30 / 30

第30話

「シロ…おはよう。もう8:00だよ?」 依冬の声が聞こえて、彼の香水のにおいがする。 「ふふ…依冬~。大ちゅき~!」 オレはそう言って布団を被った。こうやって言うと、大抵見逃してくれるって経験上学んだんだ。 「ふふ…ほら、シロたん。起きて下さ~い。バブバブしないで起きてくださ~い。」 んふふ!依冬がそう言ってオレと赤ちゃん言葉で話したがる。 仕方が無いなぁ…もう、可愛いんだから… 「ヤダぁ、ヤダぁ…シロたんはまだ起きないもん!パパのおっぱいナメナメしたら起きるもん!」 クスクス笑いながら大いにふざけて布団の中に潜り込んでいく。 「ダメだよ~?シロたんはパパたんと一緒にお布団から出るんだよ~?」 依冬の声がいつもより楽しそうだ!でも、オレはまだ起きないもん!そう思ってゴロンと寝返りをうって、誰か隣に寝ている事に気が付いた。 あ! 我に返って、ガバッと布団から顔を出した。 「随分…朝から凄い会話をするんだね…」 桜二がそう言って、薄目を開いてオレを見つめる。それは蔑んだような目…いや、違う。2人だけの世界を見せつけられた事に対する、嫉妬の目だ…! 「違う…依冬の趣味だよ?赤ちゃんプレイが好きなんだ。すぐにオギャりたがるから…」 肩をすぼめてオレがそう言うと、依冬が後ろからオレを抱えてベッドから連れて行く。簡単に運ばれるのはオレが身軽なのと、彼の体幹がしっかりしているから。 「シロ?桜二に薬を飲ませるんだろ?」 そう言ってオレをソファに降ろすと、買ってきたコンビニの袋を指さして言った。 「何か食べさせてから飲ませた方が良いよ?」 あんなものばかり食べるから…依冬は野獣になってしまうんだ。きっと毎日まともなご飯を食べたら、彼のセックスは普通に戻るんじゃないかとさえ思ってしまう。それほどまでに、外食とコンビニの食べ物で彼の体は満たされている… 「もっと体に良いやつが良いの!桜二は怪我してるんだよ?何か作って~?」 オレはそう言って依冬の背中にしがみ付いて甘える。彼はオレのお尻を持ち上げてそのままおんぶすると言った。 「俺が?作れる訳ないじゃん。そんな事、とっくのとうに知ってると思ったのに…シロたんは何も知らないバブちゃんだから…困ったなぁ…困ったなぁ…」 あったま来た! オレをおんぶしたままユラユラ揺れる依冬を、背後から鼻フックして苦しめる。 「謝れ~!お兄さんに謝れ~!」 「シロ…大丈夫だよ。適当で大丈夫。」 そう言って桜二が寝室から歩いて出て来た。足取りはしっかりしてる。 そっか…昨日、明日は普通に過ごせるって言っていたな。 オレと依冬を見つめて、桜二は悲しそうに首を横に振った。 「妬いちゃうよ…」 オレはすぐに依冬から降りると桜二にベタベタ纏わりついた。 桜二が居るのに…卵焼きの無い朝だ… ダイニングテーブルに並べられたお惣菜を目の前に、箸を持つ手が固まる。 「卵焼き…明日は作ってあげるね?」 そう言って桜二がオレの顔を覗き込む。 ムスッと頬を膨らませて依冬を見つめると、彼は首を傾げて聞いて来る。 「シロ?お腹空いてないの?」 「こんなの朝ご飯じゃないもん!もっと栄養のあるものを食べないと!」 怒った顔をしてそう言うと、依冬は吹き出して笑って言った。 「あはは!じゃあ、仕方ない。卵焼きでも買ってこようか?」 依冬は何でもお金で済ますんだ! オレは依冬にしがみ付いてかっこよく整えた髪形をグチャグチャにしていく。そんなオレの手を掴んで抱きしめるとチュッチュッとキスして膝に乗せて言った。 「なぁにするんだ。もう…構って欲しいならそう言ってくれたら良いのに…ツンデレなんだぁ。可愛い!カワイ子ちゃん!ん~チュッチュッチュ~!」 「良いんだよ?シロ。気にしなくて大丈夫だよ。俺はヨレヨレだけど、傷は治りかけてるからね…すぐにね…すぐだよ。あっという間だ。今だけそうしてイチャつけば良いよ。フン…あっという間なんだ。」 桜二はそう言いながら冷たい視線で依冬を睨みつけて、モグモグとお惣菜を食べた。 桜二の隣に座って、シュンと背中を丸めてお惣菜を一口だけ食べる。 わびしいよ。こんなの…栄養あるのかな…依冬みたいに狂暴になったらどうしよう。 「お薬飲む?」 クスリの袋をゴソゴソして桜二に錠剤を手渡しすると、急いでお水を汲みに行く。 「ふふ…優しいね?ありがとう。シロ?」 「んふふ~」 褒められてヘラヘラと緩んだ笑顔になって笑う。桜二の優しい顔が好き。兄ちゃんみたいに…オレにだけ優しい桜二が好き。 依冬を見送った後、オレはそのままスーパーへ向かった。 栄養のあるものを桜二に食べさせるためだ! 適当に栄養がありそうな食材を買い込んで、ホクホク笑顔で部屋に戻ると、桜二が出迎えてくれる。 「お帰り。何を買ってきたの?」 オレは得意げになってダイニングテーブルに買ってきた物を出していった。 「ほうれん草と、にんじんと、ウインナーと牛肉、後は、ハムとナゲットと卵とパン!」 オレの背中にくっ付いて一緒に眺めていた桜二が、卵を手に取って聞いて来る。 「卵焼き作ろうか?」 「良いの。オレが作ってあげるの~。」 オレはそう言って桜二をソファに座らせると、スキップしてキッチンへと戻る。 さてさて…何が作れるのかな?オレは意気揚々と手を洗うと、目の前の食材とにらめっこした… 兄ちゃんのお料理を手伝った日の事を思い出してクスクス1人で笑い始める。 「ん~、兄ちゃん!シロ、玉ねぎ嫌い…!」 「あぁ…はは、兄ちゃんまで涙が止まらなくなった…!」 玉ねぎをむいて兄ちゃんに渡す…たったそれだけのお手伝いをしただけなのに、部屋中に玉ねぎの匂いと刺激が充満して、オレと兄ちゃんは涙を流しながら逃げ回った。 「シロ…ダメダメ、手で拭いたらダメだ…!」 オレが目を擦ろうとすると兄ちゃんがすぐに止めて、水で手を洗ってくれる。