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漕ぎ手のヴァン17

 漕ぎ手の仕事はここで一旦終わりとなり、あとは客が戻ってくるまで各々自由な時間を過ごす。船のなかでうたた寝をするものもいれば、夜釣りをするものもいる。漕ぎ手同士でボードゲームに興じることもあるし、ヴァンのように1人夜の海岸を散歩する者もいた。 「ヴァン、今日も散歩か?」  漕ぎ手の1人が船から離れるヴァンに声をかけた。 「うん。今日は風が強いから、北の海岸に何か流れ着いているんじゃないかと思って」 「ヴァンはまた"宝探し"か」 「たまには俺たちとゲームでもしようぜ。外の世界から新しいゲームを仕入れてきたんだ。簡単なカードゲームだよ」 「うん……でも、またにするよ」 「そうか。ああ、そうだ。最近客が男娼を連れて海岸に降りて来ることがあるらしいから、鉢合わせしないように気をつけろよ」 「海岸に?なんでそんなことを……」 「さあ、少し変わった趣味の持ち主なんだろう」 「変わった趣味?」 「ま、世の中いろんなやつがいるってことさ」 ヴァンは首を傾げながら、仲間たちとの会話を切り上げて島へと戻っていった。 仲間が言った「変わった趣味」の意味はよくわからなかったが、この島をくまなく歩き回っているヴァンは人目につかない場所はよく知っている。うっかり人と出会わないように、気をつけて歩くことは、そう難しいことではない。 ーーそれにしても、「変わった趣味」ってなんだろう?  「変わった趣味」に対して思い当たることがなにもないヴァンは、眉間に皺を寄せて考え込みながら北の海岸に向かった。 ゲートキーパーに火を分けてもらったカンテラで足元を照らし、波打ち側すれすれのところを用心して歩いていくと、予想通り普段見ることのない漂着物が次々と見つかった。  靴の形をしたガラス瓶、どこか遠い国のものと思われる硬貨、船の装飾に使われていたと思われる金のレリーフ。それらを春雨のおさがりでもらった巾着袋に拾い集めていく。  ヴァンが知っている”外の世界”は到底美しいとは言えないものだった。いつも煤けていて、うるさくて、臭くて、ひどく暴力的で、いい思い出は少ない。 それなのに、この島に流れ着いてくる”外の世界”のものはどれもこれも美しいものばかり。なんだか外の世界の方が嘘のように思えてしまう。

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