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幕・9 賞賛も悦楽

振り切るように、ヒューゴはひょいとリヒトごと一度立ち上がった。 彼の脇の下へ手をやって、ヒューゴはリヒトとの立ち位置をずらす。すぐ、今度はリヒトだけを椅子に座らせた。 そのまま、リヒトの前に立つ。 肩に手を添え、彼の身体を軽く向こうへ押した。 リヒトは素直に背もたれにもたれかかる。 荒い息を繰り返しているリヒトのシャツのボタンに、ヒューゴは手をかけた。 丁寧に上からひとつひとつ外していく。 リヒトはなすがままだ。ぐったりと背もたれに身を預けている。 何も言わないが、その視線は、ヒューゴの顔に固定されていた。 じっと見つめられるのは、いつものことだ。 気にせず、ヒューゴはボタンをある程度まで外したところで、シャツを左右に押し開く。 リヒトの裸の胸が露になった。 大きく喘ぐ胸。 その白い肌の中、きれいなピンク色の乳輪が、ふっくらと盛り上がっている。 その頂きで、芯をもってつんと尖った乳首が勃起している様は、花の蕾のようでもあった。 先ほどまでヒューゴの指に虐められていた敏感な性感帯とは思えないほど、清らかにさえ見える。 とたん、ヒューゴの濃紺の目が、宝物でも見つけたように、きらきらと感嘆に輝いた。 心底惚れ惚れしたといった声で、彼は告げる。 「リヒトはいつもきれいだな。どこもかしこも」 それは、幼子のように本物の、純粋な感嘆―――――手放しの、賞賛の態度だ。 刹那、快楽に蕩けていたリヒトの黄金の瞳が、さらに陶然と潤む。 肉体の快楽というだけでは足りない、心の快楽に酔ったような表情で、うっとりとヒューゴを見つめた。 彼はよくこうしてリヒトを褒めるが、ヒューゴはそのたびいつも、新鮮な感動に満ちている。 視線の先で、ヒューゴはリヒトの胸に顔を寄せた。 リヒトの表情に期待が閃いた途端、ヒューゴが乳首にキスを落とす。そのまま、乳輪にちゅうと軽く吸い付いた。 「ん」 ぴくり、とリヒトの指先が跳ねた。だが、ヒューゴの行動を止めはしない。 むしろ待ち望んでいた態度で、遠慮がちに胸を突き出した。 ヒューゴの舌先がねっとりと動き、上下左右に芯を持った乳首を転がした。 唾液でたっぷりと濡らすように。 「ふ…っ」 たまらず、リヒトの息が跳ねた。 左右とも、舌先で触れなかった部分はないほど丹念に嬲って、ようやくヒューゴは顔を放す。 濡れて色づいた乳首を、真顔で観察。何に満足したか、一つ頷く。 リヒトのシャツのボタンを留めなおしながら、ヒューゴ。 「これで、あとからひりひりしたりしないからな」 人間は脆い。 敏感で皮膚が薄い部分は、どうしても、キツい責めを施せば擦り剝け、傷つく。 目に見えなくとも。そういった細かな傷を、ヒューゴはまめに癒してきた。もう習慣だ。 特にリヒトにはどうしても、過保護になってしまう。 (赤ん坊の頃を知ってるからなあ) ただ、今ではこうだが、ヒューゴは悪魔だ、治癒らしい治癒など、かつては使ったことすらなかった。 それでも、神聖力で捕まえられたとはいえ、ほとんど大人たちから放置された十歳の子供といきなり二人で過ごすことになったのだ。 使えない、では済まされず、人間だった前世の知識も総動員して、よく熱を出したリヒトの看病に奔走したものだった。 おかげで治癒には特化した。悪魔なのに。 思い出に浸りつつ、ヒューゴはてきぱき作業を続ける。 深く息を吐きだしたリヒトのズボンの前を寛げた。 そのまま、リヒトが座る椅子の前へ腰掛ける。 リヒト自身は、まだ力を持って反り返っていた。 濡れた下着の中から、丁寧に剃毛されたそれを取り出す。