窓を開けて喚起をすると、多少良くなったけど、これ以上、玉ねぎを剥くのは断念した。 「食べると美味しいんだけどね…」 そんな事を言いながらオレの目に目薬を差して、流れる涙を拭いてくれた。 兄ちゃん…会いたいよ… 「シロ…オムレツとか作ってみる?」 ぼんやり佇んで思い出に浸っていると、いつの間にか桜二がオレの隣に居て、顔を覗き込んでそう聞いて来た。オレは驚いた顔で桜二を見つめると、にっこりと笑って頷いた。 オムレツ… 棒立ちするオレに桜二がテキパキと手順を教えてくれる。オレの顔を覗き込んで、いちいち表情を確認しながら桜二が話す。 「じゃあ、まず、ほうれん草を切ろうか?」 「どうやって?」 オレがそう言って桜二の顔を見て首を傾げると、彼はまな板と包丁をどこからか出して来て目の前に置いてくれた。意気込みと気合だけは十分で、オレは手を握りしめながら言った。 「…ほうれん草を…切る!」 ふふッと頭の上で彼の笑い声がして、オレの腕の外側から両手を出すと、手のひらを掴んで一緒に動かしてくれる。 「まず、ほうれん草を袋から出して…水で洗うよ?」 オレは言われたとおりにほうれん草を袋から出して流しで適当に洗った。 「次に、根っこは…今日は、捨てようか…まな板に載せて…切るよ?」 オレの手に自分の手を重ねて、右手に包丁を持ってほうれん草を切っていく。 「あぁ…ザクザク言うねぇ…」 こんな感触がするんだ…目の前で切られていく緑のほうれん草を見ながら、頭の上でふふッと笑う桜二の声を聞く。 兄ちゃん… まるで、兄ちゃんが後ろにいるみたいだよ… 「シロ、ウインナー入れる?」 「ふふ、ウインナー入れる~!」 兄ちゃんがそう聞くから、オレはすぐにそう言って答える。ウインナーとハムが大好きなんだ。 兄ちゃんはウインナーをまな板に載せると、オレの左手をそっと掴んでウインナーに沿わせる。感触と見た目が…人の指みたいに見えて、気持ち悪かった。 「兄ちゃん…やだ、指に見えて気持ち悪い…」 オレはそう言って体を捩ると、兄ちゃんの胸板に顔を埋めた。クンクンと匂いを嗅ぐと、服の下から包帯の匂いがする。 「…シロ?ちゃんと前を見ないと、本当の指を切っちゃうよ?」 「兄ちゃんが切って…気持ち悪いから…!」 兄ちゃんの胸に顔を擦り付けて断固拒否すると、オレの手を動かして兄ちゃんがウインナーを切ってくれる。包丁の手ごたえが気持ち悪いけど、兄ちゃんが居てくれるから我慢する。 「じゃあ、次は卵を割るよ?」 兄ちゃんがそう言って卵を取り出す。卵はオレも割れる。だって、卵かけご飯が大好きだもん。オレはにっこり笑うと兄ちゃんに聞いた。 「何個割るの~?」 「ん…4つくらいかな?」 オレは得意げに卵を4つ割ってボールに落として、兄ちゃんを見上げる。 兄ちゃんは嬉しそうににっこりと笑い返してくれる。 「じゃあ、フライパンを置いて、火をつけるよ?危ないからもっと離れて…?」 兄ちゃんの体がぴったりくっついて、オレの腰を掴んで自分の方に引き寄せる。 カチカチカチ…ボッ! 火がコンロについてフライパンを温め始める。 「まずは油を敷いて、ウインナーから入れていこうかな?」 オレは言われた通りに油を入れてウインナーをフライパンに入れた。 ジュウジュウいってパチッと油がはねて手に飛んできた。 「…熱い!」 「あぁ…熱かった?かわいそうに…水で冷やそうか?」 兄ちゃんがそう言って、オレの手をすぐに流しで冷やしてくれる。オレは兄ちゃんの胸に顔を付けて、もう痛くないのにシクシクと泣いた。 兄ちゃんがほうれん草を入れると、ジュウジュウする音が少なくなって油も飛ばなくなった。 「味付けしちゃおうか?塩と胡椒を入れて…」 オレは兄ちゃんが渡してくる塩と胡椒をパラパラ入れた。 「シロ、上手だね?もう少し、入れようか?」 んふ!褒められた~! オレは塩、胡椒をもう少し入れて卵を手に取った。 「兄ちゃん?これ、いつ入れる~?」 「ふふ…もう、入れて良いよ?」 「ん~…どんな感じで入れるの?」 卵の入ったボールを持って固まっていると、兄ちゃんがオレの手に自分の手を添えてフライパンに流して入れた。 「あ~ははは!凄い~!」 緑のほうれん草に、黄色の卵が合わさって、綺麗なタンポポに見えて…兄ちゃんを見上げてケラケラと笑った。兄ちゃんはオレのおでこにキスすると、オレの右手を包んで掴んで手際よくフライパンの中をかき混ぜた。 「わぁ~ぐちゃぐちゃ~!」 失敗したみたいにフライパンの中でぐちゃぐちゃになってしまった卵を眺めると、兄ちゃんはオレの左手を包んでフライパンを中身と一緒に揺らした。 「あ~!兄ちゃん、オムレツになった!」 どんどん形を整えていくフライパンの中身に夢中になって、兄ちゃんがまだまだ!といった言葉にケラケラ笑って喜ぶ。兄ちゃんはフライパンを掴むオレの左手を、クイッと大きくすくうように動かした。 フライパンの中のオムレツが宙に浮いてペタン!とフライパンに戻った! 「あーーーっ!すごい!何それ!兄ちゃん!すご~い!もっとして?」 それは見事にオレの目の前でクルッと回転して、ペタンと落ちた。あまりにも華麗で、オレは兄ちゃんにせがんで何回もやってもらった。 「シロ?そろそろ、焦げちゃうから…。」 兄ちゃんがそう言って、オムレツをお皿に移した。完成だ! 「わぁ…、オムレツ…オレが作った~!」 洗い物を兄ちゃんに任せて、オレはダイニングテーブルにオムレツを飾ると、キャッキャと喜んで飛び跳ねた。そんなオレを見ながら兄ちゃんが笑う。 「兄ちゃん?これ食べて!栄養あるよ?食べて!」 兄ちゃんの腰にしがみ付いて引っ張ると、ダイニングテーブルに座らせてあげる。 ピーピーピーと丁度いいタイミングで炊飯器が鳴った。 「シロも一緒に食べよう?」 「うん。