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前途多難②
眞門が仕切り直しを決めた、その瞬間、それまで様子を静かに見守っていただけの星斗が、眞門の隣に同じように正座した。
「母ちゃん、お願いします。とりあえず、交際だけでも許してください!」
そう口にすると、加奈子に向かって、眞門を真似るように深々と土下座をした。
眞門の誠意が充分に伝わった星斗は、ただ見てるだけじゃなく、自分も何かをしなければ、そんな思いに駆られ、眞門と一緒になって、土下座することを選んだ。
知未さんは何も悪くない。
『俺のご主人様になってください』
俺がそう言って、俺が知未さんにお願いしたんだ。
知未さんはただそれを受け入れてくれただけ。
俺がそんなお願いなんかをしなければ、こんな所でうちの母ちゃんに土下座する必要なんてなかった。
知未さんも、それを母ちゃんに説明すれば良い!
いつものDomらしさ全開で、俺はあんたの息子に選ばれたんだから、「ありがとう、よろしくお願いしますね」ってだけ言えば良いんだよって。
なのに、何も説明しないで、ただ耐えて、謝り続けるだけだなんて。
Dom性なんだから、似合わない無理なんかしなくていいっ!
土下座なら、Subの俺がいくらでもしてやるっっっ!!
眞門は想像になかった星斗の行動に一瞬、唖然としたが、とても心が晴れやかにもなった。
以前、結婚の許しをもらうあいさつに来た時には、まるで他人事のような態度でいた星斗。
その時とは違う、正反対の行動を取った星斗に、俺と一緒に過ごすことに何の迷いもないんだ、と感激すると、折れかかっていたはずの眞門の心は再び奮起することが出来た。
ダメ元で、もう一度だけ、二人で願い出てみる。
「今度は絶対に・・・必ず、星斗さんを大切にすることを誓います。だから、交際を許してください。
お願いします!」
眞門はもう一度、深く頭を下げてみた。
「お願いします!」
星斗も同じように願い出る。
しかし、
「いいえ、絶対に認めませんっっっ!!」
一貫して、厳しい顔つきを崩さない加奈子はその一点張りで通し、二人の願いを聞き入れることはなかった。
「眞門さん」
「はい」
眞門は顔を上げて、加奈子を見つめる。
「まずは、眞門さんのお父様にお許しを頂いて来てください」
「・・・・・」
「こんなどうしようもない息子ですけど、でも、うちにとっては大事な息子なんです。なので、半端なお気持ちでお付き合いされては困るんです」
「・・・・・」
「お父様に星斗との交際を認めていただく。それがうちが交際を認める条件です」
「・・・承知しました」
やっぱり、ダメか。
これ以上、強固に謝り続けても結果は変わらないだろう。
納得させる答えを持ってこないと。
仮にも社長で契約の場は何度も経験している。
ある程度の交渉は心得てるつもりだ。
そう考える眞門はここで一旦、潔く引き下がることにした。
加奈子に向かって、もう一度深く頭を下げると、眞門は部屋を出て行こうと立ち上がった。
「それでは、今日はこれで失礼します」
眞門は加奈子にまた一礼すると、背を向けて、玄関に向かった。
「知未さん・・・っ」
星斗も同じように立ち上がって、眞門の後を追いかける。
が、「星斗」と、加奈子がすぐに呼び止める。
「はい」
「眞門さんとこのまま一緒に出て行くなら、二度とここには帰ってこなくて良いから」
「・・・・・」
「良い報告を持って帰ってくるまで、私にその顔は二度と見せないでちょうだい」
「・・・・・」
「母親として、あんたの泣き顔を見るのはもううんざりなの。私の言いたいことが分かるわね?」
加奈子はとても心配そうな顔で星斗を見つめた。
厳しい顔を初めて崩した加奈子に、母としての愛を理解した星斗は
「・・・はい」
と、素直に返事し、眞門の後を追いかけた。
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