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優雅な街店
『キャァァ!!助けてーーーーッ』
美しい夕焼けをまるまる映したような石畳が続く街店、すぐ隣にはオレンジに煌めく海。
優雅で上品な街並みは夜に向けて、徐々に賑わいを増していた。
この街は露店が多く観光の町として有名だ。
特に、夜になるとあちこちにぶら下げられたカンテラが点き酒屋が盛んになり、
この辺に住んでる大人や観光客はこの地でしか手に入れられない秘蔵のお酒やら魚やらを楽しむ時間が始まる。
そんな平和な街店から切り裂くような悲鳴が聞こえ、客は先程まで採りたての果物や色とりどりの珍しい花に向けていた目を声の主へ向ける。
「___っ!あれは、」
赤々とした実や棘の皮で包まれた実がゴロゴロ入ったバスケットを蹴っ飛ばし、桃色の花をつけた鈴に似た花を踏みにじって人混みをかける姿。
それは、その正体は_
「泥棒よ、また例の”吸血鬼”だわ!」
「何ッ、それは大変だ!!吸血鬼が出たぞー!!!最近この街に出没するという獰猛で悪質な”吸血鬼”が!!!!」
「悲鳴聞こえてからそう経ってねぇ、まだ近くにいるはずだ!気をつけろー!」
腕っ節の強く怒らせたら手がつかない魚屋がそう叫んだ。
活きの良い呼びかけが続いたが、”吸血鬼”が姿を現さないと暫くして静まり、街はまた優雅さを取り戻した。
「はーぁ……危ねぇ。久々に派手にやらかしちった」
一番店を荒らしてしまった果物屋と花屋は今頃相当怒っているだろうな……
花屋の店主は普段はおっとりしていて滅多に怒らないが、一度キレると相当やばいらしい。
果物屋は男勝りであの魚屋ですら口喧嘩で勝てたことが無い。
「ふふん、悪いな、果物屋。今日は酸っぱい果実にかぶりつきたい気分だったんだ〜〜」
まさか自分を噂の”吸血鬼”だと夢でも思わないのだろう、盗んだ柑橘類をねじ込んでこんもり膨れたパーカー姿で歩いていても全く不思議がられない。
そうしていつも通り上手くいき、小声で鼻歌交じりでパンの配給をしているワゴンに向かった。
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