食べる~!」 オレは兄ちゃんにご飯をよそって手渡した。 あ、この動き。兄ちゃんともしたな…。ふふ、懐かしい… 自分のご飯をよそって桜二の隣に座ると、不思議そうな顔をしてオレの顔を覗き込んで来るから、首を傾げて言った。 「なぁに?そんなにオレの顔を見ていたいの?ふふ…桜二は変態だね?」 気付くとダイニングテーブルにはお箸もお茶も揃っていた。 「いただきま~す!」 桜二がオムレツをお箸で切って口に入れる。 お箸を持ったままその様子を固唾を飲んで見守っていると、桜二はオレを見てにっこり笑って頭を撫でながら言った。 「うん!シロ、とっても美味しい!上手に出来たね~!」 やった~! 「栄養あるからね?いっぱい食べて、薬を飲んで、寝てね?」 オレはそう言ってウインナーの沢山入ってる部分をお箸で切ってパクリと食べた。 「ん~!桜二の作ったオムレツの方がフワフワだぁ…」 沢山フライパンを返してペタン!と遊んだせいで、フワフワじゃ無くなっちゃったみたいだ…オレが少しだけしょんぼりすると、桜二は満面の笑顔になって言った。 「シロ、美味しいよ?また作って?」 桜二の可愛い笑顔に胸キュンしてデレデレになると、にっこりと笑って答える。 「うん、また作る!」 まるで兄ちゃんと一緒に居るみたいに…錯覚して、そのままどっぷりと浸かる。そんなオレの異常行動も…桜二はそのまま受け止めてくれている… 気付いてるよ。気付いてるけど…堪らなく嬉しくて、彼を兄ちゃんだと思う事を止められないんだ…。 「お薬も飲むんだよ~?」 甲斐甲斐しくお世話をして、弱った桜二をいたわってあげる。 「ベッドでねんねするんだよ~?」 そう言ってテレビを見始める桜二の手を握って、ベッドまで連れて行く。彼は笑いながら大人しく付いて来るんだ。可愛いだろ? 「シロ…一緒に居て?」 ほら、可愛い。 オレは寂しそうな瞳で見つめる桜二の隣に寝転がると、優しく腕枕してもらう。顔を近づけてクスクス笑う桜二の唇にチュッとキスをする。 「次は何を作ってくれるの?」 オレの髪を撫でながら、じっと目を見つめて桜二が尋ねてくるから、オレはにっこり笑って教えてあげる。 「ふふ…ステーキだよ?」 自分が食べたい物を言って、彼の笑いを頂く。 可愛い笑顔のほっぺを撫でながら言った。 「今日は夕方からお仕事に行ってくるね?その前に公園でダンスの練習をするから、桜二が寝たらオレは出かけるんだ。ねぇ、寂しい?」 「寂しいよ…どこにも行かないで?」 桜二はそう言ってオレの胸の中に顔を埋める。彼の髪がくすぐったくて体を捩って笑う。そのまま胸の中に抱きしめて、桜二が寝るまで一緒に眠る… あぁ…こうやって、気付くと出勤の時間になってるんだろうな。ふふ… 次の日も、そのまた次の日も、オレは桜二にお昼ご飯を作ってあげた。 いつも彼が傍で手伝ってくれたけど、栄養のある物を食べたおかげで桜二はどんどん元気になった、気がする。 最近では朝ご飯を作れるまでに回復した。だから、オレは桜二の卵焼きを食べる事が出来た!それはいつもと変りなく、サクッと歯ごたえのあるオレの大好きな卵焼きだった。 「じゃあ、シロ行ってくるね?」 桜二はそう言って玄関で靴を履いた。フラフラする事もなく、イテテ…と身を屈める事も無くなった。見た目は元通りに戻った、素敵な長身の男性。 オレは彼の背中にもたれかかりながら力なく呟いた。 「行ってらっしゃ~い…」 今日は病院の通院日。傷の具合を診て貰いに病院に行くんだって。 「エッチ出来るかも聞いて来るんだよ?」 冗談半分、本気半分でそう言うと、手を振って彼を見送った。 もう…欲求不満で死にそうだよ! 今日は11:00から陽介先生に特別レッスンがある。キャンセルの出たコマに優先的に入れて貰ったんだ。もうすぐオーディションだから、特別だ。 それまでストレッチでもして過ごそうかな… 両手を上げて伸びをしながら自分のリュックを見つめる。 「あ!」 大事な事を思い出した。桜二のいないこの瞬間に、ずっと放ったらかしにしていた“あの事”を確認しないと! オレはリュックを開くと奥の方に転がるテープレコーダーを取り出してソファに座った。 「何なんだ。これは一体!」 そう呟きながら、血の指紋が付いた再生ボタンを押す。 「ねぇ…桜二、僕と一緒に逃げてよ…僕はもう嫌なんだ。桜二と離れて過ごすのは悲しくて…辛いんだ。」 オレは咄嗟に停止ボタンを押して固まった。 テープレコーダーから聞こえて来たのは…知らない声。 聞こえる内容に“桜二”という名前を聞いて…体が硬直する。 この声は…多分、湊だ。 そして、彼が桜二に向かって話してる内容を…録音した物みたいだ…。 「随分…親しそうじゃないか…」 胸が痛くなるのを感じながら、唇をかみしめて、続きを聞くために再生ボタンを再び押した。 「ふふ…お父さんがいるじゃないか。彼は絶対に君を離さないよ?そうだろ?」 テープの中の桜二が…湊に話しかけている… どういう事だろう…桜二は、湊と…親しかったみたいだ。 甘い声でやり取りする二人の声を聞きながら、自分の顔から表情が無くなっていくのを感じる。 胸が苦しい… 彼が湊にどんな風に接していたのか…気になって…そのままテープを聞き続ける。 「嫌だ…僕は桜二が一番好きなの。あいつは仕方が無いだろ…気持ち悪い変態なんだから。ふふ…。ねぇ?あなたの為なら何でも出来る…ね?僕と一緒に逃げよう?」 「嫌だよ。今の生活が快適なんだ…」 「どうして…?僕が…僕がこんなに言ってるのに…桜二はちっとも言う事を聞いてくれないね…まるで愛してないみたいだよ?」 「ふふ…そうかな?」 馬鹿なオレでも分かった。 …桜二は、湊を、誑かした。 愛して欲しがる湊に、愛をちらつかせて、利用した… 「そうだよ…桜二。僕の事どうしたら愛してくれるの…?もう、悲しいよ…?」 