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前途多難

「本当に申し訳ありませんでした!!」 キリッとしたスーツ姿で身を固めた眞門が、星斗の自宅のリビングで、星斗の母の加奈子に向かって、深く土下座をした。 季節は春の中頃あたりを迎えている―。 「私の意気地がなかったばかりに、星斗さんをまた傷つけてしまい、本当に申し訳ありませんでした!!」 深く頭を下げたまま、眞門は加奈子に対して謝罪を述べた。 Domの知未さんが自ら土下座するだなんて、相当に辛い思いをしてるはずだ。 星斗はそう思いながらも、ただ傍で見守るだけだった。 約一年前に自身がダイナミクス性であるということが判明した星斗。 眞門と偶然出会ったおかげで、色んな過程を経験し、自身がダイナミクス性であるということを身をもって受け入れた星斗は、Dom性やSub性の特色などもかなり把握することが出来ていた。 攻撃的な性を持つDom性が誰かに向かってへりくだる様な態度を取るのは、Domにしか理解できない、言い表せない辛さがあるはずだ。 そんな辛さを押し込んでまで、加奈子に向かって土下座する眞門に、眞門の、自分に対する誠意というものが星斗には伝わった。 星斗と眞門が結ばれて、幾日が過ぎた。 しかし、ふたりが更に目指すその先(結婚)には、まだまだ幾多の試練が待ち構えている。 まず最初の関門が、星斗の母、加奈子から"交際の許し"をもらうことだ。 結婚の許しをもらう挨拶までしておいて、その後、何の断りも入れず、あっけなく破談させた眞門。 そんな自分勝手な行動をとった眞門に、加奈子は悪い印象しか抱いていない。 しかも、婚約破棄をされたことが原因で星斗は再びニート生活へ逆戻り。 そして今尚、ニート生活を続行したままだ。 勿論、加奈子の、眞門への信頼度は(ゼロ)。 いや、順調だったはずの星斗の社会復帰を台無しにしたせいで、最早、マイナスの存在としてしか見ていなかった。 そんな加奈子が、星斗が眞門と再びよりを戻すことなど言語道断、許すわけがなかった。 烈火のごとく怒り散らし、ふたりの交際に猛反対していた。 「いくら、頭を下げられても困りますっ!」 強い口調できっぱり言い切る加奈子の言葉にどれほどの怒りが込められているのか、眞門にはその思いが伝わってくる。 「大体、親がまだ許しもしていないのに、すでに半同棲生活みたいなことを始められるなんて・・・! 確かに星斗はもう成人してますから、親の許しなどいらないとお考えになられたのかもしれませんが、社会的立場がある方がお取りになる行動だとはとても思えませんっ!!」 加奈子は容赦なく、眞門を叱りつけた。 「はい、おっしゃる通りでございます。本当に申し訳ありません!!」 自分に全ての非があると承知する眞門は、ただ頭を深く下げ、恐縮するしかない。 「・・・ですが、Dom性とSub性は一緒にいた方が心の具合と申しますか、精神的なものが安定しますので・・・」 「だったら、どうして、星斗をあっさりと捨てたんですか! この子がどれだけ傷ついて泣いた日々を過ごしたか、あなたはご存知なんですかっ! やっと社会復帰できそうになったこの子の人生をまた台無しにしたんですよ!」 「はい、本当に申し訳ありませんっ!!」 自分の言い分など、加奈子にとってはただの言い訳にしか聞こえない。 眞門はすぐにそう悟って、また深々と頭を下げた。 どうしても反抗してしまいたくなるDom性を理性で必死で抑えつけながら、なんとか穏便に済まさなければ、その一心で、ただひたすら頭を下げることで、眞門は加奈子からの怒りに耐え忍んでいた。 「大体、こちらの条件は前にお話ししたはずです。眞門さんのお父様のお許しをもらえない限り、うちも交際は認めません」 「・・・・・」 「それで、お父様のお許しはもらえたんですか!」 「いいえ、まだ・・・その・・・話をしておりません・・・」 「!!」 加奈子は呆れたと言わんばかりに、大袈裟に目を大きく見開いた。 「それで、よく私のところに謝りにいらっしゃいましたね!! お許しをもらうどころか、まだ、お父様にお話にもなっていないなんて・・・呆れて物が言えませんねっ!」 「はい、本当に申し訳ございません!!」 加奈子の当然の怒号に対し、Domの眞門がみるみる体を小さくした。 自分の父親からの交際の許可をもらえた事実がない限り、今ここで、いくら謝っても許してはもらえないだろう。 そう判断した眞門は、改めて出直すことを考えた。

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