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第41話
雄大から着信が残っていることに気が付いたのは、バイトが終わり、更衣室に入った時だった。
時々、部活終わりに晩ご飯の誘いで電話をかけてくることはあったが、今日は陽がバイトだということも知っていたはずだ。
それに、何度か着信が入っていることも奇妙で、陽は急いで着替えて外に出ると雄大に電話をかけた。
二回目のコールを待たずに、電話は繋がった。
「陽!」
「ごめん、バイトだったから電話出られなくて。どうしたの?」
電話に出た途端、焦った様子の雄大の声が聞こえ、やっぱり何かあったんだと察する。
「陽……悪い、俺、まじでやばいことしたかも」
「やばいって……なにやらかしたんだよ」
「……お前さ、相良のこと、ちゃんと本気なんだよな?」
急な問いかけというよりは、自分が抱く相良への気持ちが雄大に気付かれていたことを知って一瞬言葉に詰まる。でも、遅かれ早かれ雄大には話しておきたいと思っていたから、これを機に話してしまうのがいいだろう。
しかし、一瞬の沈黙を肯定と受け取った雄大は、微かに聞こえる程度の声で呟いた。
「最初は男だぞって思ったけど。……まあ、俺も最近性別なんて関係ないのかもって思ってるよ」
「え?」
「あ、いや。そんなこと話してる場合じゃないな。本題に入るわ」
雄大はすぐに話し出さず、少し間を置いて話し始めた。
「今日、部活向かう途中で相良に会ったんだよ。その時ちょっとだけ会話してたんだけど、俺、お前と美桜ちゃんのことを相良が知ってると思って話しちまったんだよ」
そうだ。相良は美桜のことを知らない。
「でも、なんで美桜が? 俺と美桜は、もう別れたよ」
「そうなんだけど、それを教える前にあいつ走って行っちまったんだよ。……多分、お前と美桜がまだ付き合ってるって、誤解してると思う」
はっとして、今日の保健室でのことを思い出す。相良は、自分を好きだと言ってくれた。
そして、自分も好きだと言ってキスをした。
そんな相手に恋人がいると思ったら、自分だって傷つく。
「俺さ、相良に付き纏う噂を鵜のみにしてたんだけど、今日話しかけた時にあいつ微かに笑っててさ。相良のことはまだ何も知らないけど、きっとそういう表情するようになったのって、陽の影響だと思うぜ。もちろん、お前自身も相良から何かしら影響を受けてると思うけどな」
「俺も?」
「お前、相良の話する時とか、相良と話してる時、俺が見て来た中で一番楽しそうな表情してるよ。親友が言うんだから、間違いないって」
その言葉で、相良と話してた時の自分の気持ちを思い出す。
自分が自分でいられる、居心地のいいあの空間。友達とも、恋人とも違う感覚。きっとそれは、相良と出会って初めて感じるものだった。
それを自覚した途端、目頭が熱くなって、雄大に聞こえないように深く息を吐いて心を落ち着かせる。
「まあ、今回の件は俺が一番悪かったけど……」
「ううん、ちゃんと話さなかった俺が悪い。俺、今から相良の所に行ってちゃんと話してくる。ちゃんと話して、その後に、もう一回想いを伝えてくる」
そう宣言すると、雄大の吹き出す声が聞こえた。
「お前の行動力はほんと尊敬するよ。結果出たら報告しろよ。相良とのことが解決したら、俺も話したいことあるから」
それは、先程の含みのある発言の続きだろうか。
親友の悩み事は早く聞いてあげたい気持ちでいっぱいだが、今は自分の問題を解決することが優先だろう。
「分かった。じゃあ、行ってくる」
「おう。決めてこいよ、ダチ」
側に居ないはずなのに、背中を強く叩かれた気分だった。
駆け足で駅に向かいながら、相良に電話をかける。でも、何度コールしても出ることはなかった。
早く、目を見て、伝えて、抱き締めたい。
好きだと伝えて、この腕で抱き締めたい。
電車に乗っている時間が、いつもより長く感じて落ち着かなかった。
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