「お父さんの前で首を切ってごらん?」 あぁ…桜二…お前は本当に、クズなんだ。 オレは項垂れて目の奥を揺らしながらテープレコーダーを聞き続ける。 「え?」 「そうしたら…あの人はお前の事を諦めるかもしれない…。大切なお前から拒絶されるんだ。諦めもつくかもしれない…。それが上手く行ったら…俺は安心して湊を愛せるかもしれない…どうだい?出来る?」 …クズ。 「…出来るよ。桜二の為なら…何でも出来るよ?ねぇ、キスして…好きって言って…僕の事だけ、愛して、誰にも触らせないで…愛してるんだ…」 そこまで聞くとカセットテープが終わって、自動で巻き戻しされた。 これを聞かせたんだ…結城さんに、このテープを聞かせたんだ。 湊は桜二を愛していた…結城さんじゃなく、桜二の事を愛していたんだ。 「ふふ…なんだよ。湊に似てるオレを抱いて…どんな気持ちだったの…」 兄ちゃん…兄ちゃん…胸が痛いよ。 「彼は死にたがったりして無いじゃないか…桜二、嘘つきだな…嫌になるよ。」 兄ちゃん…オレの兄ちゃんなのに… 湊に似た、オレを抱いて…どんな気持ちになってるの? それとも…湊を愛していたの? だから、オレを彼の代わりに… 乱暴にカセットレコーダーをリュックに放り投げると出かける支度をする。 このままこの部屋に居たら…確実にどん底に落ちると分かってる。 だから、オレは敢えて外に出る。 着替えをリュックに詰め込んで、スウェットに着替えた姿で桜二の部屋を出て公園に向かう。 ダンスの練習をしよう… 彼の執着にも似た愛が、兄ちゃんの様な愛が…オレに向けられた物じゃないとしたら…そんなに、悲しいことは無い。 結城さんはあのテープを聞いて逆上したのは間違いない。 どうしてそんな事をしたのか… 湊が自分に夢中な事を…誇示したかったの? オレに向けられる彼の笑顔は…誰に向けて微笑んでいる物なの… 何度も何度も踊り続けて、頭の中を真っ白にしていく。 オーディションのダンスから、いつの間にかバレエを踊り始める。 「お兄ちゃん。フェッテターンが上手だね?バレエするの?」 小学生くらいの女の子がワラワラと集まってきて、オレのダンスを見始める。 「ふふ…ほんと?」 オレはそう言いながら回り続ける。 「本当だよ?この前やった黒鳥のお姉さんより上手に回ってる~。」 それは…最上級の誉め言葉だね… オレはターンを止めて華麗にポーズをとる。 「おーーー!」 パチパチとまばらな拍手を頂いて、丁寧にお辞儀をした。 陽介先生のスタジオで、子供には慣れたんだ… 彼らは大人みたいに取り繕わないで、素直に感じて、素直に話すだけの人間だった。 「ふふ…どうも、ありがとう。」 胸の奥のもやもやを抱えたまま、頭を真っ白にするためにダンスの練習をする。 兄ちゃんが誰かを愛した様に…桜二もオレじゃない誰かを思いながら…オレと一緒に居るの? だとしたら…そんなもの、要らない。 湊の代わりなんて…したくない。 オレの兄ちゃんはオレしか優しくしない。 オレの兄ちゃんはオレしか愛さない。 …胸が苦しくなって、息が上がる。 いつの間にかグルーピーたちも消えて、オレは汗を拭くとタクシーを拾いに向かう。 どうしてこれを隠していたの…? 桜二も、依冬も、どうして、これを隠していたの? 足元から全てがガラガラと崩れ落ちていく音が聞こえる。 それでも、グルグルのブラックホールは現れないで…淡々と心が冷たくなっていくのを感じるだけだった。 彼らの愛が、全て湊への物だとしたら…こんな間抜けな事は無い。 その事実をオレが知ったらぶっ壊れるから…隠していたのかな。 隠して傍に居て…オレに湊を感じて、愛したのかな… それを自分へ向けられた物のように勘違いして…兄ちゃんに甘えるみたいにグダグダに甘え切ってしまっていた? 悲しい?苦しい? いや…間抜けだ。 間抜けで仕方が無いから…終わりにしたいよ。 オレを愛してくれるのは兄ちゃんだけなんだ…そして、兄ちゃんは、もう居ない。 タクシーで新宿のスタジオまで移動して、陽介先生に指導してもらう。 彼はこの前のセクシーさが消えた様に、いつもの陽気な先生に戻って、オレに大詰めの指導をする。 「シロ、今のはターンの踏み込みが早かった。もっと音に合う様にしよう。焦らないで、音をきちんと耳で聞いて踊るんだ。良いね?」 オレは息を上げながら陽介先生の注意に頷いて答える。 耳なんて無い…頭の中は違う事でいっぱいなんだ… 振り払う様に没頭しても、湧き上がる水のように滲み出して、思考を濡らしていくんだ… このまま知らない振りを続けて…湊の代わりに…彼への愛を享受し続けてしまえたら、きっと、楽で満たされる筈なのに… オレにはそれが出来そうにもない。 彼の代わりをする位なら…1人に戻った方が…良い。 「もう仕上がってるね。準備OKだ。」 陽介先生がそう言ってオレの頭をナデナデする。 ふふッと笑って着替えを済ませると、早々にスタジオを後にする。 あの人の傍に居たらまた甘ったれてしまうから、逃げる様に離れる。 そして、兄ちゃんが待つ、彼の部屋に帰る。 頭の中を整理出来ないまま桜二の部屋に戻ってくると、彼は既に病院から戻っていた。 大きな体を屈めてキッチンの下を掃除する彼を見下ろす。桜二はオレを見上げて、笑いながら話しかけて来る。 「シロ…お帰り、先生どうだった?」 オレは彼の言葉を無視すると、洗濯機に洗い物を放り込んで、乱暴に閉めた。そのまま自分の服を脱いでシャワーを浴びる。 湊の代わりをする位なら…あんなもの要らない。 他の誰かを愛するような奴なんて…たとえ兄ちゃんでも、オレは要らない。 兄ちゃんでも…許せない。 「シロ…どうしたの?なぁに怒ってるの?」 シャワーから出て部屋着に着替えると、ソファにふんぞり返って桜二を睨みつける。 