。 「絶対いま、真っ赤になってる優月かわいー、とか思ってたろ。顔に出すぎだからな」 「あー……大体あってる」 「はいはい……ごちそうさま」  あからさまに遠い目をして肩をすくめて歩き出す颯也の背中を追いかけながら。  午後の講義、早く終わんねぇかな。  別れれてからまだ数分。もう優月の顔が見たくなってる。そんな自分に、ちょっと笑うしかなかった。

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