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第6話
「柊、久しぶり」
もう二度と会うことはないと思っていた。
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金曜日。
同じ学部の田村から、飲み会に誘われた。
田村は学年も年齢も一緒だ。
田村は二浪してこの大学に入学した。
田村は社交性が高く、入学してすぐ年下の同級生ともあっという間に打ち解けた。
必要最低限の会話しかしない僕とは真逆だ。
それなのに何故か気が合い、大学内では行動を一緒にすることが多い。
そんな田村が参加しているゲームサークルの飲み会に誘われた。
小さな居酒屋を貸し切って開催する予定らしいが、思っていたほどメンバーが集まらなかったらしい。
「頼む!あと最低1人集めてこいって言われたんだけど、どうしても見つからないんだ。柊、お前だけが頼りだ。お前の分は半分俺が持つから、この通り」
大学では彼に助けられることが多い僕は、切羽詰まった田村から手を合わされたら断りづらい。
「家の人に確認していい?それでダメだったら、ごめん」
「うんうん。それでダメだったら諦める」
渋々、僕は創士様と連絡が取れそうなお昼の時間帯を待って電話を掛けた。
『はい。柊、どうした?』
3コールで繋がった創士様は、いつもと変わりなく優しい声で僕に尋ねた。
「あの、友人に飲み会に誘われて……。人数が足りない様で、顔だけ出して欲しいと」
『……柊は参加したいのかい?』
「わかりません。参加したことがないので…。ただ、大学でお世話になっている友人からの頼みですので、僕にできることがあるのなら協力はしたいと思ってます」
チラリと僕の隣で拝んでいる田村を見る。
手を合わせて口パクで「頼む」と言う必死な姿にクスリと笑ってしまう。
『……そうか。わかった。行っておいで』
「えっ?」
『ただし、柊は酒に強くないから飲み過ぎない様に。あと、何かあったら、俺に気を遣わずすぐ連絡をしなさい』
「はい」
クスリと小さく笑い声が聞こえ、『楽しんでおいで』と創士様は言って電話を切った。
「……柊?」
「OKだって」
「…マジで?」
「でも、僕お酒弱いからグラス一杯しか飲まないけど大丈夫?」
「うんうん。お前に飲ませない様に俺が阻止するから」
「うん。じゃあ参加するよ」
「柊、ありがどぉ」
田村が僕に抱きついてきた。
創士様以外の人間の体温は少し居心地が悪かった。
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