そんなオレの視線と態度に桜二が首を傾げて尋ねて来た。 …余裕のある笑顔を浮かべたその顔が、ムカつくよ。 フン! 「あんなところ掃除して…何を探してるの?」 彼を睨みつけたままそう聞くと、桜二の表情から笑顔が消えた。 「…シロ、まさか…」 オレは自分のリュックからテープレコーダーを取り出すと、彼に手渡しして言ってやった。 「はい。どうぞ?」 オレからテープレコーダーを受け取ると、桜二は固まったまま動かなくなった。 そんなにショックだったの?オレはもっとショックだったよ? でも、どうしてだろう…彼の表情から感じるのは、驚きでも、悲しみでも無い…怒りの感情。 「…どこまで聞いた?」 は? 怒った低い声色で桜二がオレを鋭く見つめて来る。 あぁ…そうか、大切な湊の思いでをオレに聞かれたくなかったんだな…! フン! 「全部だ。お前が愛してるのはオレじゃなくて湊だと言う事が分かった。きっと依冬もそうなんだ。だから2人して隠していた…そうだろ?」 彼の頬を思いきり引っ叩いて横に反れる顔まで目を逸らさずに見つめる。 「湊に似たオレと寝て、どんな気分だった?なあ…どうだった?兄ちゃんなんて甘えられて、どんな気持ちなの?こいつ、ちょろいな…なんて思ってんのかよっ!」 彼の胸ぐらを掴んで感情のままに揺さぶると、桜二はオレの腕を掴んで顔を見下ろす。 そして、目の奥を揺らして小さなブラックホールを作ると言った。 「確かに湊を抱いた。でもオレが愛しているのはシロ、お前だけだよ。なのに、どうして…何回も言わないと、分かってもらえないんだろうな?」 「それはな!お前がクズの嘘つきだからだよっ!」 そう言って勢いを付けると、オレを見下ろす彼の額に思いきり頭突きをした。 全然たじろがないで、オレの腕を放そうともしない。 仕方なくオレは桜二の腕をかじって暴れる。 「…俺の事を知ってるだろ?愛していない奴でも平気で抱けるさ…」 そう言ってオレの体を持ち上げると、淡々と寝室に運んでいく。 「それに湊と寝たのはあれを録音する為だった…。いつか結城に聞かせてやろうと大事に持っていたんだ。あれはね、お前に聞かせる物じゃないんだよ?結城を発狂させる為に作った物なんだから。」 そう言ってオレをベッドに降ろすと、有無を言わさず体の上に覆い被さって来る。 オレは怒りに任せて彼の頬を思いきり引っ叩いた。 ハラリと彼の前髪が垂れて落ちて、隙間から覗く瞳がギラついてオレを睨みつける。 「勝手に聞いて…勝手に怒るなんて…許せないよ?シロ。」 桜二が怒ってるのなんてさっきから分かってる。そして、そんな彼を見るのが初めてな事も分かってる。 だけど、許せないんだ。 湊に似ているから…そんな理由で利用されて、そんな理由が、依冬に愛されるきっかけになったオレにしてみたら… 兄ちゃんの様な桜二まで、湊に触れていたという事実が…どうしても許せなくて、悔しくて、堪らなかった! 「うるさい!オレは湊じゃない!オレは…兄ちゃんのシロだ!」 オレにキスしようとする桜二の顔を押さえて、体をもがいて彼を拒絶する。桜二はオレの両手を掴んでベッドに押し付けると、オレが反らした首筋に顔を埋めて覆い被さる。 そして、耳元で囁いた。 「俺がいつ、お前を湊の代わりなんて言った?なぁ…俺はいつだってお前に夢中なのに…何でそんな風に俺の愛を疑うんだよ…」 グルグルのブラックホールを湛えた桜二が結城さんに見える。 彼のように狼狽して、オレに話しかける桜二にオレは更に追い打ちをかける。 「じゃあどうして隠した!それが答えだろ!ばかやろ!」 「お前に似た湊をそそのかして、彼を殺した事を知られたくなかったんだよ!軽蔑されると…傷つけると思って…知られたくなかったんだよ!だから、依冬に聞かせた時に言ったんだ…シロには言わないでくれと…言ったんだ。」 クズなのに…!? 「はぁ?お前は…!クズなのに、どうしてそんな事を気にするんだよ!今更取り繕ったって、桜二がクズなのは変わらないじゃないか!」 本当にそんな理由で?オレに知られたくなかったんだとしたら傑作だ!オレは桜二の髪を掴んで自分の顔の真上に持って来ると、彼の顔を見つめる。 桜二はグルグルのブラックホールを歪めて大粒の涙を落として言った。 「シロの…良いお兄ちゃんで居たかった…」 そのまま項垂れる様にしてオレの首元に顔を埋めると、桜二はシクシクと泣きだした。 オレは抵抗することを止めて、彼に覆い被さられたまま放心する。 取り繕いようがないクズなのに…そんな事、思うんだ… 「オレは…クズな桜二が好きだよ。オレにしか優しくない桜二が好きだ。だから、湊を酷い目に遭わせて殺したとしても…どうでも良いんだ。そんな事、どうでも良いんだ。あぁ…クズだなって思うだけで、気にならないんだ。」 そう言って彼の背中に手を回すと、優しく撫でる。オレの…オレだけの…桜二。 「オレ以外愛していないならそれで良い。」 そう言って彼の髪を掴んで引き上げると、泣き顔の彼の唇に舌を這わせてキスをする。オレのキスに必死に答える彼に口元を歪めて笑う。 なんだ…そんな事だったのか…ふふ。 すっかり溜飲の下がったオレは、桜二のキスを気持ちよく堪能して、彼のくれる濃厚な愛に浸る。指先を立てて彼の髪を解かすように頭を抱えると、ギュッと抱きしめて自分に引き寄せる。 「シロ…抱いても良いだろ…ねぇ、良いだろ?」 うっとりしたブラックホールをオレに向けて桜二が尋ねて来た。律儀なんだね。 オレのTシャツの中に手を滑り込ませて、腰を撫でながらゴーサインを待ってる、可愛い桜二に、もったいぶって微笑むと首を傾げて言った。 「…ん、どうしようかな。」 オレは嫌な気持ちになったんだ…少しぐらい意地悪したって罰は当たらない。 「ふふ…意地悪だね…堪らないよ。」 そう?ドМなの? 