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第11話
体に鈍い痛みと重さが残っている。あんなに求められたのは初めてだった気がする。
隣にはまだ晃成の温もりがあって、薄らと目を開けると自分より年上の男性なのに子供みたいな寝顔をした姿が入り込んできた。
自然と腕が伸び、髪に触れる。
「んっ…隆也、おはよ」
「おはよう。晃成さん」
寝起きの晃成は、眩しそうに目を細めながらも隆也の姿を見つけて優しく微笑んでいる。
僕、こんなに幸せでいいのかな?
大好きな人が目の前にいて、その全てが愛おしくて涙が溢れそうになる。
「隆也、おいで…」
晃成が空いている自分の腕の中に来るよう促すと、隆也はすんなりと頷き身体を寄せていく。
ふわりと包み込まれる腕の中は、とても暖かくて心地いい。
背中に晃成の体温が伝わってきて、思わず包み込まれている晃成の腕に自分の手を絡めた。
そのことに気づいた晃成の腕に力が入って、さっきよりキツく抱きしめられる。
「あのね、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「んっ、どうした?」
「僕が二日酔いだった日、もしかして弘樹と会ったりした?」
ずっと気になっていたことだった。
どうしてあの日、晃成が目を覚ますまで一緒にいてくれたのか、自分がどうやって部屋まで戻って来れたのか、弘樹の言った「普通の恋愛をしろ」という言葉の意味に、晃成が関係しているのかどうかが知りたかった。
「会ったよ」
「もしかして、僕を部屋まで連れ帰ってくれたのは、晃成さん?」
「ああ、そうだよ」
二人はやっぱり会っていた。
だとすれば、弘樹の言葉も何となく腑に落ちる気がした。
「迎えに来てくれたの?」
「当たり前だろ」
「どうやって?」
「電話が掛かってきたんだ。その弘樹って友人から」
晃成からの説明は、こうだった。
ー隆也が潰れた日ー
晃成が会社のオフィスで隆也からの連絡を待っていると、隆也の番号から着信がきた。
「はい」と電話に出ると、
「あの、本木さんの携帯ですか?」
「そうですけど…。どちら様でしょうか?」
「あっ、俺…、隆也の友人で高岡弘樹という者ですが、隆也の奴、酔い潰れちゃって。約束があるって言ってたから、最近電話した中で一番上にある番号へ掛けたんですけど、本木さんで大丈夫でしたか?」
酔い潰れるってどういうことだ?
どちらにしろ、弱いはずの酒を飲んだということに変わりはないはずだ。
「こちらで大丈夫です。どこまで迎えに行けばいいですか?」
「すぐに隆也の携帯から店の情報を送ります」
「よろしくお願いします」
「では、失礼します」
電話が切れると、すぐに店の情報が送られてきた。
会社からそんなに離れていない居酒屋だとわかり、晃成は急いで会社を出ると、車で店まで向かった。
近くの駐車場へ車を停めると、店までの道を走る。
「あの、すみません。知り合いを迎えに来たのですが…」
「本木さん…ですか?」
店に着き店員さんへ尋ねていると、別の方向から晃成の名前を呼ばれ、その方向へ視線を向けると、そこにはスーツ姿の若い男性が立っていた。
「高岡さんですか?」
「そうです。隆也はこっちです」
「はい」
突然の出来事に驚いている店員さんに頭を下げると、晃成は弘樹の後を追うように進む。
ある部屋の前に来ると、完全に酔いつぶれて横たわっている隆也の姿が目に入った。
「あの俺…、早く帰りたいっていう隆也に、日本酒のロックを一気飲みしたら帰っていいとかバカみたいな提案しちゃって…。こいつが酒弱いの知ってたのに、本当に飲んじゃって…。あの…」
「早く帰りたいって、そう言ってたの?」
「はい。約束があるからって、そう言ってました」
「そっか。連絡くれてありがとう。このまま結木を連れて帰ってもいい?」
「もちろんです。久々でつい悪ノリしてしまって、約束破らせてしまって、本当にすみません」
「いやっ、こうなったのは俺にも責任があるから」
横たわっている隆也へ歩み寄ると、晃成はそのまま隆也の身体を横抱きする。
「それじゃあ、失礼します」
晃成は弘樹に軽く頭を下げると、歩き出した。
これが、晃成からの説明だった。
「そういうことだったんだね」
「何か言われたりしたの?」
「ううん。そういうわけじゃないんだけど、気になっていたから」
「まあ、完全に潰れてたしね」
「もう…、意地悪」
隆也が少しだけ頬を膨らませて見せると、「可愛い」なんて言いながら髪に軽くキスを落とされる。
擽ったくて身体が縮こまると、元の位置に戻されてしまう。
「もう少しこのまま抱きしめていたいんだけど、いい?」
晃成の問いかけに隆也が静かに頷くと、抱きしめられていた腕がさっきより少しだけきつくなったのを感じる。
ふわりと柔らかく包み込まれるような感覚に、隆也は胸がドキドキした。
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