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幕・36 崩れない高貴さ
舌なめずりしているような、声。
刹那。
リヒトの全身が、硬直した。ヒューゴの剛直が、いっきに中を貫いたからだ。
ズンッと突き上げられる衝撃に、いっとき、リヒトの息が止まる。
正面にいるヒューゴが、気付いたか、宥める動きで背を撫でた。
その間にも、ヒューゴの剛直は奥へ進む。
こね回されたリヒトの中は、すっかり柔らかくなっていた。
目指すは、いつも以上、もっと、奥だ。…一瞬。
ほんの刹那、ヒューゴの先端がそこに届いた。とたん。
「んん…っ」
たまらず、リヒトが目を瞠る。
目の前のヒューゴの首に腕を回して必死にしがみついた。
同時に、悲鳴に似た声を上げかけたリヒトの口の中へ、ヒューゴの舌が差し込まれる。
だがリヒトの舌は、痺れたようになって動かない。
いつも強い皇帝の眼差しが、どことも知れない場所へ向き、その全身が硬直した。直後。
がくがくっと、リヒトは身体の芯から快楽に痙攣する。
普段以上の、奥。
最奥を暴かれるとき、リヒトに訪れるのは苦痛とも取れる、逃げ出したいような快楽だ。
しかもここまで解れていると、一突きではすまない。
また一突き。
また。
しかも、回数を重ねるごと、快楽は奈落ほどに深くなる。
ヒューゴの先端は、もっと奥へ届く。
拷問にも似た、淫靡な責め苦。
最後は、リヒトは身も世もなく泣きわめくことになる。
それは。
腹の奥から溶け落ちてしまいそうで、どこからどこまで自分の肉体か分からなくなるような、死にも似た感覚。
それを、ヒューゴは正面から抱きとめ、キスをすることで宥めようとしている。
束の間、リヒトが我を失っている間にも、正面のヒューゴは唇を食べるように悪戯気なキスを続けた。
その手が、リヒトの尻へ伸びる。
「ふ…っ」
リヒトが苦し気に身をよじる。そのくせ、零した吐息は甘い。
先端で、今度はもっとしっかりと届いたリヒトの奥の奥を、さらにくちゅくちゅと捏ねるようにするヒューゴ。
甘えかかるようで、同時に、甘やかすような動きだ。
たまらず、リヒトは全身をくねらせ、背を震わせる。
背後のヒューゴはリヒトの背にのしかかるようにして、シャツの下へ手を潜らせた。リヒトの胸元へ両手を伸ばし、
「あー…、やっぱ」
胸元の肉粒を指先で捕らえる。とたん、リヒトの身体が派手に跳ねた。
「こりこりしてうまそうだな。…あとで食わせて」
乳首を指で挟み込むようにしながら、乳輪に押し付け、円を描くようにぐりぐりと押し揉む。
だめだ、と訴えるように、リヒトは首を左右に振りかけた。
だが、正面のヒューゴがそれを押しとどめ、キスを続けられているため、それ以上の責めは止めてくれと許しを乞うこともできない。
正面のヒューゴは尻肉を揉みしだきながら、左右に押し開くようにしたかと思えば、ぎゅぅっと中央へ寄せた。
「やあ!」
強く尻肉を寄せられると、余計、中のヒューゴを感じて、リヒトは訳も分からず、とうとう、唇を解いた。
顎を逸らし、声を上げる。
リヒトの中で押し包まれている背後のヒューゴは、
「…く、これ、いいな。中、すごいうねってる」
締めつけに、どこか獰猛な笑いを見せた。
何かを堪えるように、荒い息を吐く。
「口の中もぬるぬるして最高…って、ほら、リヒト、息、ちゃんとしないと」
「あ、だって、奥、…っお、くぅ…!」
溺れながらも混乱が残る表情で、正面のヒューゴにしがみつきながらリヒトが舌足らずな声で何かを訴えた。
一番弱い中ばかりか、乳首と尻を同時に弄られて、動きようもない。
感じすぎて辛いのか、その頬を、幾筋もの涙が次々に伝い落ちる。
その表情が、どこか悲し気で辛そうなのだが、それでも快楽を隠しきれていないのが、逆に淫靡だ。
こんな場合にも、どんなふうにしても崩れない彼の高貴さを、そのままの形で、犯しているような心地になる、この背徳感と言ったら。
「んー? 奥が、何?」
甘やかすように尋ねるヒューゴの首に、リヒトは倒れ込むようにしがみついた。
だが、こんな場合にも意地が働く。
つらい、と素直には答えられず、それでも。
少しでも動きを止めてもらえたなら、と荒い息の下から訴えた。
「…っ、少し、待っ…!」
「待たない。リヒト、言ったのはお前だよ」
リヒトの頭を撫で、ヒューゴが口を揃えて言う。
「「犯せって」」
―――――その通りだ。
おそらくどうあっても、ヒューゴは満足するまでリヒトを離さないだろう。
そのことにめまいがするほどうっとりする。結果。
(離れるなんて嫌だ。ずっと、繋がっていたい。ずっと、…ずっと)
朦朧と考えたリヒトの中で、何かが振り切れた。同時に。
「…え?」
正面にいるヒューゴが、わずかに戸惑った声を上げる。
リヒトが、片手を伸ばして、彼の足の間を撫で上げたからだ。硬い。大きい。
(ああ)
どうしても、この感触にリヒトは陶然となる。
濡れそぼったような吐息をこぼした。
握りこむようなリヒトの刺激に、正面のヒューゴの身が、わずかに震える。
同時に、背後のヒューゴが、動きを止めた。
「…おい、リヒト?」
「…犯すって、言う、なら」
夢見心地の様子で、リヒトが頭の位置を下げる。
「―――――どっちのヒューゴも、気持ちよくなるべきだろう」
リヒトの姿勢が変わることで、ヒューゴの手が胸と尻から離れた。
リヒトは快楽に震える指で、正面のヒューゴのズボンを寛げる。
そこから飛び出して来たイチモツに、一瞬処女のような驚きを見せ、ごくりと喉を鳴らした。
…すぐ、黄金の目を満足そうに細めたとき、
「…いいけど、無理そうなら、止めるからな」
心配そうに、ヒューゴの手が、頭を撫でてくる、のに。
リヒトは、子供のような無垢な表情を見せた。
どこか気恥ずかしそうな、嬉しそうな表情だ。
その、表情のまま。
ヒューゴのイチモツに横から吸い付いた。
形を確認するように舌を伸ばし、ちろちろと舐め、体液をふり零す先端にキスをする。
舐めているのが男のモノだと言うのに、やたらと品があった。
行為と、リヒトが生来持つ雰囲気との落差に、見ているだけでクるものがある。
次第にヒューゴのそれに夢中になるリヒトの頭を撫でながら、ヒューゴとしては複雑な気分になった。
この体位は、どうも昔のことを思い出すからだ。
リヒトも生まれていない大昔の話だが、天と地獄に、ある協定が結ばれるまでは、頻繁に地獄へ御使いが降りてきていた。
戦闘のためだ。
当時は天と地獄への出入りはほぼ自由だった。地上を通らずとも行き来できる門があったのだ。
ちなみに、現在は廃棄されている。
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