桜二はオレのTシャツを捲り上げると、剥き出しになった素肌に唇を付けて舌で舐めまわす。彼の手が…彼の指先がいやらしくオレの体の上を這って回る。 それは素肌の滑らかさを感じる様に、質感を確かめる様に、ねっとりと手のひら全体を使った愛撫。 彼のくれる優しい快感に体が喜んで、震えながら腰を反らしていく。 「あっ…あぁ…ん…んっ…桜二…抱いて、オレの事…抱いてよ、もう我慢できない。」 彼の服を掴んで無理やり脱がせると、クスクスと笑いながらオレの唇に濃厚で甘いキスをくれる。彼の勃起したモノがオレの太ももにあたって、我慢出来ないみたいにお行儀悪く腰を擦り付けて来る。 ふふ…お前はもっとスマートだと思っていたのに…まるで依冬と同じじゃないか。 「シロ…愛してる…」 オレの仰け反る腰に腕を入れて、乳首をいやらしく舌で転がしながら食むと、オレのズボンの中に手を入れてオレのモノを扱く。オレは同じように彼のズボンの中に手を入れると彼の勃起したモノを優しく撫でる。 「はぁ…挿れたい…早く挿れたい…!」 吐息と一緒にそう吐き出して、うっとりとした瞳を向けて桜二がオレの中に指を入れて来る。 「あっああ…はぁはぁ…桜二…桜二…おっきいね、もう凄い硬くなってるよ?これ…気持ち良いかな…これ入れたら、気持ち良いかなぁ?あっああん…あっ、あっ…!」 下半身に広がる快感を感じながら、挑発する様にオレはそう言って、彼のモノをねっとりと指で扱いてあげる。 「ふふ…気持ち良いよ…?気持ち良いに決まってる…。シロは好きだろ?俺のおちんちんが大好きだろ?」 あぁ…なんて奴なんだ…大好きだぁ… 彼の唇にそっと唇を当てながら、オレは余裕のあるふりをしてクスクス笑うと言った。 「んふふ…それは誤解だよ…?オレはね…そうでもない。」 「ほんと?」 桜二はそう言ってオレに勃起したモノを押し当てると、いやらしく腰を動かして焦らす。 「じゃあ…要らないのかなぁ…シロが要らないなら、無理にする訳にもいかないよ…だって、俺はシロの言いなりだからね…?彼の嫌がる事なんて…絶対にしないんだ。」 そう言ってオレを見つめて口元を緩めて笑う。 ふふ… 「じゃあ…挿れないで…?」 オレはそう言うと、彼の髪を指で撫でて解かした。桜二は目を丸くして笑うと、オレの中に押し入って来る。 久しぶりの彼の感触に体が喜んで、背中が仰け反っていく。 「あっああ!桜二…!気持ちいい!はぁはぁ…桜二、桜二…」 彼の背中を抱きしめてオレの中で動き出す彼のモノを感じて歓喜する。 体を起こして根元まで挿れると、桜二は腰をねっとりと回すように動かして、オレの中に綺麗に収まった。 「はぁはぁ…シロ…ずっと抱きたかった。我慢してたんだよ?偉いだろ?俺はね…どっかの狂犬とは違うんだよ。だから、お利口に待っていたんだよ?偉いだろ?褒めてよ…シロ、俺の事、褒めてよ…」 可愛い… 歪んだブラックホールをオレに向ける桜二の手を撫でて、ゆるゆると腰を動かしながら、自分のモノを彼の目の前で扱いて喘ぐ。 「あっ…あぁん…止まらないで…もっと気持ち良くしてよ…桜二…」 「シロ…」 項垂れる様にオレに覆い被さって、ねっとりと舌を頬に這わせると、溺れるくらいの濃厚なキスをする。そのまま腰を動かして、逃げ場の無いオレに最高の快感をくれる。 体がビクビクと震えて、腰が揺れる。 「桜二っ!あぁっ!んん、桜二…良い…気持ち良いよぉ…あっああ…」 苦しくない、桜二のくれる快感だけのセックス…に頭の中が真っ白になっていく。 彼の背中に両手でしがみ付いて、爪を立てる。 下から突き上げる快感に体が仰け反って、すぐにイキそうになる。 彼の熱っぽい吐息がオレの首に掛かって、髪を揺らす。 「兄ちゃぁん…兄ちゃん…気持ちいの…あっああん…はぁはぁ…」 快感に顔が上がって、首が仰け反る。つま先が震えて限界を迎える。 「シロ…ダメだ…イッても良い?」 苦しそうに苦悶の顔をオレに見せて、桜二が可愛くおねだりしてくる。彼の頬にそっと触れて、だらしなく開いた口から舌を出して言った。 「キスして…?」 オレの舌に自分の舌を絡めて、荒い息遣いをしながら桜二が腰を動かし続ける。 だめだ…オレもイッちゃいそう…! 「ふっ…あっふ…んんっ!あっああん!!」 覆い被さる彼の腕に両手を絡めて、彼の甘いキスを受けて、彼のくれる快感に溺れながら、腰を震わせてオレは激しくイッてしまった…。オレの中で彼もドクンと跳ねて熱い精液を吐き出して項垂れる。 「ん、気持ち良い…桜二のエッチはやっぱり気持ちいい…大好き。大好き。」 オレの体に圧し掛かる彼の背中を抱きしめながら、何度も彼の髪にキスをする。 じっとりと汗ばんだ背中にある切り付けられた傷を指でなぞりながら、彼の顔を覗き込む。 「もっと…桜二もっとして…」 彼の上に跨って座って、半立ちの彼のモノをねっとりと扱く。 快感の余韻が消える前におかわりをあげよう。きっとずっと我慢してきたから、こんなんじゃ足りないだろ?オレはね…足りないよ?まだまだ桜二が足らない。 彼のモノを自分で埋めて、体を仰け反らせながら喘ぐ。 「あぁ…桜二、桜二…またおっきくなったよ?エッチだ…桜二はエッチだね。はぁぁ…気持ちいね?桜二の気持ちい…大好き。大好き…。」 桜二の腕を引っ張って体を起こすと、両手を自分の腰に回させる。 うっとりと胸の中の彼を見下ろして、オレを見上げる彼の唇に何度もキスをする。 ねっとり腰を動かして、オレの中で彼のモノを扱いてあげる。 「シロ…!んっ…あっ、はぁはぁ…んぁっ…」 そんなエッチな声…聞かせたら興奮しちゃうだろ?全く…可愛いんだから。 はぁはぁと肩で息をする惚けた彼にクッタリと寄り添って、腰をねちっこく動かす。 気持ち良さそうに顔を歪める彼を見つめて、もっと気持ち良くなる様に彼の耳たぶを食む。 