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約束の週末

「本当にピザで良かったの?」 スーツ姿の眞門がピザの入った大きな四角い箱を持って、自宅のリビングに入ってきた。 「勿論です」 そう言って、その眞門の後に付いて、星斗もリビングに入って来る。 土曜日の夜を迎え、星斗と眞門が期間限定のパートナーとして過ごす初めての時間が訪れていた。 眞門は暇だと寺西は断言していたが、実際はそうではなかった。 今や当たり前となった週休二日制の制度だが、眞門は取り入れる余裕がない程忙しくし働いてるいるようで、月曜日から土曜日までを仕事の時間に充てていた。 しかし、会社はきちんと週休二日制が導入されているため、土曜日は休業日にあたってしまう。 なので、土曜日の仕事内容は雑務をこなすことがほとんどとなり、その内容次第で土曜日の仕事を終える時間はその都度違った。 そこで、眞門は土曜日の仕事を終えてからの時間を星斗とパートナーとして過ごす時間に充てることにした。 眞門の職場近くの駅が待ち合わせの場所になった。 仕事終えた眞門が星斗を迎えに愛車で現れる。 星斗を乗せると、すでに夕暮れ時を迎えていたので、どこかで夕食を食べようと眞門は誘った。 しかし、星斗は躊躇う。 自分の食事代ぐらいは自分で出さなければ。 別に恋人ってわけでもないのだから。 しかし、そうなると、所持金の心配が出てくる。 ランチに24000円も平気で使う眞門だ、普段から、自分が一度も足を踏み入れたことのない高級店で優雅に食事しているに違いない。 そんな眞門に、「ファミレスでお願いします♪」とは気軽に提案できない気がした。 けど、ニートの自分にそんな高級店の食事代の割り勘を捻出するなんて、すぐに破産、自殺行為だ。 そう思い、星斗は食事の誘いをやんわりと断った。 星斗がやんわりと断ったことに、何かを察したのか、「じゃあ、家で食べようか」と、眞門がテイクアウトを提案してきた。 星斗の予想通り、眞門は老舗寿司店や高級中華店のテイクアウトばかりを候補に挙げてきた。 絶対に半分の額も支払える額じゃないと思った星斗は「ピザでお願いしますっ!」と、安価で食べれそうなテイクアウト料理をリクエストしたのだった。 「星斗クン、俺、着替えてくるから、その間に手を洗っておいで」 「え!?」 「ン?」 「Play用の服って何ですか・・・? 俺、知らなくて、何も持ってきてないですけど・・・」 「・・・プっ」 と、眞門は思わず笑いを噴き出した。 「ごめん。そうじゃなくて、俺はスーツを着替えてくるだけ。その間に星斗クンは手を洗ってくると良いよってこと。ピザを食べるでしょ?」 「ああ、そういうことか・・・」 「大丈夫? さっきから緊張しすぎだよ」 「・・・・・」 そう言って、優しく微笑む眞門はやっぱり素敵な紳士だなと思う。 星斗の中で、当初とは眞門の印象が真逆に変化していた。 「じゃあ、着替えてくるね」 「あのっ」 「ん?」 「ピザ代。割り勘にしませんか。俺、半分出します」 「星斗クン、Domに恥かかせないでよ」 と、眞門は優しく咎めた。 「え?」 「こういうのは、Domが絶対に出したいものなの。分かった?」 「・・・そうなんですか?」 「そうだよ。DomはSubにご馳走することで少しでもカッコつけたいんだから。だから、カッコつけさせてよ、ねえ?」 そう言うと、にっこりと微笑みを残して、眞門は下の階に繋がる螺旋階段を下りて行った。 「なんか、カッコ良い・・・。余裕がある大人の男って感じだ。俺が無職だって知ってるくせに、敢えてそれを口に出さずにDomだから奢らせて欲しいなんて・・・その気遣い、惚れてまうやろっ! てか、俺、年上がタイプのSubに生まれてきて結果オーライだったな・・・」と、眞門の後姿を見送りながら、星斗は心の中で呟いた。

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