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幕・135 遊戯のための無駄遣い

「うまくいきますかしら」 他人の目にルシアがどう見えたとしても、彼女は善良などではない。棘のある花だ。 今回の会議とて、内容は殺伐としている。お互いに手をつなぎ、盛り立てようというものではなく、どちらかと言えば。 共謀し、ある一族の利権の一部を取り上げようというものだ。 そのために、ルシアが顔の利く相手と交渉の席に着く必要があった。ことを成功させる根回しのために。 「いかせます」 リュクスのエスコートを受けながら、ルシアは立ち上がった。 ルシアが必要な時間は終わった。退室の時だ。 扉へ向かう前に、大臣たちへ挨拶をする。 「では、ごきげんよう。お会いできて光栄でした。あなたがたに、太陽のご加護がありますように」 慌てて立ち上がり、返礼する彼らを励ますように見守った後、ルシアは会議室をあとにした。 「これから、陛下のところですか」 「はい、お忙しいでしょうが、せめてご挨拶でも、と」 「レディ・ルシアの挨拶を嫌がるものなどおりません」 こうして女性をエスコートするリュクスは、子犬のような普段の雰囲気からは想像もできないほど知的で男前だ。 合間に、母性本能をくすぐるような愛らしさも見せるのは、なんだか計算のような気もする。 「残念ながら、陛下の執務室まではご一緒できそうもありません。お許しください」 「お気になさらないで。…ですが、たまにはきちんと休んでくださいね」 言えば、リュクスは素直に頷いた。 ルシアが言えば、ちゃんと聞くだろう。 騎士たちのエスコートも断り、廊下をある程度進んだところで、ルシアは一瞬だけ、背後を気にするそぶりを見せた。 それも束の間、素早く空き部屋に滑り込む。 (尾行者がいるな) 顔を確認すべきか、とも思ったが、こういう手合いはあまりに多い。かかずらっている時間が惜しかった。 それよりも早々にリヒトへ会いに行ったほうがいい。 …待っているだろう。珍しく用事に追われ、長く放置してしまった。 できればずっと一緒にいたいが、中間界というのは、忙しない。 『目』を貼り付けているから、いつでも様子はつかめるが。 (いや、正直なところ) 一緒にいたいのも事実だが、ヒューゴは今、リヒトのそばにいるのが怖かった。 昼間。 もし、ヒューゴがあの場に間に合わなければ。 目の前で、まかり間違えば、リヒトの首が落ちた。だから。 離れてはいても結局、ヒューゴは今の今まで、リヒトから『目』と意識を離せていない。 外の気配を伺うのはやめ、ルシアはドアのそばからそっと離れた。 直後に、魔法を発動。 刹那、魔法陣が彼女の足元に現れ、浮き上がる。 それも一瞬、たちまち消えた。幻のように。 その時には。 「―――――…レディ・ルシア?」 皇帝の執務室にいた。ただし身体は、ドアの方を向いている。 転移は成功したが、身体の向きを間違えた。 リヒトへ挨拶しようと向き直る間もない。 ―――――ガタンッ! 椅子が倒れる音がしたと思った時には、くるりと身体の向きを変えられている。 次いで、攫われるような勢いで、強く抱き竦められた。 相手が誰かなど、言われるまでもない。 「…はっ」 リヒトの荒い呼気が耳元で繰り返され、熱い息が耳朶を濡らす。 無抵抗なルシアの両足を割り開かれた。 そして、その中央へ擦り付けられたのは。 勃起した性器だ。 「くっ、ふぅ…!」 既に極まったかのような声をこぼしながら、リヒトが苦し気に懇願し、腰を揺らす。 「あ、早く、はやく、助け」 リヒトが今、切羽詰まった状況にあるのも仕方がなかった。なにせ。 今、リヒトの尻の中には。 ヒューゴが自身の魔力で作った玩具が入っている。 たとえ物質だろうとリヒトの中に触れさせるのは嫌だったから、ヒューゴはいちいち自分の魔力をこね、ソレを一から作った。 実はこれは、盛大な魔力の無駄遣いである。 それはともかく。 リヒトの中に五つ入っているそれは、透明な球体であり、純粋な魔力の塊だ。 入り口から挿入されたそれは、リヒトの内部、粘膜の隘路でぶつかり合い、動けば相応の刺激になるはずだ。 潤み切った黄金の目で火傷しそうなほど熱く見つめられ、ルシアは嫣然と微笑んだ。 「いけません、陛下」 弄ぶように甘く制止すれば、狂おしいと言わんばかりの雄の顔になったリヒトの額に、 「―――――これは躾、」 額を合わせ、同時に、 「なんだからな」 ルシアからヒューゴへと変貌する。 肌の色が変わる。 骨格が変わる。 女の柔らかな曲線が消え、しなやかだが、男性的な輪郭に置き換わった。 服は、魔素で構成しているから、ヒューゴへ変わった時には、ドレスから近衛騎士の制服に様変わりしていた。これは結構、便利である。 リヒトが息を呑んだ。 身体が一瞬、逃げを打つ。間髪入れず。 リヒトの状態に、あっさりその気になったヒューゴ自身を、リヒトの腰に押し付けるように突き上げれば、 「…ひっ」 跳ねたリヒトの腰が逃げた。それをぐっと引き寄せ、性器に性器を押し付ける。 足を開いて受け入れる体制になっているのはヒューゴというのに、 「ぃやだ、ヒューゴ、ヒューゴ…っ、イく、ぃ…っ」 逃げ腰になったのは、リヒトの方だ。 ―――――許すまでイかないように。 告げたヒューゴは、許す前にリヒトがイったら、一週間お互いに禁欲生活に徹することを、ルールとして決めた。 そのせいか、リヒトは必死だ。 彼の尻に飲み込まれたヒューゴの淫具は、確実にリヒトを追い詰めている。 だが、それだけならば、衝動を逃がすすべは、いくらかあった。 そのぶん、悶々とした欲望は高まる一方だろうが。 ―――――一週間、僕を食べなくてもヒューゴは平気なのか? 何かを疑うような眼差しでそのように尋ねられたが、頑張れば、一ヶ月は大丈夫だろう。 途中でリヒトが神聖力の鎖を増やしたりとかしなければ。

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