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お父様の別宅に立ち寄るなら、宿をプレゼントしてくれたお父様にお土産ぐらいは持参しないと・・・。 そう思いついた星斗は、桃の間に戻るように指示された眞門の言いつけを守らずに、食事処からそのまま売店を訪れた。 昨日も見たが、売店で売られてある土産物はやはり乏しく、饅頭かクッキーの二種類しか置いてなかった。 どっちを買おうか? 拓未の口にはどちらが合うのか? 星斗が選択に迷っていると、「どうしたの?」と、諒が声を掛けてきた。 「あっ、昨日はどうも」と、星斗。 「今朝はもう裸エプロンじゃないんだ」 「え?」 「凄く可愛くて驚いた。君があんなにSub性のフェロモンを垂れ流すような子なんだって」 「そうですか・・・」 諒の口にした言葉をNormalの環境で育った星斗には明確に理解することが出来ない。 「ねえ、ホントに誘惑して良い?」 「えっ・・・」 「首輪はどうしたの?」 「・・・あっ!」 就寝中に黒のエナメル革の首輪を眞門に外された後、首元がそのままになっていたことを思い出した星斗。 いつも愛用しているハーフチョークの首輪を昨夕に眞門に外されてから、行方知らずになって、付けるのを忘れていた。 「それって、口説いてってことだよね?」 「へ?!」 「だって、この瞬間は星斗クンのことを口説いても罪には問われない」 「なんで、俺の名前・・・」 諒が星斗を熱く見つめる。 「・・・ねえ、一度、俺とPlayしてみない? 眞門さんよりもっと気持ち良いサブスペに入れてあげる」 星斗は諒のDomの圧を感じる。 うわー、凄い、このイケメンの圧。 エロスの塊だ。 エロいことしか考えてないって言うのがヒリヒリと伝わってくる。 多分、すっごいことされそうなのが簡単に想像できる。 知未さんにもされたことないようなこと・・・。 ・・・でも、俺が欲しいのはそんなのじゃないんだ。 それが俺には分かってる。 「・・・ごめんなさい。俺は」 「分かってる。君はそう言うと思ってた」 「え?」 「ごめんね。お仕置きされる羽目にして」 「え?」 「でも、俺、拓未様に世話になってて、どうしても役に立ちたいんだ。だから、ごめん」 「ん?」 星斗には何のことだか、さっぱり分からない。 「星斗!」 中庭からの帰り道、二人を見かけた眞門がすぐそこにいた。 「じゃあ、いつでも連絡待ってるから」 「へ!?」 諒はそう言うと、小さな紙切れを星斗のズボンのポケットに強引に押し込んだ。 「それ、俺の連絡先! さっきの約束忘れないでよっ!」 諒は眞門に伝わる様に声を大にしてそう言うと、星斗に笑顔を浮かべて逃げる様に走り去った。 「・・・はあ!?」と、何かなんだか分からない星斗は呆気に取られたが、怒りに狂った眞門の気配だけはずっしりと伝わってくる。 「知未さん・・・?」 「もう浮気?」 「へ?!」 「そんなにPlayしたかったの?」 「はい!?」 「見損なったよ。俺、信じてたのに、星斗のこと。星斗だけはそういうことしないSubだって・・・」 眞門が悲しみに暮れた顔をする。 「いやいやいや、違いますっ、違いますからっ!」 「分かってたけど・・・Sub性が解放できるようになったら、相手は俺じゃなくても良いってことは・・・でも、ショックだよ・・・」 「なに、言ってるんですか・・・!?」 「じゃあ、なんで、部屋におとなしく戻らず、あいつに口説かれに来てんだよっ!」 「いや、これは・・・っ」 「Shut Up(黙れ!)」 「!」 星斗はCommandに従って、口を閉じた。 マズい。 Dom性の暴走に飲まれて、知未さん、完全に正気を失ってる。 星斗は眞門の怒りに若干の恐怖を覚え始めた。 「星斗がどんな悪いことをしたか? 身をもって教えてあげるよ。まだやり足りないってことなんだろう?」 星斗を見る眞門の目は完全に軽蔑を込めた目へと変わっていた。

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