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幕・35 気持ちよくなろう
「…ん…っ」
限界まで結ばれた結合部を、ヒューゴはいたずらに揺らした。
リヒトの身体が震える。心地よさからくる、隠しきれない震えだ。
もっと、と言いたげに、リヒトの腰がくねる。
そのさまに。
はさみで切り落とすかのように、ヒューゴの意識が、きっぱり、切り替わった。
(よし、じゃあ)
―――――犯す。
刹那。
―――――ヒューゴは思い切り腰を突き上げた。
リヒトの身体が、打ち上げられる。
「ぁ、ひ…!」
リヒトの顎が仰け反った。
いやいやをするように、首を横に振る。
やめてくれ、と必死に懇願する風情。だがそれでやめるようでは、悪魔とは言えない。
大体、リヒトは簡単に負ける人間ではない。
そんな相手が音を上げる様は、興奮の呼び水となる。
ヒューゴの中で、さらに激しく蹂躙したい欲望が膨れ上がった。
「あぅ! ん、はぁ…っ」
宥めるように、絹のような感触の、リヒトの内腿をねっとりと撫で上げ、もみしだく。
合間に、強く腰を突き上げた。
ギッ、ギッ、とベッドが壊れそうな勢いで軋む。
一突きごとに、リヒトの身体が打ち上げられる。
そのたびに、ヒューゴを咥え込んだ彼の入り口が、ヒューゴの根元にちゅぷりとキスを繰り返した。
拍子に、混ざった二人の体液が飛沫く。
動くたび、リヒトの勃起した性器が、上下に、ぷるんっ、ぷるんっ、と揺れた。
見ているだけでも、たまらない。触ったら、もっとイイ。
(手でもたっぷり弄ってやらないと。考えるだけでも、ああ、愉しい)
知らず、ヒューゴの唇には、獰猛な笑みが浮かんでいた。
結合部からは、体液が雫となって派手に飛び散る。
ぐちゅ、ぷちゅ、と混ざった体液が泡立ち、音を立てた。
容赦ないとも取れる、一突きごとに、リヒトは。
「あ、ぁんっ!」
嬌声を上げた。同時に、自由な上半身をくねらせ、達した。
後ろで。前で。
その、我を忘れた凶暴な腰使いは、しばらく続いた。
少なくとも十分間は、リヒトはヒューゴとの乗馬を続けたはずだ。
もう、何度目になるか分からないが、びゅうっと一直線にリヒトの白濁が飛ぶ。
生あたたかいそれが、ヒューゴの頬にかかった。
その感覚に、我に返ったように、ヒューゴの目から、わずかに獰猛さが消える。
何を考えたか、動きを止めた。
濃紺の瞳が、身体の上で、息も絶え絶え、全身を汗で濡らしているリヒトを映す。
快楽の色に染まったリヒトの表情に、満足げに目を細めた。
頬にかかったリヒトの精液を拭いもせず、突如、ヒューゴは彼の中から硬い自身を引っこ抜く。
たちまち、強請るようなリヒトの声が上がった。
「やぁ…っ」
内部を埋めるモノの喪失を惜しむ、寂しい、と訴えるような甘えた響き。
ねちり、と自身の尻肉をヒューゴの腹の筋肉で捏ねるように、リヒトは腰を揺らした。
ヒューゴは、余裕ない苦笑をこぼす。
「どこでそんな誘い方覚えたんだ?」
ボヤくように呟き、いささか性急な動きでヒューゴはリヒトと身体の位置を入れ替えた。
リヒトの身体をベッドに押し倒す。
さらに転がして、うつ伏せにさせた。
その上で、尻を高く上げさせ―――――。
リヒトが尻を、無意識に誘うように揺らしたのを、尻肉を鷲掴みにすることで止め、
「なあ、リヒト、まだまだ足りないよなぁ?」
言いながら、尻肉を左右に押し開く。
ヒューゴの視界の中、リヒトの蕾が露になった。
幾度犯しても汚れないピンク色。息づくように、ヒクついている。
可愛らしいから、犯した回数と同じくらい、キスもした。
今。
そこから、何度かヒューゴが放った白濁がとぷとぷと溢れ、流れ落ちてくる。
それが無防備なリヒトのなだらかな内腿を這い、伝い落ちるさまに、餓えに似た欲望がヒューゴの腹の底から沸き上がらせた。
「久しぶりに」
気持ちのまま、どこか上の空の物騒な声で言いながら、ヒューゴは自身の切っ先を、リヒトの入り口に潜らせる。
押し込まれてくる感覚に、リヒトの下腹がきゅぅと疼くなり。そのとき。
「…え」
リヒトは戸惑いの声を上げた。
ベッドに溺れるように沈んでいた上半身を、不意に正面から持ち上げられたからだ。
ヒューゴは、リヒトの後ろから今にも奥まで挿入しようとしている。
では、リヒトの前方にいるのは。
誰だ。
ぎくりと身が竦みそうになり、睨むような目を上げた刹那。
リヒトの黄金の目に映ったのは、―――――悪戯気なヒューゴの顔だ。
「あ…」
後ろにいるのもヒューゴだが、前にいるのもヒューゴだ。
ヒューゴが二人。
リヒトは目を瞠った。驚きからではない。
今まで幾度か、ヒューゴは、こういうことをして見せたことがある。
―――――分体だ。
だがヒューゴは、あまりしてみせることはない。
リュクスあたりがうるさいからだ。
曰く、魔力の無駄遣い。
リヒトが何かを言う前に、にやりと笑った正面のヒューゴがその顎を攫った。
濃紺の目を見るだけで、リヒトがほとんど意識を飛ばしてしまうことを、彼は知っているのかどうか。
リヒトの顔を持ち上げ、何を言うかと思えば。
「奥の奥まで可愛がるから、俺にしがみついてな」
告げるなり。
唇を唇で塞がれ、リヒトは息を呑む。
ヒューゴは頬や額へのバードキスは気に入りだが、唇と唇を合わせる行為は好まない。
それは彼が悪魔であることに理由があった。
口と口を合わせる行為には、攻撃や食事の印象が強いのだ。たとえ、かつて人間であった記憶があったとしても、…どうしても。
互いを愛でるための行いというよりも、その牙で殺し、死体を食うことを、どうしても連想してしまうためだった。
ただ、リヒトは口付けを好む。
だからヒューゴがリヒトの唇にキスをするのは、ひたすら、リヒトを甘やかすためという理由に過ぎない。
つまり今、キスを仕掛けた理由は。
―――――奥の奥まで可愛がる。
リヒトはぼんやり、その言葉を脳裏で反芻する。
キスの間ずっと、背後のヒューゴはリヒトの入り口を、先端からカリまでを浅く行き来させながら刺激していた。
くぽ、くち、と粘着質な音を立てながら、リヒトのそこはヒューゴを飲み込もうとする。
だが、それをはぐらかすように、ヒューゴは逃げてしまう。
キスを受けながら、リヒトの尻がもどかし気に揺れた。
戦慄くその背を見下ろし、ヒューゴは―――――不意に後ろからリヒトの腰骨を掴んだ。
悪戯気な顔で告げる。
「さあ、いっぱい、気持ちよくなろうな?」
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