「あぁ…ダメ、シロ…イッちゃう…イッちゃうから…」 「んふふ…可愛い…まるでオレがファックしてるみたいだよ?んふふ…んふふふ。」 桜二の表情に興奮して、どんどん腰が動いちゃう…だって、めちゃくちゃ可愛いんだもん。彼の顎を舐めて上から蓋をするみたいにキスをする。堪んない。トロける… 桜二がオレの桃尻を鷲掴みして下から腰を突き上げ始める。 「んんっ!待って…やだぁ、桜二…オレがするの…ばかぁ!ばぁか!」 彼の胸を叩いて主導権を奪われない様にけん制するけど、桜二はオレを見上げてにっこり微笑むだけで、動きを止める気は無さそうだ。 クッタリと彼の頭にもたれて、彼のくれる快感に溺れていく。 「あぁ…も、もう…気持ちいいの…桜二の好き…好きなの…あっああん…」 「シロ…かわい…本当、ずっと抱きたかったんだよ…」 桜二はそう囁き声で言うと、オレの頬をべろりと舌で舐め上げて、チュッチュッと何度もキスをして大事そうに抱えた。彼の背中に手を回して、 「俺の可愛いシロ…誰にも触らせたくない。」 オレの体をベッドに沈めると、腰をゆるゆると動かして微笑みかけて言う。 「沢山してあげるね?」 腰をオレに押し付けると奥まで入って来る。中を感じる様に腰を回して吐息を吐くと、オレの勃ったモノを愛おしそうに見て、指先でなぞった。ビクビク反応するのを見て、ゆっくり握るといやらしく指を動かして扱き始める。 快感が一気に襲って来て、体が仰け反っていく… 「あっ…ああっ!んっ…はぁっ…ぁああっ!桜二…!んっ、あっあぁあ!きもちい…!」 桜二の腰がねちっこく動くから快感のストロークが長くて…堪らなく、エロくなる… 「あっあはぁ…きもちい!桜二…!桜二!ぁんっ!イッちゃいそう…!きもちい!ぁああっ!」 オレがイッてるのに、ずっと扱き続けてまた勃たせる。 「シロ…可愛くて、見てるだけでイキそうになるよ…?俺のシロ…可愛いな…!」 桜二はそう言って極まると、覆い被さってキスしながら腰を動かしてくる。彼の舌がオレの口の中を舐めまわして、舌を絡めて強く締め付ける。両手で彼の胸に手をあてて、そのまま首を撫でると、頭の上に回して抱きかかえる。 大好きだぁ…気持ちいい…あったかい… 「んっ…んっふあ…ん、んんっ!んぁっ!桜二!らめぇっ!イッちゃう!んっ!きもちい!!んっぁああっ!!」 激しくイッて腰がガクガクと揺れる… 桜二もイッた筈なのに…余韻もへったくれもない位に腰を振り続けるから、オレの中からグジュグジュと音を立てて精液が掻き出されていく。 「やぁだっ!も、もっとゆっくりしてよっ!んっんん!あっあぁあ!らめ!おうじ、やぁだぁ!」 両手で彼の顔を掴んでグニグニと挟んでも、彼の肩をかじっても、今日の桜二はまるで依冬のビーストモードの時の様に止まる事を知らない。うっとりとトロけた目だけオレを凝視して、頭の中はどこか別の場所に行ってるみたいだ… 「やんっ!やぁ…ぁああっ!んっ!はぁはぁ…おうじ…おうじ…あっあ…ぁあん!イッちゃうよ!」 微笑みながら、オレの両手を頭の上に押さえつけてガンガン腰を突いてくる。 あぁ…頭が真っ白になる! 「あっあああ!きもちい!おうじぃ!イッちゃうよ!あっ、あああん!」 桜二の背中にしがみついて、また、激しくイッてしまった。 「まって…まって…ちょっと、まって…」 逃げる様に体を捩って桜二の腕の中から這い出ると、休む間もなく、今度は後ろからオレの中に入って来る。 「だぁめ!…1回待って!ぁあん!桜二!やだぁ!」 オレの背中に両手を滑らせて優しく撫でると、強く腰を掴んでねっとりと動かし始める。それはオレの膝が浮くくらい彼の腰に引っ張り上げられた状態。ネチネチと音をさせて、オレの中で微妙に動くだけなのに…妙に気持ち良いのは彼がテクニシャンだからだ… 「だめ!だめ!イッちゃう…!んっんん!桜二…!きもちい!やだぁ…あっああ!きもちい…!」 イキすぎて足がガクガクする。上半身はベッドに突っ伏して顔すら上げられない… ひたすら襲ってくる快感が体全体に巡って、震える。 オレの背中を食むようにキスして、腰を下から抉る様に動かすと、オレのグチュグチュになったモノを熱心に、丁寧に、扱く。 「ああっあ…きもちい…あぁあ…おうじ…んぁあ!…おうじ…!やぁ…ん…あぁあ…イッちゃう…ん」 もう何回イッたんだよ… 気が済んだのか、オレはやっと解放された。 息を切らしながら天井を見上げる。桜二がオレを見下ろして、トロけた瞳で濃厚で熱くて、甘いキスをする。 しつこいくらいの長いキスに、オレは彼の脇腹に手を置いて横に退かそうとする。口元を緩めてクスクス笑いながら、それでも尚、熱いキスを続ける。 どうやら、オレは男の躾に失敗してるみたいだ…誰も言う事を聞かない。 「病院の先生はなんて言ってた?もうエッチして良いって言ったの?」 桜二と一緒にシャワーを浴びながら、聞きそびれた事を今更聞くと、桜二は首を傾げて言った。 「さあ…でも、もう傷は塞がってるし…日常生活は大丈夫だって言っていたからね。大丈夫なんじゃない?」 他人事の様に話すな… オレは彼の体に付いた傷痕をゆっくり手でなぞって確認していく。 4か所も…傷つけられたんだ。何度見ても可哀想だ… でも、彼はなにやら達成感を感じている様にも見えなくない。それはまるで、ぼろ雑巾の様に捨てられたお母さんへの復讐を果たしたかの様に、スッキリと、清々しい。 まぁ、良かったじゃないか…身を切らせて骨を断ったんだ。 上出来だろ。 桜二がグチャグチャのシーツを洗濯する間、ベッドの下に置いた“宝箱”を持ち出してソファで兄ちゃんの写真を眺める。 かっこいいな…兄ちゃんが一番かっこいいよ? 洗濯機を回すと、桜二がオレの隣に座って兄ちゃんの写真を覗き込んできた。オレは彼に写真を見せながらクネクネして言った。 「ね~?兄ちゃんが一番かっこいいでしょ?」 