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幕・4 禁忌ほど犯したいもの
「だったら、したいときに使わせてもらう」
リヒトの膝裏に手をやって、ヒューゴは彼の両足を持ち上げる。
一度、その身体を浮かせるように、して。
「ひ、ぁぁあああぁ、ん!」
落とすようにすると同時に奥を強く突き上げれば、また、あられもない声が上がった。
それに心地よく耳を傾けながら、ヒューゴは呟く。
「さすが、神聖力の強い皇帝陛下の精気は違うな」
了解の上で、ヒューゴは、セックスの最中に放たれるリヒトの精気を食べているわけだが。
だいたい、お腹いっぱいになるのは早い。
それだけ、リヒトの精気は上質だった。
それでも行為を続けるのは、気持ちがいいし、リヒトが可愛いからだ。
普通の食事だけではヒューゴは飢えてしまうことを知っているリヒトは、とにかく与えようとしてくるが、実はこれは過剰である。
途中から、ヒューゴの食事は必要なくなるゆえに食べなくなるわけだが。
(これがなんだか、逆にリヒトの精力の強さに繋がってる気がする…)
放たれる精気は、年を経るごと、また、リヒトが得る快楽が強まるほど、濃密になる。
それをヒューゴは受け取りはするが、ある程度はそのままリヒトへ返す形になっていた。
身体をつなげた、その時に。
結果、余計にリヒトの神聖力は底上げされ、神殿で生活をする神官たちの中には、彼を目にするだけで涙を流して跪く者もいる。
おそらく、リヒト・オリエス皇帝は、現在、この地上において、もっとも神に近い存在なのだ。
そんな、人物が。
悪魔相手に、真昼間から淫行に浸る。
―――――まさに、禁忌だ。
(まあ言い訳なら、いくらでもできるけどな)
できるなら、誰にも知られない方がいい。
ヒューゴは、ちらと天井へ視線を流した。
身を押し揉むように快楽に溺れ、ヒューゴの突き上げにいじめられているような泣き顔を見せるリヒトは、どこまで気付いているだろうか?
(あんなところに、覗き見と盗み聞きの仕掛けが施されてるなんてな…変質者か?)
ここはトイレである。
ヒューゴは自身がしていることは棚に上げて、そちらを睨みつけた。
結界を張った時点で、いや、そもそもリヒトがやってくる前に無効化したが、大概の者は気付かないに違いない。
「あ、ヒューゴ、ヒューゴ…っ」
壊れたように、それでいて幸せそうに、繰り返しヒューゴの名を呼ぶリヒトに、自身の限界が近くなってきたことをヒューゴは悟った。
「…ここに、いるぞ?」
立つのもおぼつかないリヒトの足を下ろしやって、後ろから抱きしめながら、ヒューゴはリヒトごと前へのめる。
一方の腕で、とろとろになったリヒトの腰を支え、勢い良く突き上げれば、閉じることができないリヒトの唇から、唾液がこぼれ、流れ落ちた。
涙の筋が頬を伝い、それでも、至福がリヒトの表情を彩っている。
されるがままの表情に、不意に驚きと不満が宿ったのは、
「や、なんで…っ」
ヒューゴが突如、彼の中からイチモツを引き抜いたからだ。
しかもそれが、リヒトの内腿に生ぬるいものを放った。
「な、んで…、中で、出さない…?」
呆然と尋ねれば、
「ああ?」
気怠そうに、ヒューゴは答える。
「言わなきゃわからねえか?」
もちろん、リヒトだってわかっていた。
彼にはまだ山積みの仕事が残っている。
なにより、ヒューゴの、特に精液は、強力な媚薬の効果を人体に与えるのだ。
そんなものを今、体内で出されるわけにはいかない。
それでも、欲しかった。
常軌を逸した快楽の名残に震えながら、鼻をぐずつかせたリヒトに、
「あー…、悪かったよ。キツく言いすぎたか?」
ヒューゴは弱ったような声を上げて、リヒトの身体を支えるように正面から抱きしめる。
そして、額に、頬に、唇に、何度もキスを落とした。
啄むようなキスを唇にされ、最中、リヒトはヒューゴのソレを捕らえた。
ちゃんとキスをすれば、宥めるような動きに、気持ちが落ち着いてくる。
激しく抱かれるのも好みだが、甘やかすヒューゴの腕と動きがリヒトは本当に好きだった。
気付けば震える腰を抱かれ、唇を解かれ、ヒューゴが額と額を合わせてくる。
「後始末をする。またあとでな」
言われる端から、もう次が待ち遠しかった。
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