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火霊流し大会
「はい、今日の分のパンだよ。明日もまたおいで」
「うん!ありがとう」
精一杯の無邪気な笑みを顔に浮かべ、礼をする。
数分前も違う服装でパンを取りに来たことなんて気づかないのか、本日だけで3回目だ。
パン売りのおじさんはそんな俺の演技に気づかず、ニッコリ微笑んで次の子供へのパンを掴んだ。
よしっ、フルーツにパン、あと昨日残したスープが一杯。
ふふん。今日は相当なご馳走だぞ〜
俺はこの日をずぅっと楽しみにしていた。
大好きでいつもはお椀並々によそう『薬草とかき玉スープ』を今週は半分に我慢して
毎週水曜日にパンにおまけで付いてくるブルーベリーのジャムも我慢した。
何故なら、今日は年に二回しか見ることの出来ない『町内火霊流し大会』の日だからだ。
丈夫な木の皮で出来た小舟に、お菓子やらお供え物のをして願い事を書いた紙を添えて、海に流す。
小舟に付いた台に蝋燭を立てて、火を灯して流すから火霊流し大会。
黒い海の上を滑るように揺らぐオレンジ、その景色は確かに思わず見蕩れるほど魅力的で美しい。
その景色を見ながら食べるご馳走……まぁ普段の残りの事だけど、それでも一流レストランで出てくるコース料理のようにさえ思えた。
それに、何より、小舟に乗せたお菓子をこっそり盗むのが何よりの楽しみだった。
「さぁーてと!今日はこの辺にして帰ろ」
『聞いた?また吸血鬼が……』
ふと、近くで話していた声が聞こえた。
”吸血鬼”、ねぇ。
ハハ、そんなの実在するわけないじゃん。
いや、もしかしたら実在するのかもしれないが、とにかく奴らが言っている泥棒は吸血鬼なんてものじゃない。
だって、皆が吸血鬼だと呼び恐れているのは紛れもなくこの俺だからだ。
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