オレがそう言うと、桜二は首を傾げて言った。 「俺もなかなか、かっこいいけどね?」 そんな彼を無視して、兄ちゃんの腕時計を手の中で撫でながら桜二にもたれて甘える。彼はオレの髪にキスして体に埋めてくれる。この場所があったかくて大好きだ。 「桜二?あのテープは処分して?呪われるよ?」 背中の桜二にそう言って、彼の腕を自分のお腹の上に回す。そしておもむろに兄ちゃんの腕時計を嵌める。 ほら…こうすると。まるで兄ちゃんが後ろにいるみたいだ…!えへへ。 「兄ちゃぁ~ん…」 オレはそう言って彼の体に甘える。グダグダに甘えて、オレを抱きしめる体にトロけて行く。 ピンポン! 「なぁんだ!」 桜二の代わりにインターホンに出ると、画面に依冬が大層な箱をこちらへ向けているのが見えて、思わず笑い声をあげる。 「ケーキ買ってきたよ?」 「んふふ…!」 オレはクスクス笑いながらオートロックを開けると、玄関を開いて依冬が来るのを待った。依冬は本当にテイクアウトとか…デパ地下とか…好きなんだ。この前は桃のケーキを買ってきた。言わずもがなオレの桃尻を連想させるチョイスに、桜二も絶句した。 「依冬~!」 エレベーターを降りると、依冬が両手を広げてオレに言った。 「シロ!おいで?」 こんな事言われて…行かない訳にはいかないだろ? オレは玄関を裸足で飛び出すと、思いきり依冬に抱きついた。 「あはは!依冬~!」 彼の顔にチュッチュッとキスして、ギュッと抱きしめる。 玄関を一緒に入って、彼の持ってきた箱を受け取るとダイニングテーブルに置いた。 依冬は上着を脱ぎながら桜二を見つめて固まった。 「あぁ…あのカセットの事なら聞いたんだ。今処分させてる。」 オレはそう言って、カセットテープを切り刻む桜二に向かって言った。 「もう要らないもんね?」 「うん。もう要らない。」 そう言ってにっこり笑う彼を見て、オレもにっこりと笑い返した。 「何だよ。口止めしといて…ふん!そんな事より、シロ?今日は良い物を買ってきたんだよ?」 依冬はそう言って首を傾げるオレに微笑みかける。…どうせ桃だろ? 依冬はホクホクした顔をして持ってきた箱を開くと、オレの顔を見ながら中身を見せた。 「じゃ~ん!桃のゼリーだよ?上に半分に切った桃が乗ってるの。何かに見えない?」 最低だな…デリカシーが無いんだ。 悪い子じゃないんだ。とっても良い子なんだ。でも時々、こういう事を起こすんだ… オレが絶句して依冬をジト目で見つめていると、テープを切り終えた桜二が後ろに来て、箱の中を見て一緒に絶句した。 「ふふ…俺はね、これを見た時ピンと来たんだよ?ふふ…ほら?そっくりだよ?シロのお尻にそっくりだよ?ね?あははは!」 嫌になるね。 3つ入った桃のゼリーを箱から取り出して、3人で向かい合って食べる。 「今度はチョコケーキを買って来てよ…桃よりもチョコの方が好きだもん。」 オレがそう言うと、依冬はにっこりと微笑んで頷いた。 可愛いんだから…全く、もう… 結城さんの会社は息子の依冬が引き継いだ。他の社員に支えて貰いながら頑張って社長業をこなしてる。経営だの、会計だの、難しい電話をしてる彼は楽しそうな笑顔をしていて、仕事が好きなんだと感じた。 桜二は怪我が完全に治るまでお仕事はお休みだ。復帰するのはそう遅くはないだろう…。すっかり毒の抜けてしまった彼は、今ではオレの兄ちゃんになった。智の事もそうだし、湊についても彼はクズだった。それでも、オレだけには優しい。そして、それで良いと思ってる。 結城さんは精神病院に入って、お薬で治療という名の飼い殺しにあっている。これは、息子たちからの復讐みたいだ。 オレはオーディションに向けて毎日練習をして、夜はお店でショーをこなしているよ?兄ちゃんを思い出しても…もう、大丈夫。前の様にどん底に落ちたりしなくなった…。会いたい気持ちは無くならない。でも、堪らなく寂しい気持ちは無くなった。自分が嫌いなのは変わらない。どこか…感情が抜け落ちてるのも変わらない。悪夢も見るし、目の奥が揺れて真っ暗になる事も…でも、桜二が居るから大丈夫。 「シロ、今日はお店に行くんだろ?送って行くよ。」 依冬がそう言ってオレのリュックを手に取ると、中身をチェックし始める。 ふふ…まるでお母さんみたいだな。 オレが口元を緩めて依冬を見ると、桜二がリュックを取り上げて言った。 「良いんだ。今日は、俺が送っていくから。」 オレは桜二の腕から兄ちゃんの腕時計を外すと、”宝箱”にしまい込んで彼のベッドの下に隠しに行く。 「ちょうど新宿に行く用事があるから、一緒に行くんだよ。あんたは寝てたら良いじゃない。年だし…夕方は眠たくなるだろ?」 「ふふ…お前みたいに乱暴運転だと、いつか人身事故を起こしかねないだろ?そんな車に乗せる訳にはいかないんだよ?」 ふたりの口撃戦を横目に見ながら、歯磨きをして服を着替えると、リュックを手に持って玄関へ向かう。 今日は何を踊ろうかな… 「シロ?…送って行くよ?」 そう言う2人に笑顔を向けて、肩をすくめて言った。 「今日は1人で行きたいんだ。ごめんね?じゃあ…行ってきま~す。」 どっちかなんて選べない。 どっちにするなんて選べない。 …だからこんな風になった時は1人で行く事を選択する。 エレベーターの中、どんどん移動する赤い点を見つめる。 「ふふ…そうかな?2人とも兄弟なんだよ。だから、張り合い方が似てるのかもしれないね…」 オレは1人でそう言って笑うと、誰も居ない空間を見つめて手を伸ばして言った。 「兄ちゃん…一緒に、行こう…?」 「良いよ…」 目に見えない兄ちゃんがオレの頭の中でそう答えて、オレの手を握った。 きっと死ぬまで…オレは兄ちゃんと一緒にいる。 それは何があっても、変わらないんだ。 湊くん編…おしまい

ともだちにシェアしよう!