何を予感したか、リヒトの露になった下腹がひくりと動いた。 そこを宥めるように撫でてやれば、動きに合わせて、ひく、ひく、と筋肉が跳ねる。 目を向ければ、次を想像した顔で、リヒトが緊張に弾む息を吐いていた。 ヒューゴは唇だけで笑って、 「残り、吸い出すぞ」 ―――――着替えた後、汚さないように。 言って、ヒューゴは迷わず、リヒト自身へ口づけた。 敏感な部分に、柔らかな唇が触れる。舌が絡められた。 刹那、リヒトの肩が竦む。 「ぁ、ひぃっ」 じゅ、と強く吸い上げられた。直後、焦点が合わなくなったリヒトの目が見開かれる。 与えられた刺激は、凄絶だった。 なにせ。 何度も放っていたが、直接は触れられていなかったのだ。 あったのは、乳首への刺激だけ。 それでも、数回の射精を経ていたリヒトの陰茎は敏感になっていた。 そこへ。 待ち焦がれた直接の刺激。 射精への頂きを昇るのは、唇が触れるだけで十分だった。 咄嗟に、リヒトの両腿が閉じかける。 ヒューゴはそれを両手で掴み、押し広げた。 リヒトの腰が浮き上がり、突き出されるのも押さえつけながら、ヒューゴは舌先でぐりぐりとリヒトの先端を押し広げるように動かす。 リヒトのつま先が痙攣しながら丸まり、 「ああっ、イイ…!」 たまらず、身をよじりながら、リヒトは涙の混じる艶に満ちた声を上げた。 快楽の神経の塊が集中したような先端を器用に割られ、リヒトはあえなく達した。 ぴゅぅっと放つ感覚に、たまらず下腹が震える。ごくり、嚥下する音に、リヒトは眩暈がした。 がくがくと内腿が震える。リヒトは知らず、頭を横へ振った。 「いい、からぁ…っ、あ、イく、また…!」 突然訪れた強い刺激に、リヒトが今度は逃げ腰になる。 許さず追って、ヒューゴはリヒト自身を根元まで飲み込んだ。そして。 「く、う、…ぁっ」 喉奥で先端を締めながら、全体を強く吸い上げる。 「だめだ、ヒューゴ、それ、…は、んっ」 じゅうじゅうと吸い上げる激しい音が、リヒトを耳から嬲った。息も絶え絶えになり、リヒトは足の間に陣取ったヒューゴの髪に触れる。 「も、出ない…むり、だ…ヒューゴ、…―――――ひ、ぅ!」 がくがくっとリヒトの全身が震えた。皮膚を痙攣させながら、ぐったり背もたれにもたれかかる。 それを見上げながら、ようやくヒューゴは彼を解放した。 ヒクヒクと別の生き物のように、解放されたリヒトの陰茎が跳ねてる。 ごくり、薄くなったリヒトの体液を飲み込んで、呆れたように言った。 「残りを吸い出してんのに、何度もイってどうするよ?」 ヒューゴはリヒトの子種をこぼしていないか気にする態度で、唇の端を舐める。 ちろりと見えた舌の動きに、リヒトは肩で息をしながら、言葉を紡いだ。 「好き、だ、」 ヒューゴの濃紺の瞳が、上目遣いになってリヒトの顔を映す。 上気した頬に、潤んだ瞳。 濃密な色気漂う眼差し。 その上で先の台詞とくれば、恋人同士の睦言のようだが、 (会話の流れとリヒトの性格からして…『ヒューゴは僕の精液が好きだろ?』とかそういう) ―――――皮肉や嫌味だろう。ちなみにリヒトは負けん気が強い。 確かに悪魔にとって、神聖力に満ちたリヒトの体液は極上品だ。 しかも精液―――――子種ともなれば、涎を隠す悪魔はいない。否定する要素はなかった。 不思議なものだ。 神聖力として外に現れた力を振るわれたなら悪魔にはこれ以上ない攻撃になるのに、それが満ちた血と肉は、ご馳走になるとは。 「はいはい」 軽く言って、ヒューゴは手際よくリヒトの下を着替えさせる。

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