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第7話

「……かおる……起きろ! 馨!」  意識を手放す寸前で、佐山に起こされた。 「今日書きあがった小説が、馨の返事なんだろう」  今日書いたといえば、僕の初めての恋愛小説だ。  今まで恋愛小説なんて僕には無理だと思っていた。  最近の小説は、今までとだいぶ作風が変わってきていた。  今回の恋愛小説ならば『数式を解いている』などと酷評した評論家の鼻を間違いなく明かせるだろう。  佐山は僕をベッドの上に座らせると、表紙に『ちよがみ』とある日記帳を開いて、ある一文を指さした。 「恋愛小説を書きあげたら、佐山のプロポーズを受けよう……うん? ひょっとして、僕は求婚されていたの?」 「これからの人生を俺と一緒に生きてください」  今日一日の中で見たことも無い真面目な顔をして、佐山は指輪を差し出した。  その指輪に僕は左の薬指を通した。 『はい』なんて恥ずかしくて言えない。  それに今日の処理能力の許容範囲はここまでだ。  佐山は僕の担当になるために社長に直談判までした。  担当になってからも記憶が残らない僕を見捨てることなく支えてくれた。 「もう、僕、いっぱいいっぱいだ。寝る。どうせ明日もプロポーズしてくれるんだろ」 「はい、なんどでも愛を誓います!」  臭いセリフを平気で吐いてしまう僕の彼氏は少し恥ずかしい。  佐山を押し倒すと彼の腕を枕に寝ころんだ。  今日一日ぐらい日記を書かなくてもいいだろう。  僕の身体には少しずつ佐山の記憶が刷り込まれているのだから。  でも、きっと僕は、明日の朝目覚めて叫ぶに違いない。 『なんでおまえがここに居るんだ!』と。  そして彼は空白の一日をなんと申し開きするのだろうか。      ー完ー

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