293 / 311
罠
お父様の別宅に立ち寄るなら、宿をプレゼントしてくれたお父様にお土産ぐらいは持参しないと・・・。
そう思いついた星斗は、桃の間に戻るように指示された眞門の言いつけを守らずに、食事処からそのまま売店を訪れた。
昨日も見たが、売店で売られてある土産物はやはり乏しく、饅頭かクッキーの二種類しか置いてなかった。
どっちを買おうか?
拓未の口にはどちらが合うのか?
星斗が選択に迷っていると、「どうしたの?」と、諒が声を掛けてきた。
「あっ、昨日はどうも」と、星斗。
「今朝はもう裸エプロンじゃないんだ」
「え?」
「凄く可愛くて驚いた。君があんなにSub性のフェロモンを垂れ流すような子なんだって」
「そうですか・・・」
諒の口にした言葉をNormalの環境で育った星斗には明確に理解することが出来ない。
「ねえ、ホントに誘惑して良い?」
「えっ・・・」
「首輪はどうしたの?」
「・・・あっ!」
就寝中に黒のエナメル革の首輪を眞門に外された後、首元がそのままになっていたことを思い出した星斗。
いつも愛用しているハーフチョークの首輪を昨夕に眞門に外されてから、行方知らずになって、付けるのを忘れていた。
「それって、口説いてってことだよね?」
「へ?!」
「だって、この瞬間は星斗クンのことを口説いても罪には問われない」
「なんで、俺の名前・・・」
諒が星斗を熱く見つめる。
「・・・ねえ、一度、俺とPlayしてみない? 眞門さんよりもっと気持ち良いサブスペに入れてあげる」
星斗は諒のDomの圧を感じる。
うわー、凄い、このイケメンの圧。
エロスの塊だ。
エロいことしか考えてないって言うのがヒリヒリと伝わってくる。
多分、すっごいことされそうなのが簡単に想像できる。
知未さんにもされたことないようなこと・・・。
・・・でも、俺が欲しいのはそんなのじゃないんだ。
それが俺には分かってる。
「・・・ごめんなさい。俺は」
「分かってる。君はそう言うと思ってた」
「え?」
「ごめんね。お仕置きされる羽目にして」
「え?」
「でも、俺、拓未様に世話になってて、どうしても役に立ちたいんだ。だから、ごめん」
「ん?」
星斗には何のことだか、さっぱり分からない。
「星斗!」
中庭からの帰り道、二人を見かけた眞門がすぐそこにいた。
「じゃあ、いつでも連絡待ってるから」
「へ!?」
諒はそう言うと、小さな紙切れを星斗のズボンのポケットに強引に押し込んだ。
「それ、俺の連絡先! さっきの約束忘れないでよっ!」
諒は眞門に伝わる様に声を大にしてそう言うと、星斗に笑顔を浮かべて逃げる様に走り去った。
「・・・はあ!?」と、何かなんだか分からない星斗は呆気に取られたが、怒りに狂った眞門の気配だけはずっしりと伝わってくる。
「知未さん・・・?」
「もう浮気?」
「へ?!」
「そんなにPlayしたかったの?」
「はい!?」
「見損なったよ。俺、信じてたのに、星斗のこと。星斗だけはそういうことしないSubだって・・・」
眞門が悲しみに暮れた顔をする。
「いやいやいや、違いますっ、違いますからっ!」
「分かってたけど・・・Sub性が解放できるようになったら、相手は俺じゃなくても良いってことは・・・でも、ショックだよ・・・」
「なに、言ってるんですか・・・!?」
「じゃあ、なんで、部屋におとなしく戻らず、あいつに口説かれに来てんだよっ!」
「いや、これは・・・っ」
「Shut Up 」
「!」
星斗はCommandに従って、口を閉じた。
マズい。
Dom性の暴走に飲まれて、知未さん、完全に正気を失ってる。
星斗は眞門の怒りに若干の恐怖を覚え始めた。
「星斗がどんな悪いことをしたか? 身をもって教えてあげるよ。まだやり足りないってことなんだろう?」
星斗を見る眞門の目は完全に軽蔑を込めた目へと変わっていた。
ともだちにシェアしよう!