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吸血鬼の正体
街の奴らが吸血鬼だと恐れているのは紛れもなくこの俺だ。
赤茶の髪に真紅の瞳と鋭い八重歯、そしてこの圧倒的軽やかな動き。
この街では貧しい子供たちが多く、見目がある程度整いっていれば運が良ければ裕福な婦人に拾われ、そうじゃない奴らは路地裏で過ごす。
俺もそのそうじゃない奴らの一人だ。
だからこの街で餓死や貧血で死ぬ子供なんて元々珍しくなかった。
それでもここ最近は特に死亡率が高いのだろう、そういう事で俺が盗みで荒らした時は決まって『吸血鬼が出た』と大袈裟なくらいに騒がれるようになった。
まぁこの俺が盗みでヘマをする事なんて早々無いんだけど。
つまり、奴らが吸血鬼だと騒ぎ喚いてるヤツはただの泥棒。
そうとも知らず居るはずのない幻想の妖怪に怯えてる、なんて滑稽なことなんだろうか。
「ふふん。この俺こそが紅蓮に染まりし大泥棒!盗めないものなんて無いのさ」
「…それほんとう?」
「!?」
鼻歌交じりにスキップしているとふと脇道からか細い声が聞こえて大袈裟に飛び退いた。
誰もいない、と完全に油断をしてフードも手袋も外していた。
しかもあんなに大声で名乗ってしまって、聞かれてはいないだろうか。
「……ね、なんでも盗めるって、ほんとう?」
バッチリ聞かれていたな。
返事をしないでいると聞こえてないと思ったのか、もう一度箱の中の少年は繰り返した。
「ゴホン……あぁ、そうさ?」
「じゃあ、盗んで」
「いいよ。なにを盗んでほしいんだい?」
軽い気持ちで返した。
きっと子供が言うことだ、お腹いっぱい分のパンとかミルクとかオモチャだろう。
今からパン屋のワゴンに戻るのは少し面倒だけど、それくらいで黙っててくれるなら……
「ボク」
「……へっ?」
だから想定外も想定外。
初めて頼まれたそれに思わず情けない声が漏れた。
「ボクのこと、盗んでほしいんだ。赤髪のおにいさんに」
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